有名eスポーツ団体 Faze Clan の評価はなぜ地に堕ちたのか。元従業員たちが語る内部紛争

DIGIDAY

業界を代表するeスポーツ団体Faze Clan。同社の資金面やカルチャー面の問題がこの数カ月でにわかに注目を集めはじめた。その結果、マーケターがFaze Clanとの仕事にますます慎重を期するようになっている。

何年もの間、Faze Clanはeスポーツのブームに乗り、マクドナルド(McDonald’s)や日産といった有名ブランドと提携を結んだ。しかしながら、Faze Clanが2022年7月に特別目的買収会社(SPAC)と7億2500万ドル(約1015億円)の合併を経て上場してからというもの、同社のイメージは大きく損なわれている。

Faze Clanの株価は2022年8月に24.69ドル(約3456円)の高値をつけたものの、「2022年の損失が5300万ドル(約74億円)」という報道を受けてから、50セント(約70円)を下回る下落を見せている。創業者の一部には、リチャード・ベンストン氏(ハンドルネーム:フェイズ・バンクス)やノーダン・シャット氏(ハンドルネーム:フェイズ・レイン)といったクリエイターのように、同社の経営不振と戦略失敗を公然と批判し、ゲーミング界の女性に対する性差別的コメントを告発した。

たとえば、女優で同団体のストリーマーでもあるグレース・バン・ディエン氏に関する女性蔑視発言もその一例だ。加えて、Faze Clanは2023年に2回レイオフを実施しており、5月には従業員の40%、80人もの人材が解雇されている。Faze Clanの従業員の明確な数字はわからないが、2023年初頭に200人ほどいた従業員は大幅に削減されたのは間違いない。

特有のエッジーさがマイナスに

Faze Clanの問題が明らかになるにつれて、マーケターのなかには同社から手を引き始めたところもある。2023年1月にナイキ(Nike)、ポルシェ(Porsche)と提携を発表して以降、大手非エンデミック(ゲーム分野以外)ブランドとの新たな提携話は出ていない。2022年の同時期には新しいブランドの提携を7件発表しており、ディズニー(Disney)やナショナルフットボールリーグ(NFL)といった大手非エンデミックブランドも含まれていた(なお、2023年には、ケーブルテレビ/情報通信最大手コムキャスト[Comcast]、大手食品会社ゼネラルミルズ[General Mills]、ライフスタイルブランドのゴースト[GHOST]、ゲーミングデバイスメーカーのスティールシリーズ[Steel Series]の4ブランドとの提携も更新している)。

eスポーツ界最大手の一角を担うFaze Clanは、ブランドとの提携がもたらす収益に依存しすぎるほど依存しており、ブランドの取引低迷はFaze Clanにとって決して好ましい兆候ではない。ブランド提携はFaze Clanの収益の大半を占めるが、2022年の収益は前年比38%増で、ブランド提携の収益は70%増を見せた

「もし顧客から、今eスポーツで戦略的な取り組みを始めるのなら、どの分野がお勧めか、と尋ねられたら、評判をはじめ、ビジネス上の問題を考えると、Faze Clanを勧められることはないだろう」とエージェンシーのプリズムスポーツ・アンド・エンターテインメント(Prism Sport + Entertainment)でゲーミングとeスポーツの責任者であるグラント・パターソン氏は話す。

「エッジー」さはFaze Clanの真骨頂だ。創業者たちは当初、不遜でしたたかな様子を前面に出して、評判を煽り、ファンダムを構築した。しかしその結果、何年もの間、暗号通貨詐欺ホテル客室器物破損性的不適切行為「カウンターストライク(Counter-Strike)」ギャンブルといった数々の物議に巻き込まれることになった。

2023年までは、Faze Clanがスキャンダルを起こしても、そのせいでブランドが提携を躊躇することは一切なかったようだ。この数年、ブランドとマーケターがゲーミングオーディエンスにリーチする最善策を見極めるために注目していたのは、ほぼ数字だけ。Faze Clanには必要な数字がすべてそろっていた。なにせSNSに何億人というフォロワーを有していたのだから。

危険だらけのブランドセーフティ

しかし、ブランド各社でゲーミングやeスポーツ人材の内製化が進み、ゲーム業界専門(エンデミック)のマーケティングエージェンシーとの取引が増加すると、それまでは一部のコアなeスポーツファンしか知らなかった問題が、多くの人の目に留まるようになった。

「Faze Clanはマクドナルドと取引があるだろう? 狙いは単に数字だ」。そう話すのは、マーケティングエージェンシーAFKのCEOマシュー・ウッズ氏である。「パートナーがPRのリスクやFaze Clanのコミュニティで取りざたされている問題をこれまで以上に意識するようになれば、Faze Clanは痛い目を見ることになるだろう」。

メインストリーム参入時にFaze Clanが直面した厄介な問題で、特にウッズ氏が指摘するのはグレース・バン・ディエン氏の件だ。Faze Clanと契約した5月25日からわずか数日後、公式な契約を交わしている状態ではあったが、同氏は自身のTwitterのプロフィールからFaze Clanを外したとみられる。Twitchのストリーマーで、ドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界(Stranger Things)」のクリッシー(Chrissy)役を演じたバン・ディエン氏が加わると、その流れに水をかけたのが、Faze Clan創業者のひとりで、記事冒頭で紹介したクリエイターのシャット氏だ。

バン・ディエン氏に参加資格があるのかと疑問を呈し、否定的な意見を展開した(これに関して、バン・ディエン氏にコメントを求めたが、同氏から回答はない。シャット氏がバン・ディエン氏を批判したものの、Faze ClanはTwitterの公式アカウントで、バン・ディエン氏に対する支援メッセージを投稿した。また、同社広報は、米DIGIDAYへのメッセージで、彼女に対する支援を繰り返し強調している)。

Faze Clanの「エッジー」さは、Faze Clanの若い男性オーディエンスの多くにとって魅力のひとつだが、バン・ディエン氏の契約のような物議は、大手ブランドとの提携を狙う同社にとって責任問題になりかねない。2023年に消費者の社会意識が高まるなか、こうした企業の多くがブランドセーフティを特に重視しているからだ。

eスポーツ界の裏側を熟知するコンサルタントのロッド・ブレスラウ氏(ハンドルネーム:スラッシャー)は、「インターネット利用者はワルに魅力を感じる。そもそも、毒やエッジーがあると注目されるし、刺激になる」と指摘する。「とはいえ、Faze Clanをはじめとして、多くのeスポーツ企業がメインストリームに参入しようとしている今、これはもはや業界全体の問題である」。

パブリックナラティブ――オーナーたちの言い分

この数か月、ベンストン氏やシャット氏など、Faze Clanの創業に携わったクリエイターたちは同社の問題について公表し、「フェイズの意思決定権は、この組織を構築したクリエイターからもぎ取られ、血も心もない経営陣のいいようにされている」と訴えている。ベンストン氏とシャット氏の両者は、Faze Clanの株を何百万株も所有しており、オーナーシップグループのメンバーでもある。このグループには、創業者のクリエイターに加え、同社の役員や、ラッパーのスヌープ・ドッグなど有名人も含まれる(なお、ベンストン氏とシャット氏にコメントを求めたが、回答はなかった)。

創業者の辛辣な発言にもかかわらず、Faze Clanの株価低迷は同社のゲーミングオーディエンスにとって大きな懸念材料ではない。マーケティングのデータと戦略を専門とするマテリアル(Material)がSNSのセンチメントデータを分析したところ、2022年1月から2023年5月にSNS上で交わされたFaze Clan関連のやりとり19万3000件のうち、同社の社会的立場や経営状況に関して触れているものは0.43%にすぎなかった。

しかし、Faze Clanのお飾りクリエイター・オーナーたちが、同社の方向性について公の場で苦言を呈し続けるうち、ファンも次第に、同社が抱える問題の深刻に気づき始めてきた。米DIGIDAYは、2023年のFaze Clan失墜につながる一連の経営判断に対する理解を深めるために、7名のFaze Clan元従業員から話を聞いた。なお、そのほとんどがFaze Clanの報復を恐れて匿名での取材を求めた。

元従業員が異口同音に指摘したのは、創業者たちの意見を一部鵜呑みにした経営陣の誤った経営判断だ。しかし彼らは同時に、創業者たちは、2022年株式上場の決断をはじめ、経営陣の判断の多くに加担していたとも力説した。

株式上場の決断に関して裏で糸を引いていた人物のひとりとして、5名の元従業員が名指ししたのがリー・トリンク氏である(2018年9月のFaze ClanCEO就任前には、キャピトル・レコード[Capitol Records]やヴァージン・レコード[Virgin Records]のような音楽企業で役員や社長を歴任した)。ただし、Faze Clanの広報が米DIGIDAYに話したところでは、上場の決断は当時の役員会が下したものだと回答している。

役員は会議で怒鳴り散らし、責任逃れ

元従業員は皆、Faze Clanの役員会で圧倒的に大きな力を握っていたのはトリンク氏だと思うと口を揃えて答えた。友人の雇用もそのひとつで、たとえば以前チーフストラテジオフィサーを務めていたカイ・ヘンリー氏は、エンターテインメント企業プロスペクト・パーク(Prospect Park)でトリンク氏と働いていた(トリンク氏とヘンリー氏には本件に関して直接問い合わせをしたが、両氏とも本記事発行前に回答はなかった。また、Faze Clanの広報は、トリンク氏による縁故採用に関して完全に否定したうえで、一部には、トリンク氏が以前社長を務めていた企業で働いていた人物がいるものの、雇用の判断はあくまでも経験と資格を踏まえたものだと回答している)。

元従業員は、収益改善に向けた役員の計画について透明性に欠けている点に不満を抱いていた。たとえば、特段の利益がもたらされないにもかかわらず、スヌープ・ドッグのような有名人に、法外な株式(ほぼ30万株)が譲渡されるというのはいかがなものかと指摘する人たちもいた。また何人かは、SPAC合併時に四半期の損失が公表されて、具体的な損失額を知り(2022年には1910万ドル[約26億円]におよぶ)、その額のあまりの大きさにショックを受けたと話した。

元従業員が称するに、トリンク氏が率いるFaze Clanの経営は、およそプロらしくないという。会議中に役員が怒鳴りあったり、部下があくせく働くなか、いざというときに自分のせいではないと言ってのけたりしていた。Faze Clanの広報は、こうした意見を否定し、それどころか、同社は非常にやる気のあるプロフェッショナル集団だと述べた。

最終的には6名の元Faze Clan従業員が、ブランド提携やコンテンツ部門に直接悪影響を与えたのは同社役員の行動だと言及した。2019年と2020年にはブランド提携もコンテンツもうまくいき、最高収益が計上できたが、この2年の成功を受けて、役員は2022年上場計画に踏み切ったのだ。

「コスト管理ができず、実力以上のことをやっている」

「個人的には、Faze Clanの主な問題は、コストを管理できておらず、実力以上のことをやっている点だと思う」。そう話すのは、エージェンシーのストライブ・スポンサーシップ(Strive Sponsorship)でマネジングディレクターを務めるマルフ・ミンズ氏だ。

「収益に関しては、スポンサーなどのルートを使っていてもいなくても、Faze Clanほど成功していないeスポーツチームは山ほどある。でも、収益が高くなくてもFaze Clanほど困らない。それほどコストをかけていないからだ」(Faze Clanの支出の多くは、抱えている大勢の有償インフルエンサーやクリエイター、ライバルゲーマーたちに支払うものだ(シャット氏は最近の動画で、Faze Clanがeスポーツチーム全体にかけている予算は毎月70万ドル[約9800万円]に及ぶと明らかにしている)。

Faze Clan元従業員は決して幹部役員全員が悪いわけではないと話した。7名中3名が、同社にとってよい仕事をしていると思う役員として挙げたのは、エリック・アンダーソン氏だ。Faze Clanでeスポーツを統括していたアンダーソン氏は、2023年5月、同社のプレジデントに昇進している。同氏にコメントを求めたが、回答はない。

TSMでアパレル担当バイスプレジデントを務めるエリック・マリーノ氏いわく「まさに沸騰状態。絶えず熱湯が飛び散っていた」。同氏は2019年から2021年までクリエイティブ・ディレクターとしてFaze Clanで働いていた。「でも、エリック・アンダーソンなら……リーが辞めて、というか、本当にリーが出ていくのであれば、アンダーソンならもっと皆の声を聞くと思うし、eスポーツであれCS:GO[人気のeスポーツタイトル『カウンターストライク:グローバルオフェンシブ』の略]であれすべての精神を守ってくれるだろう」。

全体責任

クリエイター・オーナーの話を聞くと、同社の経営不振の責任がトリンク氏をはじめとする経営陣にあるのは間違いないが、現在のトラブルの責任は創業者たちにもある。

SPAC合併のような動きを最終的に決断したのは経営陣だが、米DIGIDAYが話を聞いた7名の元Faze Clan従業員のうち6名は、Faze Clanの創業者たちも内々では決断を承諾していたと話した。反対の声をあげたのは、上場の失敗が明らかになってからだという。

元従業員によると、クリエイター・オーナーは何十万ドルもの給料を得ており、そのうえブランド提携の収益で何千ドルも稼いでいるという。だからこそ、たとえFaze Clanが経営不振でも、同社との関係は彼らにとっておいしいのだ。Faze Clanのクリエイター/創業者らと、彼らのゲーミングコミュニティの詳細な情報が、創業時の成長の大きな推進力になったことは間違いない。

しかしそれは同時に、Faze Clanが今抱えているブランドセーフティの問題につながる、有害なカルチャーの根源でもあった。経営陣は、クリエイター・オーナーが創りあげたFaze Clanというブランドをしっかりと理解していなかったのだ。ただ、創業者にしてみても、ブランドにとってより安全なビジネス環境を整えるために、節度ある行動をとらなかったと言える。クリエイター・オーナーと経営陣の間にあるこの隔たりのせいで、Faze Clanは実力以上に手を伸ばすことになったのだ。

「何であれ、育てるには皆の力が必要だというじゃないか。同じように、何かを壊すときも皆の力が必要。つまり、全体責任だ」と匿名の元Faze Clan従業員が語気を強める。「特に罪が重いとは言わないまでも、創業者にも罪がある。考えてもみてほしい。自分はふんぞり返って何もせず、代わりに下々の者を働かせていたのだから」。

[原文:Why marketers are pulling away from FaZe Clan as the esports org’s struggles take center stage

Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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