異論も出る「サイドローディング」問題 ほか【中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」2023/6/15~6/21】

INTERNET Watch

1. 異論も出る「サイドローディング」問題

 政府は「デジタル市場競争会議(第7回)」を開催し、「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」を公表した(ケータイWatch)。スマートフォンのアプリストアやOSなどの環境に関して市場を分析し、そこから「目指すべき姿と対応に向けた基本的な考え方」を総括している。スマートフォンの市場はアップルとグーグルによる寡占状態にあり、その上でソフトウェアやサービスなどを提供する事業者にとって不利な状況が生じていないかなどを個別に検証し、それぞれの対応を検討している。

 このなかで、多くのメディアも報じたのがiOSのアプリストアの縛りを解こうという点だ。つまり、アプリをインストールする場合、OSの提供者が用意するアプリストアだけでなく、第三者の事業者にもアプリストアが営めるように代替経路を開放する「サイドローディング」といわれる部分だ。OSの提供者がアプリストアを独占することで、決済における手数料の競争がなく、また、課金方法も定められているため、多様な料金プランやサービスを提供できないという指摘があった。それを解消するために「一定規模以上のアプリストアを提供する事業者が、開発者などに対し、自社の決済・課金システムの利用を任意のものにすること」などが示された。

 OSの提供者が市場に対して大きな影響を持つことは明らかだが、このサイドローディングを認める案については異論も多く出ている。

 例えば、ジャーナリストの西田宗千佳氏は、Impress Watchの記事「政府のアップル・グーグル規制は本当に“競争促進”になるのか?」で、重要なのは「サイドローディング」ではなく「決済解放」だと指摘する(Impress Watch)。そもそも「アプリストアが複数存在可能で、サイドローディングが可能なAndroidでもGoogle Playがアプリストアを寡占しているわけで、わざわざサイドローディングを許可させても、寡占状況に変化は出ないだろう」とその実効性に疑問を呈する。

 また、ジャーナリストの石川温氏はCNET Japanの記事「政府の新方針『アプリストア開放義務化』–iPhoneを危険に晒すだけで利点ゼロの可能性」で、「国民のスマホを危険にさらす内容」となっていると指摘している(CNET Japan)。アプリストアは配信をする前に、そのアプリの「健全性」について審査をしているが、第三者の営むアプリストアがこれまでと同じような審査を行なって、さらに安価な手数料を設定できるのかどうかも疑わしく、結果として、おざなりな審査となり、ユーザーのスマートフォンやプライバシーなどが危険に晒されることにならないのかという懸念を指摘する。

 巨大市場を形成するモバイル市場が公正な市場として維持されるにはどうあるべきかはOSの提供者とソフトウェアやサービスの提供者の契約の問題ではなく、ユーザーも含めた問題として認識すべきだろう。

ニュースソース

  • 政府「iPhoneもサイドローディング対応を」、モバイル市場の寡占解消へ向け[ケータイWatch
  • 政府のアップル・グーグル規制は本当に“競争促進”になるのか?[Impress Watch
  • 政府の新方針「アプリストア開放義務化」–iPhoneを危険に晒すだけで利点ゼロの可能性[CNET Japan

2. ドコモが新料金プランを発表

 NTTドコモは、携帯電話の新料金プランとして「eximo(エクシモ)」「irumo(イルモ)」を発表した。

 発表によれば、「新料金プラン『irumo』が通信量が少なく、料金を抑えたい人に向けたものと位置付ける。また、『eximo』は、既存の『ギガライト』『ギガホ』を融合させたような料金体系で、使わないときは料金を抑えつつ、大容量かつ使い放題に適したプランに仕上げられている」という位置付けだ(ケータイWatch)。

 ahamo(アハモ)は2021年3月の提供開始以来、およそ2年2カ月で500万契約を突破したとも発表されている(ケータイWatch)。さらに、グループ再編にともなうサービスの整理にあたり、よりファミリー感のある名称にそろえたともみえる。ただし、名称の覚えにくさやそれぞれのメリットなどの「新料金プランがわかりづらい」という受け止めをしている人もいるようだ。こうした点が吉と出るか凶と出るか。

 なお、「ギガホ」「ギガライト」各種プラン、エコノミーMVNOでの「OCN モバイル ONE」の取り扱いを終了する(ケータイWatchケータイWatch)。

ニュースソース

  • ドコモ、新料金プラン「eximo」「irumo」を発表[ケータイWatch
  • ドコモの新料金プラン「irumo」「eximo」はサブブランド? なぜこのタイミング? 質疑応答で語られたドコモの考えとは[ケータイWatch
  • ドコモ、「ギガホ」「ギガライト」各種プランの新規受付を終了へ[ケータイWatch
  • ドコモ、エコノミーMVNOでの「OCN モバイル ONE」取扱終了へ[ケータイWatch
  • ドコモ、「ahamo」の契約数が500万を突破[ケータイWatch

3. マイクロソフトの「Azure OpenAI Service On Your Data」は面白そう

 マイクロソフトは、ChatGPTに任意のドキュメントなどを読み込ませることで、そのドキュメントに基づいた回答を自然言語で得られる新サービス「Azure OpenAI Service On Your Data」のパブリックプレビューを公表している。マイクロソフトだけに、企業内に向けたソリューションとして面白いソリューションだ。これを使えば「社内規約や社内マニュアルなどをChatGPTに読み込ませると、『PCの修理を申し込むための社内手続きは?』といった、汎用の知識だけしか持たない従来のChatGPTでは答えられない質問にも回答できる」ようになるというわけだ(Publickey)。生成AIを導入する動きが大手企業をはじめとして進むなか、こうしたソリューションはより多くの企業で利用できる可能性を感じる。

ニュースソース

  • マイクロソフト、ChatGPTに任意のドキュメントを読み込ませて回答を得られる「Azure OpenAI Service On Your Data」パブリックプレビュー開始[Publickey

4. 社内AIの活用成果が続々と報じられる――その一方で……

 ライオン、三井住友ファイナンス&リース、日本管財ホールディングスらが社内向けの生成AIの導入を実施したと報じられている(ダイヤモンド・オンラインZDnet JapanIT Leaders)。6月5日のこのコーナーでは、DNPグループ、KDDI、ソフトバンクが社内向けに利用始めたことを紹介した。大手企業が続々と応用を試みている。

 日経XTECHの記事では、これ以外の大手企業の取り組み事例を紹介している(日経XTECH)。

 一方で、「ChatGPTなどの生成AIの活用を検討している企業の4分の3近くが、具体的な活用イメージが湧かない」という調査結果も出ている。これは帝国データバンクが1380社に対して行った調査によるもので、「生成AIを業務で活用している、または活用を検討している企業は合わせて61.1%にも上る一方で、活用を検討している企業(52.0%)の4分の3近く(全体の37.8%)が、現時点では活用イメージが湧かないと回答した」という(INTERNET Watch)。

 また、PwC Japanグループは「2023年 AI予測調査 日本版」の調査結果を公表した。「日本は米国と比べてAI活用が遅れている一方、生成AIの活用意欲は高い」という。また、「生成AIの利用に対するリスクとして、日本の企業では『品質の不安定さ(酷似した者や非常識なアウトプットの生成など)』『高いコスト』『プロセスのブラックボックス化・責任の所在の不明瞭さ』『フェイクコンテンツ』が上位に挙がり、導入前の技術面のリスクを感じている」と指摘している(ZDnet Japan)。

ニュースソース

  • ライオンはChatGPTをどう活用?業務効率化「3つのポイント」を大公開[ダイヤモンド・オンライン
  • 三井住友ファイナンス&リース、社内問い合わせ対応のAIチャットボットを刷新–利用料を85%削減[ZDnet Japan
  • 日本管財グループ、対話型AI「NK-AIbot」を開発、社員1900人に向けて運用開始[IT Leaders
  • ChatGPTなど生成AIの「活用を検討」も「イメージ湧かない」企業、4分の3に上ると判明[INTERNET Watch
  • 生成AIがDX推進の起爆剤に–PwC Japan、「2023年 AI予測調査 日本版」[ZDnet Japan
  • ChatGPT社内導入 国内勢も変革に確信[日経XTECH

5. AIへの意欲語るソフトバンク孫正義氏

 ソフトバンクグループの定時株主総会には代表取締役会長兼社長執行役員の孫正義氏が登壇した。2022年11月の決算発表を最後に、決算会見には登壇しないと宣言していたこともあり、今回、何を語るのかは注目されていた。

 孫氏は「ソフトバンクグループのこれからについて『いよいよ反転攻勢』とコメント」をし、「AI(人工知能)をそのカギになる存在」と位置付けた。また、成長を続けるAIに対しての規制については、自動車になぞらえて、「自動車に速度などの規制があるように、AIについても、間違った使い方をしないような規制は導入される必要がある。一方、行き過ぎた規制もよくない。AIの進化を止めないことを前提としつつ、無軌道な成長にならないよう方向修正しながらやるべき」と語った(ケータイWatch)。

 さらに、「『AIが単なる道具で終われば、数%の人に悪用されるかもしれないが、AIは単なる道具ではない』とし、AIが知性だけでなく理性を持ち、AI自らがAIを律する存在となることで、災いを防げる」ともいう(CNET Japan)。

ニュースソース

  • AIへの意欲語るソフトバンク孫氏「実は大変忙しい」[ケータイWatch
  • AI規制「私も賛成」とソフトバンクG孫正義氏–「反転攻勢は近い」とも強調[CNET Japan

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