ワグネルの反乱はロシアの二・二六事件となるのか?

アゴラ 言論プラットフォーム

プリゴジン氏率いるワグネルがロシア軍に対して反旗を翻し、モスクワに向け、蜂起しました。ロシア隣国、ベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介役となり、これを書く24日早朝の時点ではプリゴジン氏は自軍に原隊に戻れ、と指示をしているようだ、と報じられています。

本件、今だに情報が錯綜しているので細かい動きについては無視しますが、5月のプリゴジン氏が見せたバフムトからの撤退の示唆は同氏とロシア軍部、ひいてはプーチン氏との隔たりが明白かつ、緊迫したものであったことを裏付けています。5月6日付の本ブログではプリゴジン氏の動きを受けて「感覚的に転機を迎えているように感じている」と述べさせていただきました。

Serhii Ivashchuk/iStock

戦争遂行では司令部(大本営)が一枚岩になれるかが大きな意味を持ちますが、今回の動きは岩の裂け目が大きくなり、二つに割れる直前にある、と言う表現が一番わかりやすいと思います。

そこで思い出したのが日本の二・二六事件です。若い方には名前すら記憶にない、と言う方も多いでしょう。多分、学校では教わらないと思うのでなお更、知る術がないと思います。この事件は戦前日本における極めて重要な、そして、日本がその後、戦争にまい進したきっかけとなる歴史的クーデターです。当時の首相、岡田啓介は義弟と間違えられ、難を逃れましたが、高橋是清、斎藤実など要人が殺害されました。その後、天皇の指示があり、鎮圧、降伏したものです。事件そのものは数日間でしたが、その後の日本を決定づけることとなります。

この事件の背景は軍部が天皇親政のもと国家改造を目指す皇道派と陸軍の中枢が政治、経済を動かすべきとする統制派と分かれていたことが原因で、この事件後、日本は民主主義が消え、統制派が政府を牛耳ることとなり、軍部主導となります。最終的には統制派の最後の大物となった東条英機が登場し、戦況は引き返せない状態となります。

この話、よく考えると幕末の動乱における佐幕派と討幕派の戦いと同じで、会津や水戸の幕府軍、一方は京都を守る薩摩と土佐、第三極だった長州藩の三つ巴が、驚愕の薩長連合となり、鳥羽伏見の戦いで徳川が滅びる話と重なるものはあります。

では今回のブリゴジン氏の反逆は何なのでしょうか?二・二六事件と比較することは正しいのか、であります。これを重ねること自体がお前は「全然理解していない」との指摘があると思いますが、共通項はあるはずです。全部が重ならなくても一部の重複はその将来を予見するには意味があることだと考えています。

プリゴジン氏の不満は露軍の指揮系統とその希薄な戦略にあるとみられます。代弁するならば「戦争しているのに政権に緊迫感がない」であります。一方、昨日、蜂起し、モスクワまで200キロまで迫ったという話が仮に正しいとすればその進軍に於いてほぼ無抵抗だった点が衝撃であります。仮に、ルカシェンコ氏の仲介がなければもっと緊迫感が生じていたともいえ、ロシア軍部の厭世観は相当なものであることをほぼ証明したとみています。

ブリゴジン氏は今回についてはルカシェンコ氏の仲介に「無血の合意」をしたと述べていますが、、自分を有利に持っていく打算が働いたとみています。江戸の「無血開城」も「無血」に意味があるのです。

では、問題はここからです。仮に二・二六事件と重なるとすれば蜂起は数日、ロシアの場合は1日で収まっていますが、その衝撃は大きく、歴史的転換点となるはずです。

一部にはワグネルにそれほどの力はないのでは、という一部の意見ですが、それは解釈を間違えていると思います。そもそもロシア軍部にプーチン氏への絶対服従を誓っている人がどれぐらいいるかであります。ウクライナを攻めるロシア軍の一部にもかなりへっぴり腰な部隊もあるようで、きっかけさえあれば忠誠がボロボロと剥がれてしまう希薄さがあるとみています。戦国期や江戸時代に農村民や町民に刀や鉄砲を持たせたようなものです。

とすれば可能性としてはワグネルのように雇われて金の力で戦争をする傭兵組織、戦争はまっぴらごめんだとするロシア軍の一部、そして国軍としてプーチン氏を中心とた軍部の3分裂の可能性は否定できないのではないでしょうか?とりもなおさず、今、彼らが直面しているウクライナとの戦いどころではない、ということになります。下手をすればロシア軍総崩れが起きかねないでしょう。

プリゴジン氏は二・二六事件でみる統制派であり、それに対して皇道派は国軍でプーチンに表面上、忠誠を誓っています。歴史が重なるなら統制派が有利になる一方、皇道派は統制派の首謀者であるブリゴジン氏を暗殺する計画は当然打ち出すでしょう。つまり、ロシア国内で不信感だらけとなります。一方、ウクライナと戦う以上、国内問題を可及的速やかに解決しなければウクライナ戦争はロシアの完敗となりかねません。

俯瞰するならば欧米は興味深く見守る、ウクライナは今のうちに一気に巻き返す、ロシア内部ではプーチン氏の次と国家再建を巡り水面下の動きが出る、そんな予想をしています。またこの段階になれば諜報活動が極めて活発になるはずで、スパイ戦が戦況を制する公算も出てくるとみています。

まさに新展開という言葉が正しいとみています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年6月25日の記事より転載させていただきました。

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