日経が「教育岩盤・子どもが消える」という連載を組んでいます。現在のところ、その主題は「多すぎる大学」。本件についてはこのブログでこの1-2年の間に数回、トピックスとして振っています。要は少子化が進む日本なのに大学だけは増え続け、学部も増え続け全国で807程度もある大学はどうなるのだろう、という問題です。日経は私大の半数は定員割れ、3割が赤字と報じています。
大学を含めた教育は聖域である、としばしば言われますが、それはその世界に関係する人がそういうだけで私から見れば大学経営はビジネスで、学究は激しい閥の争いでつぶし合いの何物でもない、と思っています。言い過ぎかもしれませんが、経営者である理事長も教育部門のトップである学長も保守的であり、改革と言う言葉からは最も遠い世界にいる人だと思っています。
1973年の第二次ベビーブーマーの時は一年に子供が210万人生まれ、その人たちが大学に行く直前の1990年の大学数は507,学生数は4200人/大学とされます。つまり、一学年あたり1000人として500大学でざっくり50万人/年の大学生が生まれたので大学進学率は25%(実際の統計上は24.6%)でした。それが少子化と共に大学進学率が上昇し、この数年は53-4%程度となっています。つまり出生者数は半分になったのに2倍の進学率という大変革が起きているわけです。
では大学全入時代は我々にとって高等教育の進化として喜ぶべきかといえば否です。日本の大学教育は一種のゼネラリストを金太郎飴のように作り出すところであり、履歴書に大卒と書けることにその目的がほぼ集約できます。確かに大卒と高卒では話をしていると違いはあります。それなりに世間を知っているという意識なのでしょうか?ただし、大学生の奥行きは浅い、と言うのが実情です。
今の時代、東大卒でもやんや言われるのです。ましてや私大程度なら社会人になってから「君、それでも本当に大卒?」と言われそうな人はいます。もう一つは短大の不人気化で女子が4大に入るようになったことも統計上のサポートになっています。
それでも全国に800以上の大学が存在する理由はないし、だいたい大学で教鞭をとる先生の質が落ちるだろう、と思うのです。そのあたりが疑問であります。
多すぎる大学問題の解決策、あります。以下、箇条書きにします。
① 大学のM&Aで2040年までに数は現在の半分程度の400大学を目指す。2040年とは今生まれた子が大学に行く年齢です。出生者77万人、大学進学率55%として一大学1学年平均が今の1000人を維持する数字です。
② 文科省は新規大学新設の許可を保留せよ。つまり、新たに大学を作らせない。その代わり、志ある者は既存の大学を買収すればよい。また、既存大学の新規学部設立も抑制気味にすることで大学経営者が大きくなるためには①のようにM&Aに頼るようにさせること。
② 留学生を増やす。日本で留学生が一番多いのが早稲田で6000人弱。次いで東大が5000人、3位が何故か日本経済大学で約3000人などで総留学生受け入れ数は11万人にすぎません。ちなみにアメリカはその約10倍の104万人を受け入れています。
③ 留学生を増やすだけでなく日本の国際化を進めるため、授業の一部、ないし全部を英語で行う。
早稲田が圧倒的留学生を誇るのは授業が英語だからです。それと留学生の母校である海外大学に履修単位取得が認められることにより海外の学生が4年のうち1年を日本で過ごすという選択肢が生まれます。
④ 留学生の学費をとにかく引き上げよ。日本は留学生の学費が安すぎます。北米の大学がなぜ、地元学生の何倍もの留学生の学費を取れるか、といえばそれだけの価値があるという答えに帰着します。しかし、日本の大学はTHEなどの世界ランキングでは目を覆うばかり。まずはクオリティを挙げ、学費を上げ、学生と先生の質を上げることです。
⑤ リカレント教育をビジネスとして立ち上げ、卒業生を自分の大学に引き戻す戦略を打ち出せ。例えば私の母校には榊原英資氏と白川正明氏が在籍しています。好き嫌いは別にして私が大学生なら講義は聞いてみたいところです。私が再三、リカレントを、と言ったことが届いたとは思いませんが、白川氏の卒業生向け全6回の有料講義が実現することになりました。リアルなので参加できませんが、この試みは非常に魅力的なのです。
私は大学が企業に入社するためのワンステップという位置づけにある時代はさほど遠くない時期に終わると思っています。企業は年間を通して採用し、国内外から広く集める、そういう時代が来ます。その時にお仕着せの大学生スーツに判を押したような面接の応対は意味がなくなる時が来ると思っています。90年代から2000年代が外面的な個性の時代だったとすれば、これからは内面的な個性の時代になると思っています。
今は変革期の真っただ中にある、と考えています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年6月22日の記事より転載させていただきました。