お釣りをトレーに置かれ激高→店員の写真をSNSに投稿…横行するカスハラの実態


カスタマーハラスメントの実態と小売店側の対応の現状の画像1
※イメージ画像:「gettyimages」より

 近年、従業員や店に対して理不尽な要求をしたり、言いがかりをつけたりするカスタマーハラスメント(カスハラ)が横行している。先日も、あるTwitterユーザーがお釣りを手渡しせずにトレーに置かれたことに不満を持ち、激高して女性店員を泣かせたと写真付きで投稿。悪質なカスハラ行為だとして炎上する事態となった。

 問題の投稿者は、6月12日ごろに「トレーの真上に手を出しているのに(お釣りを)真下のトレーに置かれてブチ切れた。泣いて誤魔化すレジ係。名前を呼んでも返事しない。売場の責任者出てきたのでトレーでやり取りする意味を聞いたが答えられない」などとつづり、ある大型スーパーの衣料品売り場とみられる場所で、エプロンをした女性従業員がレジ内で顔に手を当てて泣いているらしき写真を公開した。

 投稿者によると、女性店員は「(手渡しを)嫌がるお客さんもいるから」などとトレーを使った理由を説明したというが、投稿者は「コロナがーって言えば何でもまかり通るとまだ思っとんのかアホが」「人様を汚いもの扱いしてドヤってるから腹が立つ」などとして納得せず。トラブルの翌日、投稿者は店を運営している本社にクレームの電話を入れ、真偽は不明ながら、本社の担当者から謝罪されたと明かした。

 お釣りをトレーに置かれただけで騒ぎ立て、本社にまでクレームを入れるという行動は尋常ではないように思えるが、いずれにしても、これは間違いなく「理不尽な要求や言いがかり」に該当するもので、れっきとしたカスハラだといえるだろう。このようなカスハラがあれば業務の妨げになるだけでなく、従業員の心に深い傷を負わせることにもなりかねない。

 この問題の投稿は14日ごろからネット上で拡散され、SNSなどで「店員さんかわいそうすぎる」「お釣りをトレーに置かれただけで、店員が泣いてる写真をさらし上げて本社にクレームまで入れるってどうかしてる」などと批判が殺到。炎上を察した投稿者は同日中にアカウントを削除した。

 これに限らず、最近は多くの小売店や飲食店などで「カスハラ問題」が深刻化しており、先日は福岡県警田川署で「刑事に自分の訴えを聞いてほしい」と2時間居座った男がカスハラにあたるとして逮捕されるなど被害は民間以外にも広がっている。

 小売業界の事情に詳しい流通ジャーナリストの西川立一氏にカスハラ問題の現状を聞いた。

「近年、カスハラはSNSで拡散されたりする影響で急激に増加したように見えますが、昔からこうした『モンスター客』はいて、可視化されたことで問題が表面化したといえるでしょう。特に、小売業はお客様と接する機会が多いのでカスハラ被害が増えます。接客サービスにおけるトラブル、商品に関する苦情などが中心で、正当なクレームであれば問題ないのですが、中には言いがかりでしかないものがある。そういったモンスター客への対応は難しく、小売業にとっては悩ましい問題です。また、対面形式だけでなく、通販の電話オペレーターや企業の苦情係などへのカスハラ被害も目立っています」

 店側はカスハラ客に対してどのような対策をとっているのか。

「カスハラは常習的にやっている人が多いので、従業員に対して要注意人物の周知を徹底することが一つの対策です。そしてトラブルがエスカレートした時は、店長などの責任者に引き継ぐという対応を多くの店でやっていますね。また、モンスター客への対応を想定したロールプレイング研修を実施しているお店もあります。具体的な対応としては、相手が激高している時は否定の言葉で火に油を注ぐのではなく、とにかく話を聞いて状況が収まるまで待つのが基本。過度な要求があった場合は毅然としてそれに応じず、本部が対応したり、場合によっては警察に相談すべきでしょう」

 カスハラ問題の根本原因について、西川氏はこのように指摘する。

「日本は昔から『お客様は神様』だという顧客ファーストの考えがあり、店側はどうしても下手に出るような態度になりがちで、客側にも買ってやってるんだ、店に来てやってるんだという意識が根強くあります。しかし、店はサービスや商品を提供し、お客はそれを享受しているだけであって、そこに上下はなく本来は対等であるべきです。いい意味でのおもてなしは別ですが、カスハラ被害を減らすためには、店や消費者が認識を変えていかなければならないでしょう。そのためには、お客だから偉いわけじゃないということを、子どものうちから教えておく社会教育も必要ではないかと思います。また、ストレス社会によって溜まったうっぷんのはけ口としてカスハラをしている人もいて、それも被害が絶えない原因でしょう」

 どのようにしてカスハラ被害を減らしていくか。店の対策だけでなく消費者の意識も含め、社会の一つの課題として考えていかなければいけない問題だといえそうだ。

(文=佐藤勇馬)

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