♀はXX、♂はXY染色体。
そう学校で習ったけど、この潰れた杭みたいなかたちをしたY染色体にいまたいへんなことが起こっています!
黒岩麻里・北大教授らの研究グループが昨年Proceedings of the National Academy of Science(PNAS、米国科学アカデミー紀要) に発表した予想では、Y染色体はなんだかみるみる減ってて、このまま進めば何百万年かで消えてしまう運命にあるっぽいんです。
Y染色体が消えるXデー
もっともY染色体の退化は今に始まったことではなく、かなり昔から進行中の現象みたい。
ヒトの細胞にある染色体は23対46本で、22対44本は性別と関係ない常染色体、残り1対が性染色体。性染色体がXXのようにペアになってるのは女性だけで、男性はXが1本、Yが1本。男女で数も形も大きさも異なります。
おもしろいことに、X染色体には生命維持に必要な遺伝子が約900個も詰まっているのに対し、Y染色体に含まれている遺伝子は約55個で、精巣形成ぐらいしか目立った役目がありません。
でも哺乳類の先祖の姿を色濃く残すカモノハシ(哺乳類×鳥類×爬虫類のごちゃまぜ生物)には性染色体が10本もあって、XもYも通常の染色体と同じようにペアになっています。きっと哺乳類も昔はそうだったと想定できそう。
仮にカモノハシから枝分かれしてからY染色体の退化がはじまったのだとすると、1億6600万年で「900-55」の遺伝子が消えたことになり、100万年ごとに5個減ってきた計算。
残り55個が消えるのは、100万年×11=1100万年後となります。早ければ「数千年で消える」という説もあり、予想にはばらつきがありますが、いずれにしてもその頃には私たちはこの世にいませんね。
オスがXX化しても精巣は不滅です!(奄美トゲネズミの場合)
まーしかし、日本の研究の主眼はY染色体が消えることではなく、消えてからも男性が消えないっぽいことを示唆した点にあります。
その実証で活用したのは、性決定のSry遺伝子を含むY染色体がとっくの昔に消滅してからもオスがしぶとく残ってる希少種・アマミトゲネズミ(奄美大島のみに生息する日本固有種)です。
国内のゲノム解析などの専門家らと協力しながら、アマミトゲネズミに唯一残された性差をもつゲノム領域をまず特定。
常染色体Sox9遺伝子に17 kb配列の重複を有するのがオスだけなことを突き止めたうえで、「Enh14とよばれるエンハンサーを含む配列が重複しているとオス、重複していないとメスになる」という仮説を立て、アマミトゲネズミのエンハンサー重複配列をもつマウスをゲノム編集で作成して確かめてみたところ、重複配列のマウスはXX染色体でも卵巣に精巣が分化する、つまりこの重複配列が性決定に影響することがわかったのです!
国立成育医療センターのプレスリリースも「Y染色体とSry遺伝子が消滅してもオスは消滅しない」と希望を感じるタイトルになっていますよ。ほっ…。
Y染色体が消えると寿命も縮まる
Y染色体の減退といえば、昨年7月には、Y染色体が消えるよう遺伝子操作を施したマウスで実験した結果、血中からY染色体が消えると心臓に瘢痕組織がたまって心不全にかかったり寿命が縮まったりすることがわかったという別の論文も話題でした。
男性は70歳で少なくとも40%が一部血液細胞でY染色体消滅が起こり、93歳でその数は57%以上まで高まります。
たばこをやめるぐらいしかY染色体消滅を止める術はなく、男性ホルモンのテストステロンを服用しても効かず、Y染色体を取り戻すことはできません。
ひとたびモザイク状のY染色体消滅が見られた男性は7年以内に死亡する確率が41%高く、循環系で死亡する確率が31%高いこともわかりました。対象は海外の高齢男性ですけどね。
Y染色体ってそんなに重要だったのか…。用なし扱いしてごめんよ…。
女性もおばあちゃんになればX染色体を失うことはありますが、おじいちゃんのY染色体喪失ほど確率は高くないし、仮に失ってもYほど体のダメージはないと見られています。こうして考えると、男女の寿命差とも関係ありそうですよね。
Source: Science Alert