今春、人気焼肉店チェーン「焼肉きんぐ」が「韓国のり玉ごはん」や卵かけご飯の「トリュフ香るTKG」など卵が重要な構成要素であるメニューを「卵抜き」で提供。価格は据え置きで「卵あり」版と同額であり、さらにHP上の商品メニューには「卵抜きでのご提供とさせていただきます」と記載されていた(現在は削除)。一方、その注意書きよりも大きく掲載された写真は卵が乗った状態の料理となっており、卵が乗っていると誤解して注文してしまうお客が生じる可能性もあり、優良誤認ではないかという指摘も一部であがっていた。現在では2商品ともに卵乗せが「復活」しているが、なぜ「焼肉きんぐ」は、こうした一歩間違えば消費者からマイナスの反応を呼びかねない行為に至ったのか――。専門家に聞いた。
全国に約300店舗を展開する「焼肉きんぐ」。100分で食べ放題、小学生は半額、幼児は無料の「きんぐコース」(3498円/税込、以下同)、「プレミアムコース」(4378円)、「58品コース」(3058円)を武器に現在、快進撃を続けている外食チェーンだ。「焼肉きんぐ 四大名物(東)」の「ハラミステーキ」「壺漬け一本ロース」「きんぐカルビ」「炙りすき焼カルビ」などのほか、「ひとくち冷麺」「石焼ビビンバ」「熱々!石焼ガリバタライス」「とろ~りチーズの石焼キーマカレー」「旨辛カルビクッパ」などのサイドメニューも充実しており、多くのファミリー客を引き付けている。
焼肉きんぐの食べ放題コースの魅力といえば、やはりメニューの豊富さだ。たとえば「きんぐコース」では100品以上が揃えられており、焼き肉は牛・豚・鳥やホルモン類はもちろんのこと、海鮮類やホイル焼き、キムチ類や「鶏唐揚げ」「ひとくちニラチヂミ」「カリッとろたこ焼」「焼肉屋さんの厚切りハムカツ」といった一品料理、サラダ類、スープ類、冷麺、「石焼ビビンバ」や「旨辛カルビクッパ」などのご飯類、さらには「黒蜜きなこソフト」「やわらか杏仁豆腐」などのデザート類まで用意されており、まさに至れり尽くせりだ。
「オフィス街や繁華街などは避け、郊外や住宅街近くのロケーションを狙って出店しており、運営会社の狙いどおり店内は小さい子ども連れのファミリー客で賑わっている。定額の食べ放題なので食べ盛りの子どもがいる家庭も財布を気にすることなくお腹いっぱい食べることができ、メニューもバラエティーに富んでいるため楽しむことができる。さらに『ソフトドリンク+アルコール飲み放題』が1529円、ソフトドリンク飲み放題が429円で注文でき、コスパ面、メニューの豊富さ、エンタメ性、使い勝手を総合的に勘案するとファミリー客向けのチェーン店としては究極の域に達している感もあり、今のところ右に並ぶ存在はいないという印象」(外食業界関係者)
<卵なしの写真に切り替えるぐらいはしよう>
そんな焼肉きんぐだが、昨今の鶏卵の供給不足と価格高騰を受け、3月3日付リリースにて、通常は卵黄を使う「韓国のり玉ごはん」や卵かけご飯の「トリュフ香るTKG」を卵抜きで提供することを発表。また、前述のとおりHP上のメニューの商品写真として卵が乗った状態の画像が使用されていたため、ネット上では以下のような声が続出していた。
<卵なしの写真に切り替えるぐらいはしよう>
<画像くらい変えられるぐらいの企業>
<原材料の高騰による変更は仕方ないけど写真だけでも差し替えろ>
<これ優良誤認にならんの>
<卵かけご飯で卵なし値段据え置きは草>
<TKG(卵欠けご飯)>
<それはもうGでしかなくね?>
実際に提供される料理と違った写真を掲載するのは適切とはいえないものの…
まず、昨今の卵不足、価格高騰は飲食業界において、どれくらい影響の大きいものなのか。また、飲食店はどのような対応を迫られているのか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏はいう。
「昨今の卵不足や価格高騰は飲食業界に影響を及ぼしていますが、卵をメニューで多用するお店と、メニューの一部で使う程度のお店によって、その影響度合いに違いがあります。価格高騰も大変ですが、なによりも不足ということが一大事です。価格だけなら価格改定やメニュー構成の変更などで対策を立てられますが、不足や欠品となれば料理自体の提供ができなくなってしまいます。主力メニューに卵を使っている店にとっては死活問題となります。
しかし今回の卵不足は、飲食店に卵を届ける卸・仲卸、そして養鶏場の出荷調整や価格調整によってある程度しのげていると思います。出荷調整により飲食店が発注した数量すべてが満たされないときもありますが、業者さんもさまざまな融通や調整をしてくれています。飲食店側も価格改定やメニュー変更、数量限定などで対応しています」
では、卵抜きでの提供にもかかわらず、卵が乗った状態の写真をHP上のメニューに掲載するというのは、飲食店としては適切といえるのか。
「業界事情から推測するに、
・『トリュフ香るTKG』や『韓国のり玉ごはん』は人気があるし、メニュー改定のタイミングでもないし、ご飯ものは食べ放題においてお店側にとって優秀なメニューなので外したくない。
・でも、価格290円(税抜き)はもともと低価格なので、卵1個の価格が10~40円上がると原価率が跳ね上がってしまうから、この価格で卵を使用するのは難しい。卵の不足で入荷ができないときは提供自体もできなくなってしまう。
・卵を付けない分、単品価格を少し下げようかなと思うが、定期メニュー変更は四半期に1度のペースだし、画像や価格を変更するには時間とコストがかかってしまうから、対応が遅れるし割も合わない。お店の主役は肉だから、お客さんもそれほど気にしないだろう。
・いずれ卵不足も落ち着くだろうし、一文加えるだけで様子を見よう。
といった理由だったのではないでしょうか。もし『卵かけご飯なのに卵がなかったらニュースになるかな、バズるかな』と狙っていたのだとすれば、すごいと思いますが、一時的な様子見として今回のような対処をしたのだと思います。そのため卵抜きでの提供の旨を注意書きで記載していましたが、写真は卵が乗ったままになってしまったので、お客さんがそれを見て『卵が入っている』と勘違いして注文してしまう可能性も残されました。
お店が料理の写真をメニューに載せる理由は『一目でわかる』からです。口頭説明ではイメージが湧きにくいものも、画像で見ればすぐにイメージが湧きます。お店としては注意書きをしているので、もし批判を受けても言い逃れはできると思いますが、実際に提供される料理と明らかに違ったものを掲載するのは適切とはいえないでしょう。
しかし、体裁や建前を気にしすぎて機動性を失い後手に回るのも経営的にはよろしくはない。よほど問題のあることでなければ『いろいろ頑張ってるんだな』と許してあげてほしいと個人的には思います。卵なしの卵かけご飯なんて、ハンバーグなしのハンバーガーや、牛肉なしの牛丼みたいで、めったにあることではないと思いますし、話のネタになればいいのではないでしょうか」
「焼肉きんぐ」の運営会社、物語コーポレーションは当サイトの取材に対し、次のようにいう。
<当社は、2023年3月3日付リリースのとおり、鳥インフルエンザの発生拡大の影響による卵の品薄状況を受けまして、卵を使用した一部の商品について卵なしで(または卵の数を限定して)提供するという対応をいたしました。数多くのメニューを楽しめるという「食べ放題」の魅力を提供し続けたいとの思いから、卵を使用する商品の中でも、主力となる人気商品(石焼ビビンバ等のご飯類、卵を使う各種スープ類、お子さまうどん等の麺 類、炙りすき焼きカルビ等)については卵の使用を継続する一方で、やむを得ず、一部の商品については、商品 自体の販売を休止するのではなく、卵を使用しない(または卵の数を限定する)形で提供を継続いたしました。 そして2023年3月17日より、「トリュフ香るTKG」及び「韓国のり玉ごはん」の卵提供を再開しております。なお、3月17日以降現在も、「炙りすき焼カルビ」と「【熟成三元豚】すき焼カルビ」については1回のご注文につき卵1つのご提供とし、「ひとくち冷麺」については錦糸卵を海苔に変更して提供しております。
急激な供給減少による突発的な販売中止であったことに加えて、いち早く卵の使用を回復すべく社内にて動いており、販売の再開時期が非常に流動的であったことから、ホームページやメニュー等に注釈を併記する方法を選択いたしました。なお、ご質問いただいた公式ホームページ内メニュー一覧における表記のほか、お客様の誤 解を招かぬよう以下複数の措置を取らせていただいております。
・公式ホームページのトップにお知らせを掲載
・公式アプリのプッシュ通知にてお知らせを配信
・店舗入り口に卵なしの簡易的な商品写真を掲載したご案内文の掲出
今後とも、お客様にとってわかりやすさと商品の魅力が伝わるような表記方法を検討するとともに、より多くのお客様に楽しんでいただけるお店づくりに努めてまいります>
(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)