ウクライナ軍の「反撃」は既に始まった

アゴラ 言論プラットフォーム

ウクライナの大統領補佐官ミハイロ・ポドリアク氏(Mychajlo Podoljak)によると、今年に入って囁かれてきた「ウクライナ軍の反撃」は既に始まっているという。同氏はイタリアのテレビとのインタビューで、「反撃は何日も続いている。これはウクライナとロシア間の1500キロメートルの国境に沿った激しい戦争だ」と説明している。

ウクライナ特別通信・情報保護国家奉仕の日を記念し演説するゼレンスキー大統領(2023年5月25日、ウクライナ大統領府公式サイトから)

ウクライナのゼレンスキー大統領は機会ある度に、「準備が整い次第、軍は反撃に出る予定だが、もう少し時間が必要だ。さらに多くの装甲車両の到着を待っているところだ」と説明し、欧米諸国には繰り返し武器の供与、最近は戦闘機の供与を申し出てきたが、反撃の時期については答えてこなかった。

ロシア軍と戦闘中のウクライナ側としては「いつ反撃に出るか」は言えないから、ゼレンスキー大統領が反撃の時を公表しないのは当然だろう。ポドリアク補佐官によると、最近のウクライナとの国境に接するロシア西部ベルゴロドでのロシア系武装集団の攻撃、5月3日未明のモスクワのクレムリン上空を襲った2機の無人機侵入などは「ウクライナ軍の反撃」を裏付けているわけだ。欧米の軍事専門家は「ウクライナ軍が最近、ロシア軍占領地の燃料貯蔵所やインフラに対する攻撃を増やしていることから、大規模な反撃の兆候ではないか」と推測してきた。

ポドリアク補佐官はツイートで、「反撃開始といっても、特定の日の特定の時刻に赤いリボンカットの儀式で始まる1回限りの出来事ではない。さまざまな方向で占領中のロシア軍を破壊することを目的とした数十の異なる行動を含む」と述べ、「ロシア軍の兵站への集中的破壊は既に始まった」と述べている。

ポドリアク氏はまた、ロシア反体制武装集団がベルゴロド地域で攻撃した件について、「ウクライナは関与していない」と否定する一方、「プーチン大統領は自国の領土を守ることさえできない。国境地域で起きていることはプーチン大統領にとって衝撃だろう」と強調し、「ウクライナはロシア領土への攻撃を望んでいない」と重ねて主張している。

ところで、ロシア西部ベルゴロド州(Belgorod)を攻撃した親ウクライナのロシア武装集団「ロシア義勇軍」と「ロシア自由軍団」と呼ばれる2つの武装グループについて、追加情報があるので紹介する。

2つの武装集団は米国製車両を利用していたという。彼らがどのようにしてそれらを入手したかは不明という。米紙ニューヨーク・タイムズによると、ベルゴロドのロシア国境地域への攻撃には少なくとも3台の米軍装甲車両が使用されたという。米国はウクライナに軍事面でも財政面でも支援していることは周知の事実だ。

米国務省のマシュー・ミラー報道官はニューヨーク・タイムズの報道について、「われわれは現在、これらの報道の信憑性について懐疑的だ。米国はロシア国内での攻撃を奨励したり許可したりしていない。しかし、この戦争をどのように遂行するかを決定するのはウクライナ次第だ」と強調した。

装甲車両に乗った重装備の兵士の大規模なグループが22日、ウクライナからロシア領土に入った。彼らは「ロシア義勇軍」と「ロシア自由軍団」と呼ばれる親ウクライナのロシア武装グループだ。ウクライナ軍諜報機関は、「『ロシア自由軍団』と『ロシア義勇軍』はロシア人だけで構成されている。彼らはウクライナ民間人を保護するための安全地帯を創設するため戦闘を開始した」という。ちなみに、「彼らはウクライナから来た。彼らはそこで装備され、そこで訓練されている」と、ドイツ民間ニュース専門局ntvのモスクワ特派員ライナー・ムンツ氏は語っている。

「ロシア義勇軍」(RDK)のリーダーはデニス・カプースチン氏(Denis Kapustin)だ。彼はロシア人でネオナチとみなされている。ウクライナは右翼過激派とは距離を置き、当時は関与を否定していた。RDKは、2022年8月、ウクライナのために戦うために結成されたロシア義勇軍の部隊だ。RDKはウクライナ軍とは関係なく、ウクライナ解放のために戦っているのではなく、プーチン大統領打倒を目指していると受け取られている。ウクライナ政府は彼と彼の部隊を認めていないが、プーチン大統領と彼の侵略戦争に反対しているという理由で、カプースチン氏の活動を容認している可能性はある。

一方、「ロシア自由軍団」はRDKとは異なり、ウクライナ軍の一部隊だ。この軍団はロシア軍からの亡命者、ロシア人志願兵、捕虜で構成されている。同集団は、2016年以来ウクライナに住んでいるロシアの野党政治家イリヤ・ポノマリョフ氏が指導者だ。ポノマリョフ氏(Ilja Ponomarjow)はまた、ロシアの著名な親プーチン派のダリア・ドゥギナ、ヴラドレン・タタルスキー、ザハル・プリレピンに対する襲撃事件の犯行声明を出した「共和党国民軍」の背後にいるとみられる。ポノマリョフ氏は英LBCラジオとのインタビューの中で、ベルゴロド地域での作戦への軍団の参加を認め、「この戦争はウクライナでは終わらない。モスクワでしか終結しない。具体的には、プーチン政権が交代した時だ」と自身の目標について語っている。

以上、ドイツ民間ニュース専門局nTVの報道内容を参考にまとめた。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年5月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。