岸田首相のウクライナ訪問は何かを変えるのか?

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私の2月28日付のブログの一節です。「国会で『緊急性ある海外渡航』を事由に国会への事前通告の省略に関してコンセンサスを取りつつあるように見えるので春分の日の3月21日にひっかけた渡航になるのではないかと勝手な予想をしています」。それ以前にも春のウクライナ訪問が現実的と申し上げていました。こんな予想の「当たる、当たらない」は何の自慢にもならないのですが、あえて言うなら秘書をやっていた時にスケジューリングの勘所が身についたのだと思います。

岸田首相とゼレンスキー大統領 首相官邸HPより

さて、今回の訪問は比較的軽装で行ったという感じがします。政府関係者の同行もわずか10名程度と理解しています。もしもそれが事実ならその背景にはモスクワでプーチン氏が習近平氏と会談をしているからだと思います。いくら何でもそんな時に無謀なことはできないという読みは当然ありますし、私は日本のことだからむしろ、習近平氏の訪ロの日程が決まった時点でロシアに岸田氏のウクライナ訪問予定を事前通告していた公算は高いと思います。つまり、知らなかったのは日本のお膝元だけではないでしょうか?

ただ、番記者などは21日のインド訪問後にウクライナに行くことはほぼほぼ感づいていたはずです。それはインドに同行したメンバーを見ればわかるからです。首相がインドに向かう直前にも「ウクライナ訪問は?」という記者の質問に対し、例のごとく「検討」と答えていました。では、なぜその時にその質問をしたのか、なぜそれが力を込めて報道されたのかと考えればウクライナ行きは9割読めたはずです。

むしろ、番記者らは首相のウクライナ行きを絶対にスクープすると張り切っていて、それを見逃すな、だったはずです。が、日系企業関係者との夕食会が終わってホテルに入ってしまい、「あぁ、今日はないな」と安心させたところで夜中にこっそり忍び出てご丁寧に首相専用車まで置いて行き、民間のプライベートジェット利用なれば脱走めいた話ですが、首相の身の安全を考えれば致し方なかったのでしょう。

今回の岸田氏のウクライナ訪問は習近平氏のロシア訪問と両建てで見るともう少し違う切り口になると思います。習氏とプーチン氏の会談内容については多くの報道に色がついていて、「悪の枢軸」というトーンになっているものがほとんどです。果たして本当にそうなのか、個人的にはやや違った見方をしています。

ゼレンスキー大統領と会談する岸田首相と 首相官邸HPより

習氏はプーチン氏の賞味期限はもうすぐ切れるとみる中で新ロシア政権をどう支援するか、その際に中国とどのような連携ができるのかを探っているものと思われます。多分、今回習氏がわざわざモスクワまで行ったのはミシュスチン首相にも会いたかったのではないかとみています。取りも直さずプーチン体制が崩れた際の選択肢を見ていると考えています。

ウクライナ問題について習氏は「戦争終結」を提案しているのは間違いないと思います。ただ、その条件がウクライナと西側諸国に受け入れ難い内容で今後、中国がプーチン氏の意向を抱きかかえて和平工作に入るとみています。習氏はゼレンスキー大統領とも会談を望んでいるともされ、この後すぐにウクライナ入りする可能性も非常にスリムですがないとは断言できないでしょう。ゼレンスキー氏はそうなれば会うし、オンライン会談も受けると思います。

岸田氏はゼレンスキー氏に西側諸国の意向と姿勢を改めて強調し、一定の物的金銭的支援を申し出るとみています。G7議長としての立場もあるでしょう。ただ、それでは外交的達成感は少ないと思いますが、協調を大事にする岸田氏としては自己満足かと思います。

ただ、戦況が1年以上に及び、膠着した感じもする中で今後もウクライナの前線での活躍を後押しばかりするのも良識的にはおかしいのです。やはり、岸田氏としては停戦交渉のきっかけも探るべきでしょう。ウクライナの条件は分かっています。領土はもともとあったところを全部平和裏に返せ、壊されたものを全部直せ、です。一方、ロシアはクリミア半島とそこにアクセスする地域は100%譲歩することはないでしょう。あの半島がロシアにとってどれほど重要か、ロシア建国以来の要所であることは明白です。

G7議長としてウクライナを応援するというのでは子供の遣いにしかなりません。私が思うのはプーチン氏が習氏を代理役に立てるならウクライナは岸田氏を立てる、そしてアジア人同士で和平交渉をする、という世界の歴史で初めての白人同士の戦争をアジア人が仲裁することが可能ではないか、と思うのです。飛躍しすぎかもしれません。しかし、バイデン政権は停戦や仲裁は出来ないでしょう。トルコのエルドアン大統領もインドのモディ首相もアリですが、ここは日本が仲裁に入る絶好の立ち位置にあると私は思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年3月22日の記事より転載させていただきました。

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