筆者にとって文章を作るのは、好きというと少々ニュアンスが違う気もするが、「強く生を実感できる行為」であり、それを他者(ChatGPTなどの生成AI)に任せたいという気は、あまり起きない。おそらく車の運転が好きな人は、自動運転が実用化されても、積極的に自動運転でドライブしようと思わないのではないだろうか。
とはいえ、機械学習などには興味があり、試してはみたい。それに、他者にまるっとお任せして、うまい具合に片付けてもらいたい文章作成作業もある。例えば、ビジネス文書の類だ。用件をそつなく伝える内容を、無難な書式でまとめる。その作業には、特に面白みを感じない。
AIを使えば、憂鬱な文書作成仕事も効率的にできる!?
ということで、ChatGPTにビジネス文書の作成を任せてみることにした。シチュエーションとしては、かなり気が重くなるものを想定している。入力したメッセージ(プロンプト)は、こんな内容である。
以下の文章を書いてください。
差出人である私は、A社 開発部主任の山田です。
受取人はB社 開発課長の鈴木です。
B社から開発を請け負っていたソフトウェア「ABC」について、当初の期限までに開発を完了できない旨を伝えます。契約が履行できなくなるわけですが、安易な謝罪は行いません。
開発を完了できなくなった理由は、B社による度重なる仕様変更により、仕様確定が予定のスケジュールより4カ月遅れ、当初の予定では1年間あった開発期間が8カ月となったことです。この点を説明してください。
鈴木さんからは、何度も「仕様確定前にできるところから開発を進めてほしい」旨の発言があり、「できますよね?」「大丈夫でしょ?」等、言質を引き出そうとするかのような発言もありましたが、そのたび、私からは、今回の案件では仕様確定後でないと開発を開始できない旨をお伝えしています。この点もはっきりと説明してください。ただし、ことさら鈴木さんを責めるような言い方はせず、淡々と事実を伝える書き方にしてください。
仕様が確定してから、かなり無理を重ねましたが、期限まで3カ月の時点で無理だと判断するに至りました。私たちはスケジュールの遅れを取り戻そうと最大限の努力をした旨もはっきりと伝えてください。
以上の内容で、鈴木さんに自分に問題があったのだと理解してもらえるようにしてください。
最後に、スケジュールの再検討の打ち合わせを提案し、詳しくは後ほど電話すると伝えてください。
シチュエーションは筆者の(昔少々ソフトウェア開発に関わった際の)経験や、見聞きした話を適当にミックスしている。人名や社名、ソフトウェア名といった固有名詞や、一部の数値はダミーで、最終的に仕上げるときに書き換える想定だ。
メッセージの内容は出力を見ながら何度となく試したが、AIへの指示として洗練させるよりも、AIと「対話」する状況を意識して、ユーザーのストレートな心情(愚痴や嫌味)を混ぜるようにした。ビジネス文例集のようなものを参照しながら書くのでなく、AIと対話しながら文書を作るなら、こうした要素があってもいいと思うし、それを、AIがどう扱うかにも関心がある。
「無理を重ねましたが」「無理だと判断するに至りました」と、両方とも意味合いの違う「無理」なのはあまりよろしくない文章だが、まあ、こういうところもうまいこと解読してくれるよね、と期待することにする。
サラッとこちらの愚痴を代弁してしてくるGPT-3.5
これに対して、ChatGPT(GPT-3.5)が出してきた回答は、次のようなものだ。
「安易な謝罪は行いません」と言ったのに、あっさり「誠に申し訳ありませんが」などと言ってしまうのはいただけない。後半の内容は、こちらが書いたメッセージの内容を、ぎこちない言い回しで繰り返しているような感じだが、すまし顔でチクチク嫌味を言っているような趣もあり、ちょっと笑ってしまった。
「鈴木さんを責めるような表現は避け、事実を冷静に伝えることを心がけます」と、当の鈴木さんに言うのは攻撃的すぎるだろ、気持ちは分かるが……と、思わずChatGPT相手に突っ込みたくなってしまう。
これは真面目な話、意外と悪くない下書き担当アシスタントでもあるのではないだろうか。
「仕事 vs. 自分」と1対1で正面から向き合う状態だと、なかなか視野が広がらず、良案も出ず、仕事が捗らない。ところが、ChatGPTというアシスタントを交えて取り組むことで、第三者的視点を持つことができ、さまざまな角度から考えられるようになるかもしれない。それに、気が重い仕事の中に笑いを持ち込んでくれる。
ある意味で、彼(ChatGPT)は、鬱憤をためらわず吐き出す負の面の分身のようになっている。それをなだめながら文書を仕上げることで、自分の腹の中もわりとうまく整理できそうに思える。
GPT-4はずっとクールでクレバーだ
同じメッセージを、GPT-4でも試してみた。GPT-4を利用するには、有料版「Chat GPT Plus」の契約が必要となる。料金は月額20ドル。パラメーター数など具体的なスペックは公表されていないが、GPT-3.5とは比較にならないほど質の高い出力ができ、(英語よりは学習量が少ない)日本語でも同様であるとの評判を聞く。
上の画面がその回答だが、GPT-3.5と比べてずっとクレバーな印象だ。こちらのメッセージの意図を汲み、愚痴っぽい言い回しなど相手に伝える必要のないところはしっかりと抜いて、淡々と状況を説明した内容となっている。
遅れの理由に関して「外部環境やスケジュールの変動によるもの」と、直接は鈴木さんを責めず、(少々ぼかしてはいるが)ごまかしている感じでもない、うまい言い方になっているのもポイントが高い。おおむね期待通りと言え、下書きとして、かなりの完成度だ。その代わり、笑える要素はないが。
よく言えばお茶目なGPT-3.5は、文章を練り込む過程で1つの極端な案として面白い。対して、クレバーなGPT-4の回答は、冒頭と末尾などの気になるところだけ整えて送ってしまえば、それなりに話は進んでいくだろう。
一般に、業務を省力化するアシスタントとしてはGPT-4が優秀という評価になるだろうが、どちらも味わいがある。なかなかいいのでは、という印象を持った。
ちなみに、当初は「拝啓」で始まり「敬具」で終わるフォーマルなビジネスレターを書かせようとしたが、うまく行かなかった。前後の挨拶文を加えたい場合は、別途提案させるのがいいようだ。Microsoft Wordを使えば挨拶文の挿入は簡単にできるので、それで済ませてもいいと思う。
ワードセンスがいいBardと、目を疑う結果のBingチャット
ついでに、同じメッセージをGoogleの「Bard」と、マイクロソフトの「Bing」のAIチャットでも試してみた。
Bardはわりとそつがない印象だ。肝心な部分(遅れの理由)の説明が駆け足すぎて用をなさないのは問題だが、所々の渋い言葉選びは好印象。「誠に恐れ入りますが」「残念ながら」のような言い回しは、こちらの意図(安易な謝罪はしない。状況の深刻さをしっかりと認識してほしい)をうまいこと汲んでくれたように感じる。
一方で、Bingはサッパリだ。メッセージの書き方により回答の内容は大きく変わり、この書き方はBing向きではなかったということかもしれない。
もしかすると、最初に「以下の文章を書いてください」と書いたのを変に真に受けて、ほとんどオウム返しの内容になってしまったのだろうか。いずれにしても、これではかなり質の低い回答と言わざるを得ない。
以上、今回は、一人でやるには気が乗らな過ぎて逃避で半日ぐらい潰しそうな作業を想定し、ChatGPTを使ってみた。
自分が本当に今回の例のようなシチュエーションにあるとき、AIに向かってこんな風に入力できる元気があるだろうか? という点は、少々疑わしくもある。が、自分の入力に対し、予想できる範囲にとどまらない回答を出してくるAIは、気乗りしない仕事において、いくらか前向きな気持ちをもたらしてくれるだろうと思えた。
本当に書かなければいけなくなったときには、GPT-4の賢い回答にGPT-3.5のおとぼけ回答のエッセンスを少し加え、Bardのボキャブラリーも参考にして書くのがいいかもしれない。