ポーター・ロビンソンに問う 、音楽制作におけるAI活用とクリエイティブについて

GIZMODO

いま、何かと話題のChatGPTや、Stable DiffusionやMidjourneyといった画像生成AI。

このような生成型AI(ジェネレーティブAI)は、次のクリエイティブの可能性を拡大させる存在としての期待も寄せられていますが、一方で「人間のクリエイティブな仕事を奪うかもしれない」という懸念の声も少なくありません。

しかしながらクリエイティブの歴史を振り返ってみると、その可能性が大きく拡大した時期にはなんらかの革新的なテクノロジーが導入されてきたこともまた事実。

音楽の分野でも、OpenAIの大規模言語モデル、GPT-4を搭載したAI音楽制作アプリが登場するなど、AI活用が拡大していく兆しが見えつつありますが、クリエイターたちはAIテクノロジーをどのように捉えているのでしょうか? これまでも積極的に最新テクノロジーを取り入れてきた音楽プロデューサーのポーター・ロビンソンに、ジェネレーティブAIをはじめ、音楽制作におけるAI活用の可能性について、話を聞きました。

<来日公演の話やバーチャルワールドに対するいまの考えについて。前編はこちら

──現在ジェネレーティブAIが話題を集めていますが、音楽を自動生成するAIに関してはどのように捉えていますか?

ポーター・ロビンソン:まず、やっぱり人間は、今まで見たことがないものに対する恐怖がどうしてもあると思うんですよ。

AIは「1+1=2」のような絶対的な答えがあるものを導き出すことは得意ですが、答えに導いていく方法を考える力に関しては、まだまだ欠如していると思います。人間はテクノロジーについてしっかり理解していると思いますし、AIは素晴らしい可能性も秘めていると思いますが、今まで歴史を振り返ってみると、新しい技術にいきなり手をつけてしまうと大惨事になったり、ひどい問題に発展したりといったケースもあった。AI開発=未曾有のものを開発していくということなので、AIが発展しすぎてしまって、手に負えなくなったり恐ろしいことに繋がってしまったりという可能性があることについても、しっかり考えていくべきだと思っています。

ただ、そういったネガティブ要素を考えつつも、例えば、病気の発見のためにAIが活用されるなど、今後もそういったところでの活用例は増えていくといいなと思いますし、そのための技術も向上していくといいなと思っています。

ミュージシャンとしては、例えば音楽制作にChatGPTを活用できることはすごいことですし、可能性はすごく感じていますよ。実際に自分もAI搭載ツールを使うこともあるので、AIに助けられている部分もありますし。ただ、バーチャルワールドの話のときも言ったように、「人間の創造性」が保たれたものを守っていきたいということもあるので、テロリズムじみていると感じる部分もあります。

正直、こういった内容はちょっと発言しづらいところもあります。でも、僕はイノベーティブなものについて考えるのが好きだし、AIが今後どう進化していくか、そしてそれがどう使われていくべきかは多くの人が考えた方がいいと思っているので、僕もちゃんと考えて話さないといけないなと思っています。

──音楽制作においてのAI活用用途は、音声合成、音源分離、マスタリング、サンプル管理、コード進行/フレーズの提案など多岐にわたります。AIがさらに進化したときに、手伝ってほしい作業はありますか?

ポーター・ロビンソン:AIが得意とするのは、膨大なインプットをひとつにまとめて何かを作りあげるということですよね。例えば画像生成AIの場合なら、いろいろな情報を文字で入力してひとつの画像を作りあげることができる。なので、僕としては、まだ発売されていないと思いますが、そういったAIを搭載したプラグインが欲しいですね。

例えば、ドラムのサンプルは、あんまりバリエーションがなくて、全部同じ、一定の音に聴こえてしまうんですよ。だから、スネアやバスドラムなどの音を、自分の入力した情報をもとに忠実に再現できる、よりバリエーション豊かな音を作れるプラグインがあったらうれしいですね。

──あなたの声をもとに開発された「VOCALOID6」専用のボイスバンク『Po-uta』も発売されました。「VOCALOID6」は、AI技術を用いた新合成エンジン「VOCALOID:AI」を搭載したことで、よりナチュラルで表現力豊かな歌声を合成できるようになったことも話題です。

ポーター・ロビンソン:ボーカロイドは、2013年頃からずっと制作で使っていますが、6でかなり変わったなという印象があります。本当に発音がキレイになっていて、特に英語がかなり自然に聞こえるようになったと感じています。英語の方が日本語よりも子音が多いので、そういった部分がちゃんと向上されたことで、より自然に聴こえるようになりましたね。

それとVOCALOID6は最初から何十個ものプリセットが使えるので、それを使ってかなりスムーズにエフェクトをかけられるようになりました。ボーカルチェーンも向上しましたね。例えば、オンラインのプロデューサーフォーラムでは、ドレイクがどんなボーカルチェーンを使っていたとかそういった話題で盛りあがることがありますが、そういう部分も、VOCALOID6ではしっかり考慮されていると思いました。

──誰もがジェネレーティブAIを使ってオリジナルソングを作れるようになったら、どんな世界が実現すると思いますか?

ポーター・ロビンソン:おそらく30年前であれば、僕がプロの音楽家を目指したとしても多分なれなかったと思うんです。というのも僕はそんなに上手い演奏者でもシンガーでもないので。

ただ、オートチューンやDAWなど、今は音楽制作のためのさまざまなテクノロジーが存在します。そういったものを活用することで自分の好きな曲が書けるようになったので、AI技術が発展していけば、そのハードルをさらに下げることができると思うんです。

テクノロジーを駆使すれば、みんなが創造性豊かに、自分の好きなように音楽を作れる自由が与えられているということは、すごく素晴らしいことだし、その状態自体がとてもクリエイティブだと思います。

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Photo: Victor Nomoto(METACRAFT)