優先するのは データ ? クリエイション? ファッションを創りだすために大切なこと【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

データ時代のクリエイティビティ

ブランドはこれまで以上にデータが入手できるようになり、現在の経済状況では、リスクを最小限に抑えて、短期的なデータ駆動型の意思決定に力を入れざるをえなくなっている。たとえば、Jクルー(J.Crew)やチコズ(Chico’s)といったブランドは、既存の忠実な顧客に対するマーケティングに目を向けている。

とはいえ、データへの依存は諸刃の剣だ。ひとつには、どのデータポイントが重要かを把握するのが複雑な場合があるからだ。セールスフォース(Salesforce)が1万人のビジネスオーナーを対象に行った2月の調査では、3分の1近くが選別すべきデータの量に圧倒されていることがわかった。特にファッションの分野では、データがクリエイティブな決定を覆すという二重の危険性がある。ファッションブランドは大抵、誰よりも目立ってトレンドを生み出す能力があるからこそ成功するのだが、データへの過度の依存は、そうしたブランドが逆にトレンドを追いかけるようになるということを意味している。

不景気な時代には、創造性よりも可測性が勝る

「2002年にマーケティングを始めたが、私がこの業界に入ったのはファッションが大好きでクリエイティブになりたいと思ったからだ」と話すのは、フランチェスカ(Francesca’s)のCMOジャン・パリッシュ氏だ。「高級ファッション誌が全盛期だった頃は、マーケティングを測ることはできないという格言があって、いかによい写真に見えるか、作り出した商品がどれほど美しいかというのがすべてだった」。

いまはそのようなことはもうない、とパリッシュ氏は言う。不景気な時代には、創造性よりも可測性が勝ることが多い。フランチェスカでは、景気の悪化に伴い、以前よりも率先して信頼性の高いデータに重きを置くようになった。現在では、ブランド構築のキャンペーンは年にわずか数回しか行わず、既存顧客のリターゲティングを新たな優先事項としている。

世界広告主連盟(World Federation of Advertisers)が2022年の末に実施した、創造性を抑圧する要因に関する調査では、600人以上の広告主が、マーケティングにおいて創造性を妨げている要素は何かを明らかにした。51%が金融リスクを避ける文化、48%が短期集中、44%が関与する意思決定者が多すぎることだと回答している。

重要なのはデータとクリエイティブビジョンとのバランス

だが、一部のブランドはマーケティングであれ、製品デザインであれ、たとえ戦略を裏付ける確かなデータがなくても新たなことに挑戦しようと努力を続けている。カリフォルニアのファッションブランド、ラジャンス(L’Agence)のCEOであるジェフ・ルーデス氏は、データに頼るのは一部に関してのみだという。たとえば、デザイナーのタラ・ルーデス=ダン氏をはじめとする彼のチームは、過去のコレクションを分析する際、どのような商品がどこでよく売れたかを確認するために定期的にデータを参照する。そのデータは、在庫をどこに送るか、どこに新店舗をオープンさせるかといった意思決定に役立つ。しかし、新しいコレクションをデザインする場合、ルーデス=ダン氏は有機的に手に入れたものを参照することのほうが多い。

「カフェに行ったり、ロンドンのようなクールな街に出かけて、若者がどんな服を着ていて、何が似合っているのかを見ることが多い」とルーデス氏。「それが多くのインスピレーションを与えてくれる」。

ルーデス氏はひとつの例を挙げた。最近彼が訪れた東京では、ワイドレッグのジーンズをよく見かけた。それがほかのスタイルとあわせて、最終的にブランドの最新コレクションに反映された。ファッショナブルな人々の着こなしを観察するのはデータ収集の一種だが、スプレッドシートにびっしり並んだ数字よりも、インスピレーションやクリエイティブなヒントが得られるものなのだ。

「もちろん、先のことが見通せるわけではないが、それによって向かう方向性が見えてくる」とルーデス氏は述べている。

デジタルマーケティング・エージェンシーのメゾンマーケット(Maison MRKT)のCEOであるマシュー・ナストス氏は、ブランドは目標を設定し、そこに到達する方法を考える際には価値観と創造性を頼りにすべきであり、それからその道が実現可能かどうかをチェックするにあたってデータを活用すべきだと言う。

「ブランドにとってきわめて重要なのは、データインサイトと、明確に定義され、かつ何より大切な、確固たるクリエイティブビジョンとのバランスをとることだ」とナストス氏。「もしブランドが効果的なテストフレームワークを整えていれば、あとは必要なのは、根本的な思い込みを疑い、明確な結果を導くメッセージングの仮説だけだ。強固なテストフレームワークを持つことで、ブランドは顧客獲得プログラムを最適化できるだけでなく、継続的なイノベーションのための環境も育むことができる」。

大切なのはデータとインスピレーションのバランス

ブレイディ(Brady)のクリエイティブディレクター、ダオ=イー・チャウ氏は、データとインスピレーションのバランスを保つことが重要だと話す。今年初めにGlossyポッドキャストに出演したチャウ氏は、アクティブウェアブランドのブレイディは、彼が手がけるほかのブランドであるパブリック・スクール(Public School)よりもデータに依存しているという。だが、それでも数字の強い裏付けがなくてもアイデアのために戦ったことはあるとチャウ氏は述べた。

たとえば、ブレイディが誕生して1年目の大きなブレークスルー商品となったのが、アンダーウェアだ。その製品は、他の大手スポーツメーカーがよく使用している合成繊維ではなく、綿を使っている。これは、データインサイトに基づいたものではなく、共同創業者のトム・ブレイディ氏自身が合成繊維よりも綿を好んでいるという事実のみによるものだ。ブランド設立からわずか数週間で、ブレイディは2万枚以上のアンダーウェアを販売した。

「最近ではおそらくあらゆるもの、あらゆるカテゴリーにデータがある」とチャウ氏は言う。「だが、デザイナーとして業者や(会社の)ビジネスサイドと、ひとつのアイデアのために戦うときが必ずある。ただ本能的にそのアイデアを信じているのだ。仮に私たちが純粋にデータ主導であれば、実際そのように行動している企業もあるとは思うが、自分たちが作り出す多くのものから魂が失われてしまうだろう。人々の共感を呼ぶのは、その魂なのだ」。-Danny Parisi

AIを駆使した新しい顧客体験

リテールアドバイザーで投資家のケン・パイロット氏によると、「ChatGPTはともかく、AIは本当に活躍している」。そして、同氏はその考えに従って投資を行っている。4月中旬、パイロット氏はGlossyに対してポートフォリオ企業の「AIストーリー」を紹介してくれたが、それは先進的な考えを持ち、積極的な投資を行っているeテイラーにおける顧客体験を定義しているのかもしれない。

まず始めは、大量の商品属性(タグ)を製品に付与するリリーAI(Lily AI)だ。このAIは業界用語ではなく、顧客が使う言葉を優先し、また商品の検索の最適化に必要な多くの工数をなくすことができる。同社の顧客には、ブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)、ギャップ(Gap)、スレッドアップ(ThredUp)などがいる。顧客が探している商品を見つけたら、ファインドマイン(FindMine)がその商品を補完する製品を提供し、ルックを完成させることができる。アディダス(Adidas)やコールハーン(Cole Haan)などのブランドと提携しているファインドマインによると、ブランドの視点に基づいた生成AIを使用しており、標準的なパーソナライゼーションよりも優れたサービスとなっている。

最後にドロップイット(DropIt)が、利用可能な梱包・発送場所に基づいて、小売業者が最終的に購入された商品を顧客に届けるのにいちばん「金銭的に効率的」な方法を決定する。

ドロップイットはAIを使って「顧客の居住地、店頭での商品の売れ行き、倉庫の供給量、(地域の)宅配業者のコスト」などのリアルタイムのデータを計算に入れる、とパイロット氏は述べた。現在、エスティローダー(Estée Lauder)、ZARA(ザラ)、ナイキ(Nike)がこの技術に投資している。-Jill Manoff

[原文:Fashion Briefing: Is new access to data stifling fashion’s creativity?]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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