開発者も“ドン引き”する腕時計「カンパノラ コスモサイン」。その文字板には「宇宙」がつまっていた

GIZMODO

「良い意味での『狂気』が詰まった腕時計」。

30年以上も腕時計の開発に携わってきたプロがそう語るのが、シチズン時計のブランド「カンパノラ」の20年以上にもわたるロングセラーモデルコスモサインです。

image:カンパノラ

「時を愉しむ」というテーマを掲げる腕時計ブランド「カンパノラ」が誇るこの腕時計の最大の魅力は、ひと目見ただけで圧倒される文字板の情報量です。

装飾的な時計の針の奥に見える文字板には、地図のようにも見える模様と、非常に細かな点や文字の数々……。

「一体この文字板は何を示しているの? この腕時計が20年以上も人を惹きつけるのはどうして?」

カンパノラの開発陣にその秘密を伺ったところ、そこにあったのは「夢」とそれを追い求めるプロたちの「狂気=情熱」そのものでした。

カンパノラを展開するシチズン時計株式会社のチーフデザインマネージャー榎本信一さん(左)と、同・商品開発技術担当の冨山泰史さん(右)。Photo: 伊藤圭

昼も夜も、ここは宇宙だと実感できる。星空を腕に凝縮させた腕時計「カンパノラ コスモサイン」

──この「コスモサイン」ですが、いざ目の前にすると圧倒されますね。

榎本まさに「精緻な表現の極み」のような感じがありますよね(笑)。

──事前に写真は見せてもらってましたが、実物の迫力というか、この小さな時計に凝縮された情報量はとんでもないことになってます。

榎本私も30年ぐらい業界にいますが、これはその経験の中でも比類ない時計というか、良い意味で狂気が形になっている時計だと思います。

冨山同じく私もいろいろな時計をみてきましたが、この「コスモサイン」は唯一無二の世界観をまとった魅力ある時計だと思います。

榎本ここにあるのは新しくメタルバンドを採用したモデルですが、レザーバンドモデルは2001年のデビュー当時から現在まで売れ続けています。それは皆様がこの時計が持つ「精密感」やその魅力を認めてくれているからだと思っています。結果的には、カンパノラのロングセラーコレクションになっています。

──この文字板からは時刻以外に、どんな情報が読み取れるのでしょうか?

榎本:文字板の上に子午線を含む方位高度線のラインがあるのですが、そこを通すことで、現在時刻で北緯35度の空にある星の位置や星座の名前を知ることができます。小学生が理科で使う星座盤と仕組みとしては同じですね。

照明を当て、文字板下部にあるくもの巣状の子午線をわかりやすく撮影。この範囲に重なっている星や星座が上空に見える星空となる。

──誰もが馴染みある星座盤とはいえ、その情報量がこの小ささに凝縮されていると圧巻ですね。

榎本その上で星座盤が時計と連動しているのが「コスモサイン」のポイントです。日付と時刻をセットしておけば、時計の針と連動して約24時間かけて星座盤も回転するので、その時の星空がわかるようになっています。

冨山夜だけでなく昼間も同様で、腕の「コスモサイン」を見れば「目に見えないだけで本当はこんな星が広がっているんだ」と、リアルタイムに宇宙を身近に感じられる時計でもあります。

榎本カンパノラには「時を愉しむ」というコンセプトがあり、「時間をどう表現するか」を常に追求しているのですが、数多くのラインナップの中でもビジュアル面で「時間」を最も分かりやすく表現できているのが、もしかしたらこの「コスモサイン」かもしれませんね。時の起源は、星の運行ですから。

──ちなみに、この子午線の外側に目を向ければ、水平線や地平線の下に隠れている星を見ることもできるということでもありますよね。

榎本そうです。「そろそろこの星が上ってくるな」なんてこともわかります。

圧倒的な情報量を実現する、気が遠くなるほどの製造プロセス

Image: カンパノラ

──ディープブルーの文字板に対して、少し薄いブルーになっている箇所は何を示しているのでしょうか?

冨山「天の川」ですね。このひと際目立つ「天の川」が数時間後に(時計を見ると)一目で違う位置に移動していることがわかるため、星座盤の動きをより体感することが出来ます。

──なるほど。他にも赤や白で描かれた円、そして文字情報もありますね。

榎本赤い円は、地球の赤道の延長線上にある「天の赤道」です。そんな概念があることすら普通は知らないですよね(笑)。他に白い線が示すのは太陽の通り道である黄道です。それに沿って1~12までの数字と文字が振ってありますが、それらが星占いで使われる黄道十二星座を示しています。1のところが「SGR=サジタリウス」で射手座。12が「SCO=スコルピオ」でさそり座といった感じです。

──それがこの時計だけでわかるんですね。

榎本他にも、等級に応じて星を示す点の大きさを変えているほか、表面温度が高いものは色を青で、低いものはオレンジや赤で表現しています。

──すごい…。正直そこまでいくと、肉眼ではわからないレベルですよね。

冨山この小さな文字板にそれらの情報を凝縮するため、工程を14回にも分けて印刷しています

──えっ、14版も?

冨山はい。製造現場からは「とにかく生産が大変だ」と言われています。13版まで上手くいったとしても、最後の1版で少しでもズレてしまうと、それはもう使えないわけですから。また、版下自体が非常に精密なので扱いやメンテナンスも慎重に行わなければいけない上に、季節によって変化する湿度の影響も無視できなくなってくるそうです。

──もはや職人技の世界ですね。

冨山生産だけでなく完成品の最終検査も同様で、「コスモサイン」については検査できる担当者がマスター級の人に限られています。生産も検品も、通常の時計よりも手間がかかってしまうのが「コスモサイン」の大変なところですね。

──たしかに。版下の拡大画像を渡されて「これを元に検品してください」と言われても……。

榎本普通なら、まず無理ですよね(笑)。この時計を目の前にすれば、誰でも「これは検品できない」ってわかるはずです。

冨山だからと言って「これくらいでいいだろう」とアバウトに済ませられるものでもないですからね。本当に星が好きな方なら「ここの星が一個足りない」とか「サイズがおかしい」とか分かるはずですし。本当に職人技ですよ。

榎本ルーペを通して見ないと分からないほどの小ささですが、実用的な道具としての機能をしっかり持っていますからね。星の位置をコンピューターで計算しているだけじゃなく、文字板サイズに縮小した時の見え方も正確に割り出して作られているので。

オリジナルの「狂気」をリスペクトしながら、現代の技術で魂を継承する

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──そもそもコスモサインのオリジナルはどのように生まれたのでしょうか?

冨山天体に非常に詳しい、上原秀夫さんという設計者が1974年~2002年までシチズン時計に勤務していたのですが、「より多くの人に星の世界を知ってほしい」という上原さんの願いと情熱の結晶です。

榎本上原さんはシチズン時計に勤務していた期間「コスモサイン」はじめ、腕時計以外にも「精密星座表示クロック」「天文精密日時計」など星の運行と関係した時計をひたすら作り続けたという方で、ご自宅に天体観測所を作るほどの天文愛好家なんですよ。

──その上原さんが、この星座盤を時計サイズにまで凝縮した文字板の基礎を作ったんですね。

榎本やはり「コスモサイン」は、良い意味での「狂気」が形になっている時計なんだと思いますよ。そして、そんな上原さんの狂気に応えてカタチにするため、僕の先輩のデザイナーたちも必死に仕事をしてこの時計に命を吹き込んできた。

私たちは、上原さんはもちろん、この時計に関わってきた先輩たちの情熱を引き継ぎながら、技術の進歩に伴ったリニューアルをかけながら、「コスモサイン」をより良い商品にしていかなければいけないと使命感を持っています。

Image: カンパノラ

──「コスモサイン」はこの20年以上かけて、どのように変わってきたのでしょうか?

榎本印刷技術の向上にともない星の数が当初より増えている部分はありますが、文字板に関しては基本はそのままです。その上で、より星空が見やすくなるように改良を加えています。今回のモデルは子午線を含む方位高度線のラインを補足、トーンを落として色を変えたことで、より視認性が上がっています。

冨山:また、デビュー当時はデュアル球面ガラスの両面に無反射コートを施せなかったのですが、技術の向上により両面無反射コートが搭載されるようになったモデルからは、光の反射を抑え文字板がより見やすくなっています。

榎本文字板以外のところでは、お客様からメタルバンドモデルの要望をいただいていたこともあり、新たにメタルバンドを採用したのも大きな特徴ですね。

──基本は「オリジナルに忠実に」なんですね

榎本もしかしたら、地味な改良に思われるかもしれません。でも、実はこういう同じモデルを継続的にブラッシュアップすることってロングセラーモデルじゃないとできない貴重な経験なんですよ。1回だけの生産だったり、2~3年で終了してしまったりするようなモデルでは、「今ならこうできるのに!」ということになってしまうので。

──今日はありがとうございました。「コスモサイン」は良い意味での「狂気」を原点としながら、それを現代に受け継いできた情熱がこもった時計ということがよくわかりました。

冨山上原さんと同調するようにオリジナルの開発に携わった先人達の情熱を感じますね。この時計を作る苦労って半端じゃないですから。

榎本当時、製造現場もよくこの製品を受け入れたなって思います。

冨山どう考えても製造現場で混乱が起こるのは目に見える時計ですし、普通だったら「製品化は厳しいのでは」と、開発そのものが止まってしまっても不思議ではないですよね。

榎本でも、そこに魅力を感じたからこそGOサインが出て、その「やり切った」感じがお客さまにも伝わってロングセラーになったのでしょうね。

──実物を見て一目ですごいエネルギーが伝わってきますよね。ぜひお店に足を運んでいただいて、肉眼だけじゃなくルーペでも見て欲しいです。

榎本「何で腕時計にこんなに情報を詰め込まなきゃいけないの?」って圧倒されますよね。ルーペもセットで売りたいくらいです(笑)。

時間、宇宙、人の想い。それらが結晶したような腕時計「コスモサイン」

カンパノラ コスモサインコレクション 星座盤モデル AO4010-51L ¥363,000 (税抜価格¥330,000)

時計=時間を知るための道具。

それを前提としながらも、腕時計は水深や高度、方位など「人間が備えていない感覚を補強する」補機として進化したガジェットでもあります。そして、この腕時計もまた、星の位置を簡単に把握できるガジェットと言えるかもしれません。

しかしコスモサインにはそうした実用性以上の何かを感じずにいられません。

時間、腕時計、宇宙、星座など、普遍とも思われる存在への、愛や情熱。そしてそれを絶やさず継承し続けてきた、人々の想い

ぜひその結晶を、一目見て、手に取ってみてはいかがでしょうか。

「カンパノラ」ブランドサイトはこちらから。

Source: カンパノラ