月の裏側は天文学の新たなフロンティアになるという主張

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女性初の月面着陸を目指すNASAの「アルテミス計画」など、月を目指すミッションで計画が進行中のものは宇宙機関、民間企業合わせて数十に上ります。ミッションはそれぞれ独自の目的を持っていますが、ロンドン大学バークベック校惑星科学・宇宙生物学教授のイアン・クロフォード氏は、これらの活動から科学が大きな恩恵を受けることは確かだと論じています。

Building telescopes on the Moon could transform astronomy – and it’s becoming an achievable goal
https://theconversation.com/building-telescopes-on-the-moon-could-transform-astronomy-and-its-becoming-an-achievable-goal-203308


月は、太陽系の起源や進化について教えてくれる教材であり、同時に、観測天文学のプラットフォームとしての科学的価値もあります。

月は常に地球に同じ面を向けています。これは、「月の裏側は地球上の人間が発する電波から遮断されている」状態ともいえ、電波天文学にとっては最適の場所となります。

電波は赤外線、紫外線、可視光線などと同じ電磁エネルギーの一種で、15m以上の波長の電波は地球の電離層に遮られますが、月の表面には問題なく届きます。天文学にとって、この波長帯は最後の未開拓領域であり、月の裏側から研究するのが適しているとのこと。

この波長で宇宙を観測する学問は「低周波電波天文学」と呼ばれ、銀河が誕生する前の「暗黒時代」の構造を探ることができるそうです。暗黒時代、謎の「ダークマター」を除く宇宙の物質のほとんどは中性の水素原子の形をしており、波長21cmの放射線(21cm線)を放出したり吸収したりする性質を持っていました。この性質を利用して、電波天文学者は天の川銀河の水素雲を研究してきました。宇宙が膨張することにより、初期宇宙の水素が発する信号は10mを超える波長になっていて、月の裏側はこれを研究できる唯一の場所になっているかもしれないとのこと。

また、太陽系外惑星の磁気圏からの電波は波長が100mを超えるため、観測するには電波の静かな環境が必要で、これにもまた月の裏側が最適な場所となります。

NASAは月の裏側にロボット電波望遠鏡を送り込んで観測を行う「LuSEE-Night」ミッションで、2026年に月の裏側への着陸を目指しており、ミッションが成功すれば観測の可能性が明らかになります。

このほか、月の極地には太陽光が当たらないクレーターがあるため、熱に弱い、赤外線を用いて宇宙を観測する望遠鏡が容易に運用できるかもしれません。冷たく安定しているクレーターは、重力波の検出にも有利に働く可能性があります。また、月の重力が小さいことから、望遠鏡を搭載した衛星よりもはるかに大きな望遠鏡を作ることができるかもしれません。これらの点から、天文学者のジャン・ピエール・マイヤール氏は「赤外線天文学の未来は月が担っている」と語っているそうです。


さらに、月は何十億年もの間、太陽風や銀河宇宙線にさらされており、月表面の記録を研究することで、太陽や天の川の進化を知ることができるかもしれません。

こうしたことから、天文学はこの10年の「月探査ルネッサンス」で恩恵を受けられる、というのがクロフォード氏の主張です。

ただし、月の裏側で人間が活動することにより、不要な電波障害が引き起こされる可能性があるほか、クレーターから氷水を採取する計画は天文学の目的とバッティングする恐れがあります。このため、クロフォード氏は、新たな月探査の時代に向けて、天文学にとって唯一無二の価値を持つ場所を確実に保護する必要があると述べています。

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