1. OpneAIのサム・アルトマンCEOが来日
OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏が来日し、4日10日午前、総理大臣官邸を訪れて、岸田総理大臣と面会した(NHK)。続いて、自由民主党の「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」にも出席した(ITmedia)。この席で、日本で100万人を超えるユーザーがChatGPTを使っている(ITmedia)と述べ、さらに、下記の7つを提案したことを出席した塩崎彰久衆議院議員がツイートしている。
- 日本関連の学習データのウェイト引き上げ
- 政府の公開データなどの分析提供等
- LLMを用いた学習方法や留意点等についてのノウハウ共有
- GPT-4の画像解析などの先行機能の提供
- 機微データの国内保全のため仕組みの検討
- 日本におけるOA社のプレゼンス強化
- 日本の若い研究者や学生などへの研修・教育提供
また、同じく自由民主党の会議に出席していた赤松健参議院議員は「今後クリエイターなど権利者とどう付き合っていくか」を質問したことに対して、「何らかの方法で経済的に報いたい」との回答を得たとツイートしている(ITmedia)。
サム・アルトマン氏は今後、他の国にも積極的に訪問すると伝えられているが、各国からはすでにAIに対する懸念や課題が示されていて、それらについて説明したり、対応したりする姿勢の1つとも考えられそうだ。また、何らかの大きなビジネス的な意味もあるのかもしれない。
2. サム・アルトマンCEOがNHKの独占インタビューに答えた
OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏はNHKの単独インタビューにも応じた(NHK)。
このインタビューのなかで「想像できない方法で、私たちの生活を向上させるものだ」とし、「リスクを軽減するための規制が必要で、政府と話し合うことが重要だ」という認識を示している。
とりわけ、ChatGPTが雇用や教育に対する悪影響について、「これまでも技術革新によっていくつかの仕事は無くなり、いくつかは変化したり新たに生まれたりしてきた。しかし、企業が新たなアイディアを生み出す能力は想像を超えていて、今回もこれまでと同じようなことが間違いなく起こると信じている」と述べた。そのうえで、「子どもも大人も新しいツールを使用すれば、新しい方法で学ぶことができる。電卓が登場した時のようにその使い道を考えるべきだ」という見解を述べたことが伝えられている。
また、NHKは、OpneAIでChatGPT開発チーム技術幹部のシェイン・グウ氏にもインタビューをしている(NHK)。
「それは人のアシスタントであるべきだと思っています。まずは人がやることを決め、AIが10倍の効率とか、あるいは10倍のアイデアをくれる。そして何か自分が悩んでいるときには励ましてくれる友達のような、AIにはそういう存在であってほしいと思いながらChatGPTのチームで仕事をしています」と述べている。
AIの「懸念」といってもそのなかにはいくつもの要素がある。ざっと挙げても、AIによって出される回答の真偽やバイアスなどの問題、AIが学習するために利用するコンテンツの権利の問題、プライバシーの問題、AIの出力が人間の価値判断にどう影響を及ぼすのかという問題、そして人がそれを“うまく”使うためのノウハウの取得の問題などである。
こう考えると、サム・アルトマン氏が言うような「電卓が登場した時のようにその使い道を考えるべきだ」というよりもより大きく、かつ複雑な課題が投げ掛けられているようにも思う。いずれにしても、大手IT企業をはじめとして、この分野の技術開発や応用技術は急速に進むだろう。それに人が対応できるかどうかが試される。
3. 各国の懸念に対応を進めるOpenAI
OpenAIは「安全性に関する声明」を発表した。そして、各国の規制当局とも協力をしていく姿勢を示した。声明では、子どもに対する安全性、プライバシー・個人情報、事実と正確性、現実的なアプローチという4点について述べている(Impress Watch)。また、OpenAIは、脆弱性などを発見した人には報奨金を提供する「バグバウンティプログラム」を開始すると発表した(ケータイWatch)。
イタリアではChatGPTの一時禁止を発表し、さらには個人データ保護法制が厳しい欧州各国での規制の動きもあることなど、そのインパクトの大きさから、必ずしも歓迎されていない機運に対する対処を進めている(日本経済新聞)。今年のG7の議長国でもある日本をはじめとして、各国をCEOが歴訪するというのは個別に説明をすることが狙いか。
ニュースソース
- 「ChatGPT」のOpenAI、最大270万円のバグ報奨金プログラムを開始[ケータイWatch]
- OpenAI、安全性で声明「やるべきことはたくさんある」[Impress Watch]
- OpenAI、対話AI「ChatGPT」の安全策公表 欧米の批判受け[日本経済新聞]
4. AIに対する業界のリーダーたちからの発言が相次ぐ
日々、新しい動きのあるAIについて、業界のリーダーはどう考えているのか。
テスラのCEOであるイーロン・マスク氏は、「さらなるAIの発展に反対する立場」をとっている(ZDnet Japan)。イーロン・マスク氏はOpenAIの創業時に出資したとも伝えられている人物だ。「AIの安全性の問題について発信し続け、AIの発展を止めないとどのような危険性があるか」ということを伝えたいという。
また、マイクロソフトの創業者でもあるビル・ゲイツ氏は「開発を一時中止してもAIが直面している問題は解決しそうにない」という。そのうえで「多大な恩恵があるのははっきりしている(中略)われわれに必要な行動は、注意すべき領域を特定することだ」との認識を示した(ITmedia)。
リンデンラボの創業者で、AI画像生成サービス「Midjourney」のアドバイザーを務めているフィリップ・ローズデール氏は「現在のところ危険をはらんだ不安定な状況にある」と述べている(ZDnet Japan)。「AIの現在の能力は、超人的なタスクの実行を可能にしている一方で、人間のような推論を行わない『異星人の知性』のようなものだ」とも評している。
このように三者三様の捉え方をしているが、共通しているのは、技術が開発されるそのままに流されるのではなく、人が課題に対しての「思考」や「意志」を持ち続けるということがいかに重要かについて認識するということではないだろうか。
ニュースソース
- AI開発競争めぐる論争、マスク氏やゲイツ氏らが見解を表明[ZDnet Japan]
- ChatGPTの可能性と脅威、ビル・ゲイツ氏も持論展開 AI議論で注意すべき3点とは?[ITmedia]
- ChatGPTは「異星人の知性」のようなもの–Linden Lab創業者が語る[ZDnet Japan]
5. G7デジタル・技術相会合ではどのようなメッセージが出されるのか
ChatGPTなどのAIの技術が学習にもさまざまな影響が及ぶとみられる。NHKが報じたところでは、文部科学省は学校現場での取り扱いを示す資料を作成する方針であるようだ(NHK)。「国内外の事例を集め、専門家の意見も聞いたうえで、なるべく早く示したい」という。どういう指針が決まるにしろ、現場での運用は難しそうだ.
また、松本剛明総務大臣は、今月末に群馬県高崎市で開く主要7カ国(G7)デジタル・技術相会合において、「信頼できるAIの普及促進というテーマで、各国共通のビジョンを実現するための具体的な方策について議論したい」と語ったことが報じられている(朝日新聞デジタル)。
言うまでもないが、国際的にも懸念点も多く含んでいる課題であり、どのようなメッセージが出されるかは注目点である。