電気料金の高騰が近年、家計の負担を重くしている。振り返れば2011年の東日本大震災でも、電力問題が露呈した。被災地では発電設備や送電網が津波で流され、東京電力福島第一原発は大きな事故を起こした。
震災後の復興計画に「再生可能エネルギー施策」を盛り込んだのが、岩手県宮古市だ。震災から12年が過ぎた現在、エネルギーの地産地消による地域内経済循環を目指している。
津波浸水エリアに広がる太陽光パネル
宮古市田老地区。国道45号線を進むと、三陸鉄道・田老駅の近くに黒々とした太陽光パネルが遠くまで広がる光景が目に入った。
「この一帯は津波で浸水し、居住が制限されている区域です」
宮古市エネルギー・環境部エネルギー推進課の三上巧課長が教えてくれた。震災前は宅地や農地だったが、今は空き地が広がる。そこに「田老太陽光発電所」を建設。稼働開始は2015年10月だ。その1か月前には、市内の津軽石地区でも同じく浸水エリアに太陽光発電所を開設した。
岩手県のウェブサイトによると、震災の津波による宮古市の死者・行方不明者は514人(2017年2月28日時点)。田老地区では、震災前から「万里の長城」と呼ばれた高さ10メートル(m)、総延長2433mの巨大防潮堤が築かれていたが、17m超の津波がこれを乗り越え、大きな被害をもたらした。
市は2011年10月、復興計画「基本計画」を策定。5つの重点プロジェクトのひとつに、「森・川・海の再生可能エネルギープロジェクト」を入れた。震災時にほぼ全ての電源を喪失したことから、災害に強くクリーンなエネルギーの導入促進を目指したのだ。その具体策として12年9月、「宮古市版スマートコミュニティマスタープラン」を発表。官民が連携して、スマートコミュニティ(スマコミ)事業の企画立案や検討を進めた。
田老、津軽石の太陽光発電所はスマコミ事業の一環だ。民間の「宮古発電合同会社」が運営する。発電した電気は、地域新電力として誕生した「宮古新電力」が、市内の公共施設を中心に供給している。2021年度の発電量は、田老が278万5480キロワット時(kWh)、津軽石が204万4606kWh。1世帯あたりの年間の電気使用量を5000kWhとすると、それぞれ557世帯分、409世帯分に当たる。ただし23年3月時点で、一般向け電力供給はしていない。