自宅の仕事スペースを模様替えして、コクヨの電動昇降デスク「STANDSIT-W」を導入した。
STANDSIT-Wの中でも、天板のサイズ95×57.5cm(設置サイズ100×60cm)と最もコンパクトなモデルで、デスクトップPCの27インチディスプレイとiPadをディスプレイアームで固定。奥には奥行30cm弱の棚を設置し、ほとんどの小物はそちらに置いて、机の上のスペースは広く確保した。
昇降デスクの奥に棚を置くのは、事前に想像した通りで収納効率がいいとは言いがたい。しかし、デスクを下げた状態で見やすい棚、上げた状態で取りやすい棚、といった(別に必要ではない)ギミックによる「秘密基地感」があって、正直なところ、楽しい。
健康の維持や、仕事中の眠気防止が、昇降デスクの効果としてよく語られる。筆者も、不健康の解消を第一の狙いとして昇降デスクを導入した。加えて、今回の模様替えでは「脳を刺激する」作業スペース作りも狙った。模様替えから3週間ほど経過し、それぞれに、思った以上いイイな……と手ごたえを感じているところだ。
思った以上に体を動かす機会が増えた
昇降デスクのよさを特に感じるのが、立ちと座りで姿勢を変えながら仕事ができるので「尻や腰が痛くなってきたが仕事がキリよく片付かなくて椅子から離れられない」のような事態がなくなったことだ。そして、体を動かしながら、例えば軽く膝の屈伸をしたり、全身を伸ばしたりしながら作業が続けられるのもいい。
これまでは、運動不足を感じながらも、毎日のスケジュールを考えるとこれ以上体を動かす時間を取れないだろう……という言い訳で現状に甘んじがちだった。しかし、立った姿勢でメールを読みながら、また返信の内容を考えながら、といった細かな機会を使って、思ったよりも体を動かす機会が増やせているように感じる。
毎日、4時間前後は立って仕事をしている。10時に朝の散歩から帰ったら座って仕事を始め、11時に立ち姿勢に変える。13時ごろ座り姿勢に変え、昼食をはさんで14時30分ぐらいからまた立ち姿勢で作業。16時ごろに座り、17時ぐらいにまた立って、19時に終業、といった感じだ。
立って仕事をするのは、それなりに疲れる。そこで、立つための筋力アップにどれくらいつながるのかは不明だが、毎日30回×3セットのスクワットを日課にしてみている。仕事の合間に細切れにやることになるが、この程度なら無理なくこなせる。
ちなみに、多くの昇降デスクの説明では、「座り3~2:立ち1」ぐらいの時間配分で使うようにとされており、STANDSIT-Wのウェブサイトでも、45分座って15分立つ、というペースを推奨している。そこから見ると、筆者の使い方は普通でないかもしれない。
体への刺激を増やして脳を活性化する
立ってデスクワークをするのは初体験だが、おそらく立つことで体への刺激を増やし、それにより脳を活性化させる効果もあるだろう、と、昇降デスクの導入前から期待していた。
いいアイデアが得られる「三上」――「馬上・枕上・厠上(ばじょう・ちんじょう・しじょう)」という言葉がある。移動中、眠る直前または目覚めてすぐ、トイレの中などで、ふと名案が浮かんでくるものだ、という話だ。
これは、脳内に蓄積された情報が、通常とはちょっと異なる体への刺激を受ける(または、動きをする)ことで、新しいアイデアとして飛び出してくる、という理屈なのだと考えている。上記の「三上」に限らず、イスに座って延々と考え続けるよりも、ちょっと気分転換に散歩をしたり、シャワーを浴びたりするとアイデアが出やすい、といった経験則を持つ人は多いと思う。
インプットした情報を脳内で寝かせ、発酵させて、新たなアイデアとして引き出す――こうした思考・発想の手順は、外山滋比古「思考の整理学」をはじめ、多くの似たテーマの書籍で紹介されている。
立って仕事をすることで、この「三上」に近い、脳の活性化につながる体への刺激を得る機会を増やせるのではないかと思う。
まだ、そうした効果を強く実感したことはないが、何となく立っているときの方が集中しやすく、思考が停滞しにくいようには感じる。そう信じて立ち上がれば、プラシーボ効果も得られるかもしれない。
暖房が効いた部屋で「頭を冷やす」効果もありそう
立って仕事をしていれば眠くなりにくい、ということは言わずもがなだ。在宅ワークなら無理せず仮眠するのも悪くないと思うが、眠気を防ぐ効果が分かりやすく役立つのは、Web会議中だろう。立っていれば、会議中にウトウトしてしまう可能性は低い。
ただ、退屈な会議は立っていても退屈なので、不必要な会議はできるだけ避ける、参加する会議では積極的に参加し発言もする、といった心がけは、変わらず必要だと思う。
それとは別に、特に冬場において、立って頭を高い位置に置くことで、頭が冴える効果も得られると感じた。冬場の暖房は、効率を考えると下から温めたほうがいい、ということでヒーターを床に置いているが、イスに座っていると、この温風が顏付近まで流れてきて、気を抜いたときにふと眠気に襲われることがある。
立っていると、顔に温風を受けることはなくなり、比較的気温が低い空間に頭を置ける。これは眠気防止になるし、集中しやすい理由の1つとも言えそうだ。
常に視界に入る位置に「脳を活性化させるもの」を置く
脳を活性化させる刺激は、身体への刺激だけに限らない。今回、昇降デスクの奥に棚を置いて、読みかけの本や読み返したい本などを、いつも目に入る視覚的な刺激とすることも狙った。
以前に、書籍編集者として「書斎」をテーマにした本(いしたにまさき「あたらしい書斎」)の編集に携わり、いくつかの「書斎」的な空間を取材した。その際に、優れた書斎の1つのかたちとして、自らの人生や知識、記憶のインデックスのような空間になっていることがあると感じた。
過去に訪れたさまざまな土地から木材を集め、晩年を過ごすための部屋を組み上げた冒険家(松浦武四郎の「一畳敷」。現在は国際基督教大学の敷地内にある)のような例もあるが、さすがにこれは、ちょっと真似しがたい。しかし、写真が趣味なら気に入っている写真を飾ったり、映画が好きならチケットやパンフレット、グッズなどを並べたりするのも、視覚的な刺激となり、そのことへの思索を深める材料となると思う。
筆者にとって、並べておくべき「視覚的刺激」は何だろうか? と考えても、あまりおもしろいものは浮かばなかった。が、これまで机の下や棚の隅に置いて忘れてしまった本を常に目に入るように置いておくことで、この本の続きを読まねばとか、この本に書いてあったことを今度調べようと思っていたのだったとか、そうしたことを忘れないようにできる。
「イスからの解放」で在宅ワークのマンネリや閉塞感を解消!
以上のように、昇降デスクは「健康維持」と「脳への刺激」という2つの点から、すでに手放せないものとなった。
これまでは、机に向かってイスに座ることで、行動の選択肢が非常に少ない状態になっていたかもしれない。一度どっかりと腰を下ろすと、「座ってできること」しかできないし、やらない。仕事中にちょっと気分転換をと思ったときも、SNSを見る、動画を見るなど、座って手を伸ばした範囲でできることに終始しがちだ。
立ち上がるのには、ちょっとした決心をして、少々手間をかける(よっこらしょと立ち上がる)必要がある。それが1つの「タスク」のような存在になり、無意識にそれを回避しようとして、ついトイレを我慢して仕事を続けてしまう……というようなことも、不健康さを助長していたように思う。
立って仕事をしていると、行動の選択肢はあまり制限されない。気が向くままに室内を歩き回るのもシームレスだし、ちょっと気分転換にスクワットなどするのにも決心は要らない。もちろん、トイレに行くのを変に回避しようとすることもない。
コロナ禍から始まったテレワークも4年目に入ろうとする中、毎日が単調な繰り返しになりがちなことによる停滞感や、閉塞感を感じることもあった。
そうしたものも、昇降デスクによって「立って仕事をする」という選択肢を得ることで、けっこう解消されているように感じる。模様替え直後なのだからそりゃ気分も変わる、という話もあるが、イスから解放されたことで細かな変化を付けやすくなったし、そういう環境であることによって、気持ちも停滞せずに済む気がする。
筆者と同じようにイスに座っている時間が長すぎる傾向のある方がいたら、昇降デスクの検討をおすすめしたい。その際には、昇降の操作が「タスク」化してしまっては本末転倒なので、手動ではなく電動昇降デスクを選ぶのがいいと思う。
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