道路脇の工事現場を通りかかると、旗を振るアニメーションが表示されたLED看板を見かける。実写を元に作られたであろう低解像度の人物が、ヌルッとした動きで旗を振っているアレだ。
暗闇の中で無限ループしながら旗を振り続ける様子を見ていると、深淵を覗いているような不思議な気分になってくる。
謎の魅力をもったあの看板を真似してみたい。なんなら、自分があの看板のモデルになってみたい。そんな夢を叶えてみた。
工事現場にある旗振りLED看板の魅力
車やバイクに乗っている人は、一度は目にしたことがあるのではないだろうか。この看板のことである。
セフテック株式会社が発売しているLED看板で、サイズやアニメーションの違いでいろんなバリエーションがあるようだ。本当は動画があればいいんだけど、私が見かけるのはほとんどがバイクに乗っているときなので、まだ撮影する機会に恵まれていない。
お辞儀をするだけの看板も見たことがある。電源を入れている間、看板の中の人は深々とお辞儀をし続ける。滑らかな動きが妙に魅力的で、ずっと見ていられる。
この看板シリーズ、元は実写だと思うが、「低解像度×少ない色数×背景が真っ黒×動きが限定的」という低スペックの世界に落とし込まれているおかげで、実用性だけでなく鑑賞物としての魅力が増している。リアルな実写映像では出せない、「仕様上の制約が生み出す美」みたいなのが確実にある。
これいいよなあ、と前から思っていたのだが、よく考えると同じような表示器を自作できるなと思った。もちろん製品が備える「耐久性」や「警備員の動きの正確性」なんかは置いといて、単に表示だけを真似するというパロディの意味だ。自作ができれば、あの看板の中の人になることだって可能だろう。作ってみるか。
あの看板を作る
LEDマトリクスは、いまや電子工作の定番アイテムなので、入手も簡単だし、制御もそれほど難しくない。今回は縦長のものを3000円ほどで購入した。
さくっと表示器が完成したところで、いよいよ肝心の「アニメーション」制作に取りかかろう。
旗振りアニメーションをつくる
警備員が着ているのは、反射材の付いた蛍光ジャケットだ。本来ならそれを着て撮影に臨まねばならないが、遊びで買うには高かったので、代わりとしてちょうどいい色のレインコートを見つけてきた。
撮影したアニメーションは、最終的に32×64ドットの超低解像度になる。つまりディテールにこだわっても、すべて潰れてしまって見えなくなる。なので、色味を第一に装備を揃えた「なんちゃって警備員」である。そこはお許しを……。
警備員の旗の振り方には決まりがあり、規則に沿った振り方をしなければならないらしい。なので、私の振り方は間違っている。現実世界の警備員ではない、「異世界警備員」というフィクションとして見てもらうのがいいだろう。このふにゃふにゃした警備員は、まだどこかの異世界にいるのです、たぶん。
今年の「地味ハロウィン」で、「あの看板の警備員」として無限に旗を振り続けるのはどうだろうか。
色数は商品によって違うのだけど、モデルにした警備員が登場する看板のスペックを見ると「表示色:3色(赤(R)32階調/緑(G)32階調)」との記載が。写真を見る限りでは、赤と緑は輝度の違いで32階調を表現しているようだ。
現物がないので想像が混じっているが、写真を参考にオレンジと黄緑に近い色を選んで、輝度の違いで各32階調を作ってみた。
計65色もあるので、減色してもわりと実写っぽい画像になった。この絶妙な色数が、あの看板の良さを作り出しているのだ。
あの看板の人に、俺はなったんだ……!
こうして私は、看板のなかで永遠の命を手に入れたのであった。