所有しているのに視聴できないビデオカセットとは?

GIGAZINE
2023年03月16日 23時00分
メモ



「所有しているのに視聴できないビデオカセットがある」と、古いハードウェアやソフトウェアのリバースエンジニアリングに取り組んでいるプログラマーのFoone Turingさんが告白しています。

Foone Turing — FUN FACT: I own porn I can’t watch.
https://foone.tumblr.com/post/705446706461949953/hello-hacker-news-never-post-me-on-your-site-ever

1971年に公開されたX指定(現在のNC-17、日本のR18+相当)の映画「Adultery for Fun & Profit」は、当時オランダのアムステルダムで開催されたアムステルダム・アダルト・フィルム・フェスティバルで大賞を受賞した名作です。

そんな名作映画のカートリビジョンを保有していると、プログラマーのTuringさん。


カートリビジョンは1970年に発表され、1972年6月に発売されたものの、わずか13カ月後の1973年7月に生産終了となった初期の家庭用ビデオカセットフォーマットです。カートリビジョンは専用のビデオデッキを販売しておらず、テレビとビデオデッキが一体になったものしか存在していませんでした。また、カートリビジョン用のビデオデッキが一体化したテレビは1970年代にしても巨大だったそうです。

以下はそんなカートリビジョン専用ビデオデッキが一体化したテレビのひとつ。


カートリビジョンが登場した1970年代初頭は、まだ映画業界が劇場に足を運ぶ観客から多くの興行収入を稼いでいる時代でした。そのため「家庭で映画を視聴する」というアイデアは、映画業界から毛嫌いされていました。その理由は至極単純で「家庭で映画が視聴できるようになれば、劇場に足を運ぶ人の数が減る」と考えたためです。この考えは後にソニーがベータマックスをリリースした際に、映画業界がソニーを訴えることにまでつながりますが、結局映画業界側は敗訴しています。

そのため、1972年にカートリビジョンが発売された際、どの映画スタジオもカートリビジョンで映画を販売することを望んでいなかったそうです。そのため、カートリビジョンは公共放送サービスであるPBSからモノクロ映画のライセンスを取得。さらに、スポーツなど映画スタジオにとっての妥協案となるような映像をカートリビジョンで販売したそうです。

カートリビジョンにはブラックテープとレッドテープと呼ばれる2つの形式のものが存在しました。ブラックテープは他の製品と同じように小売店で購入してユーザーが所有するというものでしたが、ブラックテープより比較的新しいレッドテープは小売店のカタログで注文し、後日郵送で家に届けられたものを視聴したら店舗に返送するというレンタル用のものだったそうです。

さらに、レッドテープにはブラックテープとは機械的に異なる点が存在しました。それは「巻き戻すことができない」という点です。レッドテープは再生・一時停止・停止が可能ですが、巻き戻しはできません。そのため、一度映画を見始めると巻き戻すことはできず、もう一度見たい場合は再びレンタルする必要があります。


カートリビジョンが1973年7月に生産終了となった際、多くの小売店が売れ残ったカートリビジョンを在庫セールとして格安で売却しました。この当時、カートリビジョンを購入した人の多くが、ビデオデッキ一体型のテレビを持っていたそうです。しかし、レッドテープを購入した人は、テープを巻き戻しすることができないことに気づきます。

そこで、レッドテープを購入した人の一部はパッケージの四隅にあるネジ穴をドライバーで回し、カートリビジョンを解体して巻き戻し不可能になってしまうメカニズムがどのように機能しているかを解明しようとしたそうです。そのため、eBayのようなオークションサイトで販売されているレッドテープのほとんどで、ネジ穴が見えているそうです。

Turingさんが所有するカートリビジョンの「Adultery for Fun & Profit」も、四隅にネジ穴が見えます。


カートリビジョンは基本的にビデオデッキ一体型のテレビしか存在しなかったため、記事作成時点ではビデオデッキを入手することが非常に困難です。また、カートリビジョン自体も古いため脆くなっており、ビデオデッキがあっても再生しようとするとテープが粉々に砕けてしまう可能性をTuringさんは指摘しています。加えて、カートリビジョンが生産されていたのがわずか13カ月という短い期間であったことを挙げ、Turingさんは「そもそもカートリビジョンの数が非常に少ない」と指摘。

カートリビジョンはテレビを録画するための最初の家庭用ビデオカセットフォーマットでした。当時からカートリビジョンを持っていたファンが、1972-1973シーズンのNBAファイナル・第5戦(ロサンゼルス・レイカーズ対ニューヨーク・ニックス)を録画することに成功しています。ABCニュース、ロサンゼルス・レイカーズ、ニューヨーク・ニックスの3者はいずれも試合の録画を保有していましたが、3者ともそれを失っているため、ファンが録画した第5戦の映像は非常に貴重なものとされています。ただし、このカートリビジョンで録画した第5戦は再生しようとすると粉々に砕けてしまうそうで、結局「再生できないテープ」だったそうです。

そこで、DuArt Media Servicesはファンが録画したカートリビジョンを焼いたり、凍らせたり、乾燥させたり、アルコールに浸したり、壊れたコンポーネントを修理したり、テープからデジタルに取り込むことに成功した映像を手作業で修復したりと、さまざまな方法で録画映像を復元することに挑戦しています。

NBAファイナル・第5戦の映像がそもそも非常に貴重であり、カートリビジョンから映像を復元することが非常に難しいこともあり、一連の様子をまとめたドキュメンタリー映像まで作成されることとなりました。

なお、このドキュメンタリー映像の名前は「Lost and Found」で、エミー賞まで受賞しています。ただし、Lost and Foundは記事作成時点では既にほとんどどこにも存在しない状態で、Vimeoに短い抜粋動画が存在するだけだそうです。

Lost & Found ‘73 Knicks Championship Tape Excerpt: Intro on Vimeo
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上記のようにそもそもの生産数が少なく、カセットが生産されてから50年以上経過しているため非常に脆く再生することもできず、さらに再生用のビデオデッキもほとんどどこにも存在していないことを挙げ、Turingさんは「カートリビジョンはまさに死んだも同然です。まだ忘れ去られていないものの、1本のテープから数分の映像を復元するのに専門家の長い時間と多大な労力を要したことを考えれば、私の『Adultery for Fun & Profit』が再生できる可能性はゼロです」と記しました。

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