東日本大震災から12年を経て / 何にもなかった日でも

ロケットニュース24

2023年3月11日、東日本大震災から12年を迎えた。今年も新宿アルタ前に足を運び、大型ビジョンに掲出される文字を見上げながら、12年前の14時46分のことを振り返った。

追悼式典の中継はなく、特別なことは何もない。それでも私(佐藤)はここに来て、あの日のことを考えていたかった。

・何もかも特別

今年の3月11日は土曜日。土曜は毎週ポールダンスの朝練をしているので、7時30分に起床して8時には家を出る。少し出遅れてしまったので、コンビニで朝飯を買って行くか迷った。おにぎりでも腹に入れておくか。いや、プロテインバーがいいかな、ゼリーという手もある……。


食べ慣れたものを食うのが1番いいという結論に行きつき、結局いつものドトールでジャーマンドッグとコーヒー。この店には、朝練の時に必ず来る。週3回の頻度で来ている。

なのに、なぜいつも「お砂糖とミルクはお使いですか?」と聞くんだろう。コーヒーはブラックでしか飲まない。毎回断るのも面倒だから、いい加減覚えてくれないかな。少なくともこの3年は、週3で来てるんだし……。


9時から2時間半、みっちり練習したとはいえないけど、楽しい時間を過ごすことができた。練習を終えて丸の内線に乗って新宿へ。まだ時間があるから西新宿駅で降りて少し歩くことにした。


高層ビルを見上げながら、新宿駅西口方面に出て大ガードから歌舞伎町の方へに回る。


すれ違う人の中には、マスクを外している人の姿も目に着く。いよいよコロナ前の生活に戻りそうな気配ではあるけど、私はしばらく用心で着けておくつもりだ。感情が顔に出るタイプだから、口元を隠しておいた方が何かと都合が良い。

実は結構な人見知りで、初対面の人とでもがんばってよくしゃべるように努めている。そんなこと言っても、全然信じてもらえないのが悲しい……。


コーヒーを飲みながらタバコを吸いたいのでルノアールへ。入店したものの、席を案内するスタッフが来ない。どういう理由か知らないけど、土曜の昼間にスタッフ1人で回しているようだった。気の毒にな。

ようやくやってきたスタッフは、「少々お待ちください」の声色に苛立ちがこもっている。わかるよ、私も飲食業の経験があるから。

私はレストランに勤めていた頃、怒りが露骨に出ていた。それがたとえお客さんでもだ。なにしろ感情を隠せないもんだから。未熟モンだったよ。その点、このスタッフはあの頃の私なんかよりもよっぽど優秀だ。あなたは出来る人だ、がんばって。


まだもう少し時間がある。目的もなく歌舞伎町のドンキ前、セントラルロードまでいくと、外国人観光客の姿が見える。やっぱ1度はゴジラを見ておきたいんだね。立ち止まって上を見上げながらパシャリ。デカいから画になるよね。


新宿駅の東南口の方に行ってみると、広場の桜が少し咲きかかっていた。ここは「新宿さくらスクエア」と名付けられているそうだ。13年も新宿に通っているのに、そんな名前とは知らなかったよ。


うららかな春の日和。

何も特別なことはない。


でも全部特別だ。


あの日、電車が止まって多くの人が長い距離を歩いて帰った。

あの日、コンビニから食料品が消えてカップ麺すら買うことが難しかった。

あの日からしばらく、高層ビルの下を歩くのが怖くなった。

あの日からしばらく、街から灯が消えた。


繰り返す余震におののき、眠れなくなった。

不確かな情報に翻弄されて、何を信じたらいいのかわからなくなった。

こんな自分でさえ、あの頃の記憶の一部が欠落して、出来事の前後が思い出せない。


12年を経た今、なんて穏やかな1日だろうか。

静かであたたかい今日のこの日は、

何もかも全部特別だ。


3月11日、毎年決まってこの曲を聞いている。

すべての人に、三宅伸治さんの『何にもなかった日』の一節を。


「いいことがあるといいね

いいことがあるといいね

いいことがあるといいね


君にも僕にも」(三宅伸治『何にもなかった日』より)


何にもなかった日でも。


参考リンク:三宅伸治オフィシャルサイト
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24

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