コオロギ食ビジネスはすでに詰んでいる

アゴラ 言論プラットフォーム

2023年2月、「Pasco」ブランドで有名な製パン会社・敷島製パンと、徳島県小松島市内の県立小松島西高校・食物科が、一部ネット界隈で炎上騒動となった。

これらの共通点が、出した食品にパウダー状に粉砕した食用コオロギを配合していたことだ。

国際社会では、人口爆発に伴う家畜の飼料となる穀物の需要過多による世界的なタンパク質危機「グローバル・プロテイン・クライシス」対策が議論されている。

その1つとして挙がる「昆虫食」のうち、日本では農水省が旗を振る形で「食用コオロギの養殖業」が進められてきた。

これに多くの企業や研究機関が参入し、実際にコオロギ配合食品が商品や給食といった形で世に出されていく中、前述2つを皮切りに炎上が始まったのである。

この騒動を見て私が感じたことは、ネットで上がる声が「昆虫=気持ち悪い」「安全性が不安」のような、昆虫に対する拒絶がメインになっているという点である。

私もコオロギ食に大きな懐疑を抱いているのは同じだが、それは彼らのいう嫌悪感でなく、コオロギ食は此度のような騒動が起ころうと起こるまいとタンパク質危機を解決できるビジネスにはなり得ない、という観点によるものである。

昨今の騒動ではこういった意見が少なく感じられたので、当記事を認めるに至った。

ARISA THEPBANCHORNCHAI/iStock

破綻している「食糧危機対策」

昆虫食のメリットとして挙がるのが、既存の家畜(牛、豚、鶏)と比較して飼料をタンパク質に変換する効率が高く、低コストでタンパク質を生産できるという点である。

しかし畜産は飼料に限らず、飼育空間や環境の整備も重要であり、魚や虫といった小型の動物はむしろ後者を整えて多数を一度に飼育できなければ全滅に至る、というリスクが付きまとう。

コオロギについては本来温暖な気候で繁殖・生育する昆虫のため、コンスタントに養殖するには空調・換気による四季を問わない温度・湿度の一定管理が必須である。

また生育不良や共食いを防ぐために、ケージ毎の過密飼育にも制限がある。

つまりエネルギー・空間コストが既存の家畜より大きく、日本の優位性が低いのだ。

これではタンパク質変換効率の優等生であるブロイラーと比較して、単位面積あたりの収容密度といった生産効率面で優位性を確保できるとは考えにくい。

実際に無印良品のコオロギ配合食品をみるとだいぶ高価で、パウダーの単価でみれば魚粉の5倍程度である

タンパク質危機には魚粉をそのまま提供する方が安上がりで、普及させるにはせめて単価を現在の1/10には抑えられなければ現実味がない。

そして最も重要なのが、コオロギは「タンパク質欲」が強いことから、やはり生育不良や共食い防止のため飼料には穀物といったタンパク源が使われることには変わりなく、いざそれらが不足すればコオロギも他家畜と同様に大量生産できなくなる懸念が強い。

総じて、先述のタンパク質危機対策としてコオロギ養殖が有効である、という前提自体が成り立つか怪ういのである。

どうせパウダーにして摂取するなら、タンパク質優等生である大豆由来のおからや黄粉なり、20年近く前に培養技術が確立し水と肥料があれば培養できるユーグレナなりと、より高タンパク・高栄養かつ安上がりに利用できる選択肢があるだろう。

農水省による「死の接吻」

需要も怪しくなってきたコオロギビジネスが増えている背景には、昨今のSDGsブームに伴う一部世論の後押しに加え、農水省がコオロギ養殖を認定農業者制度の対象として補助金ビジネスに含めている、という2つがある。

農水省の需要を考えない「農業保護政策」に組み込まれていては、コオロギ養殖はやがて農業や畜産のように食い物にされ、喫緊の課題であるコストダウンが叶わず国際競争力を奪われるだろう。

これがSDGsの後押しを受けることで、補助金で生き延びるコオロギ農家が太陽光をはじめとした反社的再エネ事業のように濫立するという、いつか来た道が繰り返されかねない。

このような補助金あさりで成り立つ構造のままでは、日本のコオロギ養殖は「世界のタンパク質危機を改善する」というミッションに届くことはないだろう。

制度利用者からは「コオロギ養殖業に限定した優遇ではない」なる反論が見受けられるが、対象関係なく農水省の補助を受けているという一点で、該当ビジネスは約束された敗北の道を辿っているのだ。 

コオロギから撤退のとき

敷島製パンについては、ネット上の一部界隈で「超熟」などの看板商品を含めたネガティブキャンペーンにまで至っている。

コオロギと関係ない商品まで標的にされたのは気の毒ではあるが、この「SDGs疲れ」が騒がれる御時世に、安易に補助金ビジネスに飛びつき推し進めたことに対する高い授業料として受け止めるべきだろう。

そしてコオロギ養殖という「詰んでいる」ビジネスを推している企業や研究機関には、此度騒動を他山の石として潔く撤退を勧めたい。

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