地球とは時間の流れが違う「月の時刻」はどうやって決められるのか?

GIGAZINE



地球上では協定世界時が用いられており、高精度な原子時計を基準に時刻が決められていますが、月の標準時は決められていません。人類を再び月に送り込むアルテミス計画を始めとする月面開発の機運が高まりつつある中、有識者らは月での時間を決める枠組み作りを急いでいます。

What time is it on the Moon?
https://doi.org/10.1038/d41586-023-00185-z

月には統一された時刻がないので、各宇宙機関の月面ミッションは独自のタイムスケールを使用し、地球にいる運用者を基準にして「今は何時か」を求めています。しかし、それぞれのミッションが単独で行われているうちはまだしも、複数の月面ミッションが合同で行われるようになると不便なので、共通の時間を決める必要があります。


ここで発生する問題が、万国標準時ならぬ「月標準時」をどのように定めるかです。これまでのところ、地球の世界協定時と同期するように設計された時計システムが採用されるのか、地球の時間から独立したものが使われるのかも決まっていません。

2022年11月、世界中の宇宙機関や学術機関の代表者がオランダにあるESAの欧州宇宙研究技術センターに集まって、月時間の定義方法に関する提言の草案作りに着手しました。フランスの国際度量衡局で時間部門を率いているパトリツィア・タヴェッラ氏は、「早急な決断が必要です。もし公式な月の時刻が確立されなければ、宇宙機関や民間宇宙企業がそれぞれのやり方を進めてしまうでしょう。ですから、私たちはすぐにでも警告を発し、共通の時間を決めるための協力を呼びかけなければならないのです」と訴えています。

正確な時刻は、スケジュールだけでなく位置情報にとっても重要です。そこで、地球上で位置情報の特定に活用されているGPSと同様に、月でも専用の全球測位衛星システム(GNSS)が構築されようとしています。各宇宙機関は2030年ごろまでに月面GNSSを作ることを目指しており、NASAは2022年1月に「Lunar Communications Relay and Navigation Systems(月面通信中継・測位システム)」を立ち上げました。また、11月には欧州宇宙機関(ESA)も月衛星測位プロジェクト「Moonlight」を打ち出しています。


しかし、時間の定義を決めるのは容易なことではありません。なぜなら、時間の流れる速さは重力の影響を受けるので、地球より重力が弱い月の時間は地球より速く流れるからです。NASA・ゴダード宇宙飛行センターの航空宇宙エンジニアであるシェリル・グラムリング氏によると、地球の時計に比べて月の時計は24時間に約56マイクロ秒速く進むと見積もられているとのこと。

月の標準時間を定めるには、少なくとも3つの「マスタークロック」を設置し、そこから出力された時間をアルゴリズムで組み合わせて、より正確な仮想時計を作る必要があります。また、時間の流れは時計を置く高さや月の自転などの影響も受けるため、NASAとESAは時計を月の地表に設置するべきか、月を周回する人工衛星に搭載するべきかについて協議を進めています。


こうして作られた時計システムをどう運用するかは、これからの協議で決められる予定です。1つの案としては、月の時間を地球のUTCに同期させることが考えられます。この方式を採用すると、月時間とUTCを定期的に同期する必要がありますが、地球の利用者にとって分かりやすいという利点があります。また、月独自の時間が採用される可能性もあります。

また、研究者らは時間決めのさらに先の構想も練っています。NASAはESAと共同で、「ルナネット(LunaNet)」と呼ばれる枠組み作りを始めました。このルナネットは、月での衛星ナビゲーションや通信、コンピューティングシステムなどをどの国でも利用できる、インターネットのような単一のネットワークを構築するための枠組みです。

グラムリング氏は「ゆくゆくは太陽系インターネットを構築するのが理想です。この太陽系インターネットの最初の部分は月で作られるでしょう」と語りました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

Source