今や、コンビニやスーパーに当たり前の顔して並んでるピザトースト。しかし、私(中澤)が子供の頃はここまで一般的ではなかったと思うんだよな。少なくとも、私の家の近所のスーパーにはなかった。コンビニは、そもそもコンビニ自体がなかったので知らないけど。
つまり、知らんうちに幅を利かせているピザトーストは、ひょっとしたら平成のカレーうどんなのではないか? 掛け合わせる発想で新しい料理を生み出す日本人。私は、後世に残るガラパゴスグルメが定着する過程を生きているのではないか? 胸が熱くなってきたのでピザトースト発祥の店に行ってみた。
・立て看板には「元祖」の文字
その店とはJR有楽町駅の高架を見上げるように佇む喫茶店『珈琲館 紅鹿舎(こーひーかんべにしか)』だ。飲食店が並ぶ一角だが、どことなくハイカラな外観にはなんだか歴史が感じられる。
立て看板には「ピザトースト元祖の店」と書かれており、間違いなくピザトースト発祥の店である様子。料理の見本が置かれている店頭のガラスケースにも、発明当時のことが書かれたパネルが置かれている。ふむふむ、どうやら、当時は高価だったピザを「もっと手軽に楽しめるように」というのが発想の元となっているようだ。しかし……
ピザが高価だった時代っていつのことだろう? 個人的には、今も普通の飯よりは贅沢なものの認識だ。私はよほどパーティー気分の時じゃないと頼まない。とは言え、確かに言われてみたら、子供の頃はもっとハードルが高かったような気もするし……ということはやっぱり平成初期なのだろうか。
・食べてみた
とりあえず、「元祖ピザトーストセット」(税込み1150円)を注文してみた。ミニサラダ、ゆで玉子、バナナ、ドリンク付きのセットで、ドリンクはコーヒー、紅茶、豆乳、キウイ味ジュースなどから選択が可能。私はホットコーヒーである「サイフォンべにしかブレンド」をチョイスしたが、少し酸味が混じっていて飲み心地が軽いのが食後に嬉しい味。
メインのピザトーストはと言うと、ドカンと大きく見た目にも元祖オーラがある。食べてみると、惜しげなく乗せられたチーズは表面こそカリッとしているが、中はトロけて糸を引く。ピーマン、ベーコン、マッシュルームと具もしっかり入っていて、ランチでも満足できる食べごたえがあった。
・店主さんに話を聞いてみた
パンもパリッとするくらいしっかりトーストされており、作りたての美味しさに心が温められるようである。見た目だけでなく食べた後も「さすが元祖」と思わされる手の込み具合だ。店主の村上さんに話を聞いてみたところ……
村上さん「ピザトーストを創ったのは私の母なんですが、当時は、東京でもイタリアンレストランは数店舗しかないような時代でした。それこそ、予約しないと行けないような場所です。
そんなイタリアンレストランに行った時に、父と母はピザをよく注文していたんですね。このピザをなんとか日本の家庭にある材料で作れないかということになり、ピザ生地などは売ってない時代ですので、代用でトーストを使ってみたのが始まりです。メニューができたのはウチの台所です」
──それはいつ頃のことですか?
村上さん「最初はレストランで創業してこれが1957年なんですが、『珈琲館 紅鹿舎』を出すタイミングなので、1964年のことになります。ちなみに、同じ感じで実はツナトーストも発祥なんですが」
──マジですか。そっちの方が凄くないですか? ツナトーストって今や当たり前すぎて発祥があるなんて考えたことなかったです。
村上さん「どちらも全国に広がりましたねぇ」
・ツナトーストの味
おかずトースト界のエジソンやん。というわけで、改めてツナトースト(ランチセット税込み950円)を食べてみたところ、トーストとツマヨナのバランスが良い。今の時代、もっと爆盛りのツナトーストもあると思うが、味がツマヨナにまみれすぎるのが好きじゃない私としては、パンの香ばしさが存在感を持っていて好ましかった。
・落ち着ける店
それにしても、1964年ということは2023年で発明59年。来年は60周年になるわけか。平成初期どころか、サイゼリヤの歴史より長いではないか。まさか、ピザトーストがそこまで歴史ある一品だったとは。
しかし、古き良き日本の喫茶店っぽさが感じられる店内で味わうとそれも納得。その落ち着いたハイカラさは、コーヒーを味わうのにも良いスポットだと思う。銀座~有楽町近辺で時間を潰したい時は立ち寄ってみてくれ。
・今回紹介した店舗の情報
店名 珈琲館 紅鹿舎
住所 東京都千代田区有楽町1-6-8 松井ビル1F
営業時間 月~金11:00~23:00 / 土・日・祝10:00~23:00
定休日 無休
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.