声優に「録音した音声でAIに合成音声を生成させることを認める」契約を迫るケースが増加、声優や組合からは反対の声

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ゲームやアニメに声を吹き込む声優が、「AIで自分の声を再現する合成音声を生成することを認める」という条項を含む契約書にサインを求められるケースが増えていると、アメリカの声優や組合がIT系ニュースサイトのMotherboardで訴えています。声優たちは、こうした契約がまん延することで声優業界全体が大きなダメージを受ける可能性を危惧しています。

‘Disrespectful to the Craft:’ Actors Say They’re Being Asked to Sign Away Their Voice to AI
https://www.vice.com/en/article/5d37za/voice-actors-sign-away-rights-to-artificial-intelligence


AIで声を再現する技術は急速に進歩しており、個人でも本人の音声データを学習させたAIで声を再現することが簡単にできるようになっています。実際にオンライン掲示板の4chanでは、「エマ・ワトソンの声を学習したAIに『わが闘争』を読み上げさせる」など悪用する例が報告されています。

AIでクローン音声を生成する最新ツールが4chan民により「エマ・ワトソンの声で『わが闘争』を読み上げさせる」など悪用されまくる事態に – GIGAZINE


全米声優協会(NAVA)の創設者兼会長であるTim Friedlander氏は、「声優の声を合成する権利をプロデューサーに与える契約条項」を契約書に盛り込む風潮が強まっていると述べています。

Friendlander氏は「多くの声優は、合成音声を認める契約条項が盛り込まれていることに気付かず、契約書にサインしているかもしれません。また、声優への追加の報酬や承認なしに、AIの学習に録音した声を使うことを認めさせる条項もすでに確認されています。こうした契約に同意しなければ仕事を与えないといわれている声優も存在しています」と述べています。

ゲームを中心に活躍する声優のFryda Wolffe氏はMotherboardに対して、「ゲーム開発者やアニメーションスタジオは私の声をAIに覚えさせて、そこから生成した音声を使用し、私の『類似品』を使うことに対して一切補償せず、合成音声を使ったことを私の所属する事務所に知らせることもせず、私からより多くのパフォーマンスを搾取するかもしれません」と懸念を示しています。

また、声優であり演出家でもあるSarah Elmaleh氏は、「喜んで役作りを行い、ブースに入った段階で台本に書かれている特定のセリフに納得できず、はっきりと不快感を示したらどうなるのでしょうか。プロデューサーが私の覚えた不快感に理解を示さず、受け止めてくれなかったら? 通常であれば私たちはそのセリフが使われないように、読み上げを拒否することが可能です。しかし、AIによる合成技術はそれを完全に回避してしまいます」と述べました。

Friendlander氏によると、アメリカでは兼業で声優をやっている人が多いとのこと。9時から17時まで別の仕事をし、それ以外の時間で声優の仕事をこなしている人が多く、声優の仕事がAIの合成音声に奪われることで、声優業界全体が大きなダメージを受けることを危惧しています。


一方で、4chanでも悪用されたAI音声ソフトウェアを開発するElevenLabsの共同創設者であるMati Staniszewski氏はMotherboardに対して、「AIの活躍によって、声優は参加できる録音セッションの数に制限されることがなくなり、任意の数のプロジェクトで同時に使用するための音声のライセンスを取得することができ、追加の報酬やロイヤリティを確保することができます。声優自身もこの可能性を認識しており、すでに数十人が私たちとの提携に関心があると連絡してきています」と述べています。

しかし、Wolff氏はStaniszewski氏の発言について、「声優はライセンス供与や追加報酬を確保することを望んでいるのではありません。こうした無意味な専門用語を並べた物言いは、ElevenLabsが『声優がどうやって生計を立てているのか』を全く理解していないことを明確に示しています。音楽ストリーミング配信のライセンスが、ミュージシャンの追加報酬とロイヤリティのあり方を変えてしまった結果、ミュージシャンがどれだけうまくやっていけているのかをミュージシャン自身に聞けばいいのです」と反論しています。


Friendlander氏は「NAVAは反合成音声でも反AIでもありません。私たちはプロの声優です。声優が業界の成長に積極的かつ平等に関わり、仕事や才能に対して公平に補償されるような契約や能力を失わないようにしたいのです」とコメントしています。

ProZDという芸名で活動している声優のSungWon Cho氏は、「私は完全に合成音声に反対しています。声を合成することは、現実の演技から魂と自発性を奪います。合成音声が完全になくなることを願うばかりですが、少なくとも声優には『録音した声をAIに使わない』という選択肢を与えるべきです」と述べました。

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