沖縄のスイーツといえばお土産としてもお馴染みの「ちんすこう」や「紅芋タルト」などが思い浮かぶが、沖縄県民にとってより身近なスイーツのひとつに「ターンムパイ」がある。
ターンムパイとは、里芋の一種である沖縄の伝統野菜「田芋(たいも、沖縄方言でターンム)」を使ったパイのことで、沖縄県内にいくつか専門店があったり、スーパーで個包装されたものが売られていたりする気軽なスイーツだ。
芋界の花形の紅芋を使ったお菓子と比べると名前も色あいも地味だが、実はこれがめちゃくちゃ美味しいのである。
外はサックリ、中はねっとり!子どももおばあも大好きな味
ひとくちにターンムパイといっても店によって様々な形状があるのだが、サクッとしたパイ生地の中にねっとりとした食感のほんのり甘い田芋ペーストが包まれているのがスタンダード。
田芋の風味が感じられるシンプルかつ素朴な味わいで、小さなお子様からお年寄りまで幅広い年代から人気の定番スイーツだ。家族や親戚の多い沖縄では、差し入れやお持たせとしてこのパイを大量購入する光景もよく見かける。
なかでも工場直売店でのみ味わえる揚げたて熱々のターンムパイは格別の美味しさ。口の中のやけどに注意しつつガブッと頬張ってほしい。
そもそも田芋とはなんぞや
ターンムパイの前に、まずは材料である田芋についてちょっとご紹介しておきたい。
田芋は別名「水芋」とも呼ばれ、その名の通り水田で栽培されている。沖縄で水田のイメージはあまり無いかもしれないが、田芋の一大生産地である沖縄本島北部の金武(きん)町では、見渡す限り水田が広がる風景が見られる。
また那覇からもそう遠くない沖縄本島中部の宜野湾(ぎのわん)市の大山(おおやま)でも水田が広がる一帯があるのだが、いずれも昔から田芋の栽培に欠かせないきれいな湧き水が豊富にある土地ゆえだ。
田芋は水の中で親芋の周りに子芋、孫芋と次々に増えていくことから子孫繁栄をもたらす縁起の良い食材とされており、沖縄では旧正月や清明祭(シーミー)などの年中行事やお祝い事の際に田楽やから揚げにしてよく食べられている。
また田芋の旬である冬の時期には、茎の部分(いわゆる「ずいき」)もスーパーや産直市の店頭に並ぶことがある。このムジを白味噌仕立ての味噌汁に入れた「ムジ汁」は、シャキシャキとした歯ごたえがたまらない沖縄の冬のごちそうだ。
それではターンムパイに話を戻して、いくつかお店を紹介したい。
なかとみ菓子店(中城村)
まずはターンムパイの元祖といわれている、中城(なかぐすく)村にある「なかとみ菓子店」。
沖縄県内のスーパーなどにも個包装のターンムパイを卸している工場直売店で、看板がなければちょっと不安になるような辺鄙な場所にあるが、ここでは直売店ならではの揚げたてのターンムパイが食べられるのだ。
なかとみのターンムパイは1個130円。「たくさんの方に安心して食べてもらいたい」という思いから創業当初から無添加にこだわって作り続けているそう。
パックに入ったまだ熱々のターンムパイを頬張ると、外はさっくり、中はねっとり!のとろける美味しさ。ああ、これこれ。この味。
中の田芋あんがしっとりしていて上品な甘さなので、喉に引っかかることなくぺろりと軽く食べられてしまう。ターンムパイはここのじゃないと!と熱く語るファンが多いのも頷ける。
おおやまパイ(宜野湾市)
田芋産地の宜野湾市大山にあるのは「おおやまパイ」。以前は沖縄を南北に繋ぐ国道58号線沿いにあったが、いまは住宅街のより田芋畑の近くに移転したようだ。
おそらく住宅兼店舗で、チャイムを押して注文する。揚げるのに10分ほどかかるので、今度からは電話で注文してから来て欲しいと言われた。
1パック5つ入りで700円。
揚げたてホカホカで、パックから良い匂いが溢れる。
もっちりとした生地にほどよい甘さの田芋あんがおいしい。揚げたては言わずもがなだが、常温でも、冷やしても美味しいのがターンムパイのポテンシャルの高さだと思う。
田芋工房 きん田(那覇市)
こちらは那覇市にある「田芋工房 きん田」。
本店は田芋の産地である金武町にあって、系列のレストランでは田芋をふんだんに使った田芋膳も食べられる。
ターンムパイは1ピースから購入できるらしいのだが、行った時間はパイが焼きたてで切れないということで1ホール買ってしまった(2,380円)。
結構なお値段だが、中身を見て欲しい。ぎっしりと田芋を使ったあんが詰まっている。
サクサクしたパイ生地のリッチなバターの香りと甘さを抑えた田芋あんがよく合っており、ちょっとした高級スイーツ感すらある。 ちなみにこの店では「田芋チーズケーキ」も有名でそちらも絶品だ。
ミセスマーコの手作りパイの店 アメリ感・アメリ館(北谷町)
最後は北谷町にある「ミセスマーコの手作りパイの店 アメリ感・アメリ館」。
ダジャレのような店名だがレトロな雰囲気のアメリカンレストランの老舗である。「手作りパイの店」を名乗っているだけあって、パイやパフィ(マフィンみたいなやつ)などを購入することができる。
ターンムパイはさきほどの「きん田」同様ケーキのような形状なのだが、ここでは「パイまんじゅう(田芋)」というパイなのかまんじゅうなのか分からない不思議なスイーツが並んでいた。
パイというよりも口の中でホロホロと崩れるタルトのような生地と、ねっとりした田芋の食感が絶妙にマッチして美味しかった。小さめサイズなので小腹が空いたときにも良い。
余談なのだが、このミセスマーコは3号店で同じ北谷町に本店、うるま市に2号店があるらしいのだがミセスマーコとは誰なのか、いつ頃からあるのか全然情報がなく謎に包まれている。
地味だけどすごいやつ
こうしてあらためて見返してみてもやはり絵面が地味だ。
だけどターンムパイは田芋という沖縄ならではの素材を大切にした、地元で長く愛されてきた素朴なお菓子ならではの良さがある。
さんぴん茶はもちろん、コーヒーにも紅茶にもぴたりとはまってしまう、和風でも洋風でもない不思議な味わい。
観光で沖縄を訪れた際には、ぜひ工場直売店を訪れて揚げたてのターンムパイを食べてみてほしい。外はサックリ、中はしっとり。その上品な美味しさにきっと驚くだろう。
一度食べればきっと二度三度食べたくなる、地味だけどすごいやつなのだ。