「私たちは DE&I を分離できないことに気付き始めている」: デジダス 北米法人 クライアントインクルーシビティおよびインパクト担当EVP ダニーシャ・ロマックス 氏

DIGIDAY

ダニーシャ・ロマックス氏はクリエイティブエージェンシーに、口で言うだけでなく実際に行動し、約2年前に始まった多様性、公平性、包摂性(以下、DE&I)の機運を維持するよう呼び掛けている。事実、それがデジタス(Digitas)北米法人のクライアントインクルーシビティおよびインパクト担当エグゼクティブバイスプレジデントに任命された同氏の仕事だ。

38歳のロマックス氏がデジタスの一員になって5年近くが経つ。同氏はこの2年間、デジタスとそのクライアントに対し、疎外されたコミュニティに向けた席を設けるだけでなく、BIPOC(黒人、先住民、有色人種)が所有するプロパティへのメディア投資を増やすという任務を課してきた。

ロマックス氏によれば、BIPOCが所有するプロパティへのメディア投資は実際に増えており、増加率はデジタスのクライアント全体で40%を超えるという(同氏からこれ以上の説明はなかった)。

マーケティングプロセスの各段階で包摂性を確保

「私たちは(多様性、公平性、包摂性を)分離できないことに気付き始めている。人事部門だけの問題ではない」とロマックス氏は述べ、多様性は従業員リソースグループやビジネスリソースグループの枠を超えて広がっていると補足した。「実際に効果を上げるには関連予算が必要だ。そこでクライアントの出番となる」

これは、ロマックス氏が2019年にデジタスの経営幹部と始めた会話で、2020年、DE&Iの内部コンサルティングを行う多文化センターオブエクセレンス(McCoe)の設立につながったもの。同氏によればそれは、デジタスのメディア、戦略、売上、業務チームで働く約25人(プロジェクトや個人の状況によって変動する)のボランティアから成る「小規模で機敏なチーム」だ。

「私たちはビジネスニーズを理解している。McCoeの立場からビジネスの方向性がわかるため、効果的に会話を進めることができる」とロマックス氏は話す。

つまり、1つのテーブルに1席ではなく、多くのテーブルに多くの席を設け、マーケティングプロセスの各段階で包摂性を確保することで、コミュニティを識別、分類する方法、コミュニティと長期的な関係を築く方法をクライアントに思い出させているのだ。

インクルーシブ戦略を重視

デジタスの持株会社ピュブリシス・メディア(Publicis Media)で多文化プラクティス担当プレジデントを務めるリサ・トーレス氏は、ロマックス氏が着任する前、デジタスのインクルーシブ戦略は必要に応じて行われていたと話す。つまり、クライアントが求めれば優先され、エージェンシーの仕事の不可欠な一部にはなっていなかった。

「彼女はとても知的で、好奇心が強く、オープンで、より包摂的になる方法を見つけたいと考えていた」とトーレス氏は振り返る。「当時のデジタスには何もなかった」

とはいえ、包摂性が不十分だったのは意図的ではない。ロマックス氏自身は、McCoeの土台はデジタスの従業員リソースグループやビジネスリソースグループで大部分が築かれたと語っている。従業員の定着という観点から見れば、効果はあった。しかし、2020年以前は多くのエージェンシーがそうだったように、クライアントに対する専門的なDE&Iプラクティスは存在しなかった。トーレス氏によれば、クライアントから問い合わせがあったときのみ優先される状況だったのだ。上層部の説得は必要だったが、2020年夏にインクルーシブを推進したことで勢い付いた。

「この2年間で、文化マーケティングの軌道が変わった」とトーレス氏は話す。「バックエンドよりフロントエンドが中心になり、外側にボルトで留めたようなものではなく、目の前の仕事と一体化したものになった」

セフォラとのキャンペーンは最大の成果に

ロマックス氏の取り組みから生まれた最大級の仕事が、セフォラ(Sephora)のキャンペーン兼ドキュメンタリー「ビューティー・オブ・ブラックネス(Beauty of Blackness)」だ。デジタスのMcCoeと提携する前から、ビューティーブランドのセフォラは多様性を重視しており、在庫の15%を黒人所有企業の製品にするという15パーセント・プレッジ(15 Percent Pledge)に率先して取り組んだ大企業のひとつだ。デジタス、McCoeとの提携によって、そうした取り組みはさらに強化され、より包摂的でクリーンな製品を提供するブランドへの進化を示すことができた。

セフォラのブランドおよび統合マーケティング担当シニアバイスプレジデントであるアビゲイル・ジェイコブス氏は「ロマックス氏は、このブランドが黒人コミュニティや黒人文化、そして、美容業界全体にとってどれほど重要かを理解させてくれた声のひとつであり、そのストーリーを全く新しい形で伝える方法を一緒に考えてくれた」と語る。

ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter:BLM)運動が盛り上がり、社会正義を求める声が高まった2020年、広告業界全体で、包摂性の必要性は単なる会話のテーマからビジネス上の優先事項に変わった。エージェンシー、ブランド、企業がこぞって人種的な偏見を非難し、黒人メディアへの広告投資、有色人種の雇用、より包摂的なキャンペーンなど、よりよい行いを約束した(詳細はこちらの記事こちらの記事を参照)。

一方で現在は人材の多様性が停滞気味で、業界の進歩が懸念される

米国広告業協会(4A’s)の人材、公平性、学習ソリューション担当エグゼクティブバイスプレジデントであるタリシャ・ウィリアムズ氏はDIGIDAY宛てのメールで、「現在、エージェンシーは作品の包摂性を保証する多文化クリエイティブアドバイザリーグループを社内に設置するようになっている」と説明している。たとえば、ブリーフィングやクリエイティブレビューにDE&Iのリーダーが参加する、文化に特化した評価ツールを設計・導入する、DE&I目標達成に向けたフレームワークを構築する、またはデジタスがMcCoeで行ったように、社内に多文化クリエイティブアドバイザリーグループを設置するといった方法がある。

ただし課題は、エージェンシー内に代表者がいないということで、特定のコミュニティに属する個人を過剰にインデックス化することなく、このようなグループを維持することだとウィリアムズ氏は指摘する。「このため、エージェンシーには代表者がいないことの影響が見られ、その結果、人材の多様性に関する懸念がさらに高まっている」

残念ながら、一部のエージェンシーが最新の多様性データとして平凡な結果を発表するなど、業界の善意はまだ十分ではない。過去にDIGIDAYの取材を受けた黒人クリエイターたちは、業界の進歩は停滞しており、DE&Iに関する会話も立ち消えになっていると話している。

クライアントに何度も語りかけ意義を思い出させる

トーレス氏は業界の現状について、「DE&Iに関する意識が低下している時点で、別のマーケティング手法を考えなければならない」と述べている。「そこに私やロマックス氏のような人間が現れてこのようにいう。『これが必要だ。これがあなたのビジネスに不可欠だ。ただし、正しい方法で、敬意を持って行わなければ意味がない』と」

ロマックス氏自身もこの課題に直面し続けると考えており、クライアントに何度も取り組みを思い出させることになると想定している。「そのような繰り返しはやはり少し困難を伴う。ただ一般市場に向けて語るだけでなく、ブリーフを提出する必要があることを思い出させる必要がある」と同氏は話す。「業界の性質上、焼き付いてしまっている課題もいくつかあり、私たちは今もそれらに取り組んでいる」

まだやるべきことはたくさんあるが、ロマックス氏は2023年の計画をすでに立てており、それらに希望を抱いている(同氏からこれ以上の説明はなかった)。ロマックス氏は2児の母として、希望を持たなければならないと考えているのだ。「子どもたちには違う未来を生きてほしいと心から願っている。母親が違う未来をつくろうとしている姿を彼らに見てほしい」

[原文:‘You have to do a different way of marketing’: How Digitas’ Danisha Lomax challenges the industry’s DE&I efforts

Kimeko McCoy(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:島田涼平)

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