四半期の期末月が1カ月だけ先行するMicron
半導体メモリの大手メーカーであるMicron Technology(以降はMicronと表記)の四半期業績は、半導体メモリ業界では景況の先行指標として知られている。四半期の期末月がほかの半導体メモリメーカーに比べ、1カ月だけ先行しているからだ。ほかの半導体メモリ大手よりも、四半期業績の発表時期が約1カ月早い。Micron以外の半導体メモリ大手は、1カ月後の決算発表でMicronと類似の業績を示す可能性が少なくない。
通常、四半期の区切りは1月~3月、4月~6月、7月~9月、10月~12月である。1年は1月に始まり、12月に終わるからだ。会計年度の期末(決算期)をどこに置くかは各社で違うものの、区切りは変わらない。
ところがMicronの区切りは9月~11月(第1四半期)、12月~2月(第2四半期)、3月~5月(第3四半期)、6月~8月(第4四半期)となっており、一見では分かりにくい。分かりにくさはあるものの、四半期業績の発表時期はたとえば第1四半期は12月末であり、10月と11月の実績を先行して半導体メモリ関係者が把握できるという利点が生じる。ほかのメモリメーカーが10月と11月の実績を含めた業績(10月~12月期)を発表するのは翌年の1月中旬以降になるからだ。
特に現在のように半導体メモリの市況が急激に悪化しつつある状態(参考記事)だと、普段よりもMicronの四半期業績に注目が集まるのは避けられない。
売上高は前年同期の半分近くにまで減少
注目の四半期業績をMicronは2022年12月21日(米国時間)に発表した。2022年9月~11月期(2023年会計年度第1四半期)の四半期業績である。売上高は前期比(前四半期比)38.5%減、前年同期比46.9%減の40億8,500万ドルといずれの比較でも大幅に減少した。営業損益はGAAPベースが2億900万ドルの損失、Non-GAAPベースが6,500万ドルの損失である。
Micronの営業損益が四半期ベースで赤字になるのは、2016年6月~8月期(2016会計年度第4四半期)以来のことだ。およそ6年ぶりの営業赤字となった。最終損益も赤字で、GAAPベースが1億9,500万米ドルの損失、Non-GAAPベースが3,900万米ドルの損失である。
粗利益率(Non-GAAPベース)は23%とかなり低い。前期(前四半期)の粗利益率は40%、前年同期の粗利益率は47%である。前年の半分の水準に下がったことが分かる。
DRAMとNANDフラッシュの売り上げがいずれも大幅減
2022年9月~11月期(2023年会計年度第1四半期)の売上高を製品分野別にみると、主力製品であるDRAMとNANDフラッシュメモリの両方ともに販売額を大きく減らしている。
DRAMの売上高は28億2,900万米ドルで、全体の69%を占める。前期比(前四半期比)は41%減、前年同期比は49%減と大幅に低下した。ビット換算の出荷量は前期比で25%前後の減少、平均販売価格は前期比で20%台前半の低下だった。
NANDフラッシュメモリの売上高は11億300万ドルで、全体の27%を占める。前期比は35%減、前年同期比は41%減とかなり減らした。ビット換算の出荷量は前期比で15%前後の減少、平均販売価格は前期比で20%台前半の低下だった。
半導体メモリの需給バランスは過去13年間で最悪の厳しさ
Micronのプレジデント兼最高経営責任者(CEO)を務めるSanjay Mehrotra氏は、12月21日の業績説明会でDRAMとNANDフラッシュメモリの需給状況(供給過剰)は業界全体で「過去13年間で最も厳しい状態にある」とコメントした。
13年前とは、米国におけるサブプライムローンの不良債権化で始まった「リーマンショック」による景気後退を指すものと見られる。2009年2月期(2009会計年度第2四半期)にMicronは9億9,300万ドルの売り上げに対して営業赤字(GAAPベース)が7億800万ドルに達するなど、惨憺たる状況に陥った。
このような最悪に近い事態を避けるため、4つの対策をMicronは打ち出した。(1)設備投資の抑制、(2)生産数量(ウェハ投入枚数)の削減、(3)最先端技術ノードの量産延期、(4)事業コストの削減で構成する。
設備投資の抑制では、2023会計年度(2022年9月~2023年8月)のウェハ処理装置への投資額を前年度に比べて50%未満に減らす。2024会計年度(2023年9月~2024年8月)のウェハ処理装置への投資額は2023会計年度よりも低くなる。ただし建屋への投資額は2023会計年度から増やす。
生産数量(ウェハ投入枚数)の削減では、11月26日に発表(参考)したように、ウェハの投入枚数を2022会計年度第4四半期(2022年6月~8月期)に比べて約20%削減する。なおウェハ投入枚数削減の効果が生産工程全体に及ぶのは、2023会計年度第3四半期(2023年3月~5月期)の始めになる。
最先端技術ノードの量産延期では、1β(ベータ)nm世代のDRAM量産立ち上げペースを当初計画よりもゆっくりとしたペースに調整する。次世代ノードである1γ(ガンマ)nm世代のDRAM製品は2025年に発表予定となる。また232層を超える次世代3D NANDフラッシュメモリの量産開始時期は、需給状況の変化を注視しつつ、遅らせる。
事業コストの削減では、歳量の余地がある経費を年内に削減するともに、製品計画の見直し、役員報酬の減額、賞与の停止、約10%の従業員数削減(自然減と人員削減策を併用)などによって2023会計年度中に四半期当たりの事業経費をおよそ8億5,000万ドル削減する。
200日を超える過剰な在庫水準、ピークは次の四半期に
上記の対策は、次の四半期(2023会計年度第2四半期)では、それほど効果を発揮しない。2023会計年度第2四半期(2022年12月~2023年2月期)の売上高見通しは38億ドル±2億ドル、粗利益率の見通しは8.5%±2.5%である。いずれも同年度第1四半期(2022年9月~11月期)に比べて低い水準に留まる。
業績見通しが芳しくない理由の1つに、過剰に高い水準の在庫回転日数(DIO : Days Inventory Outstanding)がある。1年ほど前の2022会計年度第1四半期(2021年11月期)にDIOは103日に留まっていた。Micronは95日~105日のDIOを適正水準と考えており、同四半期の業績発表では今後のDIOは100日未満に低下するとの楽観的な見通しを描いていた。
ところが2022会計年度第4四半期(2022年8月期)に、DIOは139日と危険水域へと増加する。さらに今期(2023年度第1四半期(2022年11月期))は、DIOが214日と著しく過剰な水準へと急増してしまう。しかもDIOのピークは今期ではない。次期(2023会計年度第2四半期(2023年2月期))になる見通しだ。
次々期(2023会計年度第3四半期(2023年5月期))からはDIOが徐々に短くなる。同期は、ウェハ投入枚数の削減が出荷全体に効果を発揮する四半期と重なる。ここから業績悪化が底を打ち、回復への階段を登り始めるというシナリオだ。このシナリオは、2023年(暦年)の後半、具体的には2023年(暦年)7月以降の景気回復という見通しに一定の根拠を与えている。しばらくは半導体メーカーにとって忍耐の日々が続きそうだ。
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