「来年のことを言うと鬼が笑う」ということわざがある。
「鬼」も空想なら「その笑い声」も空想。空想の2乗なのに、私の中にはなぜか確固たる「鬼の笑い声イメージ」がある。皆さんの中にある鬼の笑い声はどんなだろう?聞いてみたい。
1980年、東京生まれ。片手袋研究家。町中で見かける片方だけの手袋を研究し続けた結果、この世の中のことがすべて分からなくなってしまった。著書に『片手袋研究入門』(実業之日本社)。
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年末、大いに笑おうぜ!
早速、私を含めて4人のメンバーに集まってもらった。年の瀬の忙しい時期だからこそ、皆で笑いまくりたい。
今回やることは以下の通り。
①自作の鬼のお面をつけて笑う様子を、それぞれが事前に動画で撮っておく
②その動画をZOOMで鑑賞しあう。果たして皆のイメージは一致するのか?
さあさあ、早速順番に鬼の笑い声を披露していこう。。
①石井の鬼の笑い声
鬼の笑い声以前に「最初のは何なんですか?」という質問が飛び交ってしまったので、説明しよう。鬼の気持ちを作るために最初に来年の抱負を述べ、それから鬼になって笑う、という一人二役作戦を取ったのだ。
笑い声でこだわったのは「豪快さと包容力」。気の早い人間を豪快に笑い飛ばしつつ、根本的には「それも人間よの~!」と理解してくれる懐の深さ。今回、ことわざの語源はあえて調べなかったが、来年のことを聞いて笑う鬼は、きっとそんな奴に違いない、と思うのだ。
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②林さんの鬼の笑い声
一聴して「あ、私とは方向性が違う」と感じた。笑いの間隔が短いため、豪快さをあまり感じないのだ。
林さんとしては「たまにいる、笑ってるんだか怒ってるんだか分らないおじさん」をイメージしたので、8秒くらいからの後半は特に自信があるそうだ。確かに、しばらく聞いてて「あ、笑ってるんだな」と判明するおじさんっている。
皆からは「下っ端の鬼っぽい」や「子供と仲良くなれそう」などの意見が上がった。ともあれ、2人目にしていきなりイメージが一致していない!
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③べつやくさんの鬼の笑い声
あれ?これは鬼の迫力をまったく感じないのだが?
「私、動画で毎週、鬼に声を当てているので、鬼と自分がほぼ同化していて」
そうだ、べつやくさんはプープーテレビでほぼ毎週、ももたろうシリーズをアップしてるんだ!そのため「架空のあの地獄にいる鬼」ではなく「毎週出てくるお馴染みの鬼」という感覚になってしまうそう。鬼に対してこんな特殊な事情がある人、この世で一人かもしれない。
皆からは「これは動画で聞き慣れた感じ」「もはや加藤みどりとサザエさんの関係」という意見のほか、「鬼なのに縦長動画だと急に今っぽくなる」という意外な発見もあった。
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④つりばんど岡村さんの鬼の笑い声
いやいや、まず青鬼なのか!つりばんどさんは「皆、赤鬼で来るだろう」と予想し、青鬼を選択したという。
手の込んだ立体的なお面も素晴らしい。「ちゃんとカツラまで用意して凄い!」と褒める私に、「たまたま部屋にあったものですよ」と謙遜するつりばんどさん。さすが様々な格好に扮した記事を書いてるだけある。「備えあれば憂いなし」を見せつけられた思いだ。
肝心の笑い声だが、私は「ボスを倒した後に出てくる本当のボス」という感じがしたし、皆も世界征服を狙っている悪役っぽさを感じていた。つりばんどさん自身は最初の一声、鼻で笑う感じに命を懸けた、とのこと。独特のあざ笑う感じは最初の短い「フンッ」によって醸し出されているのだ。
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鬼の笑い声は違う
う~ん。四人とも全然違う鬼の笑い声だ。そもそも四人の描いた鬼が違う。
鬼自体のイメージすら四者四様なのか。私は少し悲しい気持ちになってしまった。何故なら今回、皆の鬼の笑い声を知りたいと思ったのには訳があったからだ。
子供の頃、怖かったこと
子供の頃、ふと考え出したら怖くて怖くてたまらなくなった問題がある。例えば味覚は人それぞれ異なっているなら、同じものを食べても違う味を感じているはず。同じように、私が感じる青色と他人が感じる青色も違うし、プールの冷たさも口内炎の痛さも違う。だとしたら、みんなが生きている「世界」なんてものはなくて、1人1人違う世界を生きてるんじゃないだろうか?…怖い。
ところが。
大学生の時、話の流れは忘れたが「来年のことを言うと鬼が笑う」の話になったことがあった。その時、私は何の気なしに「ヴワ~ハッハッハッハッハ~」と鬼の笑い声を真似てみた。するとその場にいた2人が、「あ!まさに同じ笑い声を思い描いてたわ」と言い出したのだ。
色や味覚といった具体的な感覚すら異なるのに、空想の生き物の空想の笑い声は一致した。「やっぱり、ちゃんと同じ世界に生きてるじゃないか!」。鬼の笑い声は私にとって微かな希望であった。
でも違った。鬼の笑い声も全然違った。やっぱり我々が共に暮らす共通の世界なんてないのか…。
共通する鬼はある
しかし、つりばんどさんがこんな意見を語ってくれた。
「でも、石井さんのを聞いた瞬間、これだ!って思いましたよ」
べつやくさんも語る。
「そうそう。だから大学生の時の友達の気持ちも分かる。これが鬼の笑い声だよ、と言われて石井さんのを聞いたら、納得感はありました」
結局、私の鬼の笑い声は「それぞれの中にある鬼の笑い声とは違うが、みんなが共有できる笑い声の範疇には入っている」という結論が出た。
人間ひとりひとりの内面にある世界はまったく異なっているが、だからこそ妥協や共有できる部分を探る必要があるし、そういう部分は確実に存在もしている。全人類に伝えるべきメッセージの象徴が、私の鬼の笑い声だったなんて。
いや~、皆さんのおかげで年末に清々しい気持ちになれた。きっと来年も素晴らしい年になるぞ!
…しまった。つい、熱くなって来年のことを話しちゃった。笑われてらぁ、鬼達に。