アルゼンチンのバリローチェ原子力センターと国立科学技術研究評議会(CONICET)・ブエノスアイレス・バイオキミカス研究所の研究者が共同で行った研究により、オスのショウジョウバエは交尾中にメスのショウジョウバエに化学物質を注入し、交尾後にメスが眠るよう仕向けていることを発見しました。これはメスが他のオスと交尾することを防ぐための行為だと考えられています。
Mating disrupts morning anticipation in Drosophila melanogaster females | PLOS Genetics
https://journals.plos.org/plosgenetics/article?id=10.1371/journal.pgen.1010258
Male fruit flies found to transfer chemical to females to induce sleep, so they won’t mate with other males
https://phys.org/news/2022-12-male-fruit-flies-chemical-females.html
ショウジョウバエに関する過去の研究で、野生のショウジョウバエは太陽が昇る1~2時間前に睡眠状態から目覚めることが明らかになっていました。しかし、ショウジョウバエは交尾後に睡眠サイクルを変化させることもわかっているため、研究チームは交尾後のショウジョウバエの活動について調査しました。
研究チームは実験室内で複数のショウジョウバエを飼育し、カメラを使ってその活動を4日間観察しました。観察中はショウジョウバエに昼間と夜間を認識させるために、一定周期で実験室を明るくしたり暗くしたりしたそうです。
この実験の中で、ライトが点灯した後に目を覚まして飛び回るのが「オス」と「交尾前のメス」だけであり、交尾後のメスは睡眠サイクルが変化していることが明らかになりました。ここから、交尾後のメスは睡眠サイクルが交尾前から変化することが明らかになっています。これは、交尾後のメスのショウジョウバエではピックポケット(ppk)発現ニューロン上の性ペプチド受容体(SPR)が活性化し、夜から昼への移行を予測する能力を失ったことが原因だそうです。なお、ppkにおける受容体の発現が低下すると、交尾したメスのショウジョウバエの睡眠サイクル予測能力が回復し、「オス」や「交尾前のメス」と同じ通常の生活習慣に戻ることも確認されています。
さらに、1日の活動の時間的構成に中心的な役割を果たす色素拡散因子(pdf)陽性外側腹側ニューロン(sLNv)と、ppk+ニューロンとの接続性も確認されました。pdfは朝の活動ピークの生成に関連していることから、交尾がpdfレベルを調整する可能性があると研究チームは推測。さらに、ppk+ニューロンにおけるSPRの減少が、オスで観察されたpdfレベルに類似していることも確認されています。
以下の動画は交尾したメスのショウジョウバエの脳内で、ppk+ニューロンの樹状突起とシナプス前端末が、シナプス後マーカー(オレンジ)とシナプス前マーカー(緑色)の発現で視覚化されたもの。なお、赤色部分はpdfニューロンです。
Male fruit flies found to transfer chemical to females to induce sleep – YouTube
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研究チームは交尾中のオスのショウジョウバエが、精子と共にペプチドをメスの体内に放出することを確認しており、これがメスのショウジョウバエの生活リズムを変えるのではと仮定。上記の動画は、「オスがメスに注入するペプチドが、脳に移動して睡眠に関する脳の部位と相互作用している」ことを示しているというわけ。
オスのショウジョウバエが交尾の際にメスに化学物質を注入し、メスの睡眠サイクルを変えてしまう理由について、研究チームは「オスのショウジョウバエがメスに子孫を確実に産ませるために時間と共に進化してきた生存戦術のひとつである」と結論付けています。
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