メモ
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対する制裁の一環として、2022年2月末ごろからアメリカの半導体大手であるIntelとAMDなどがロシアへの半導体販売を停止しています。その一方でロシアへの半導体供給の経路は開かれたままとなっており、その原因や実態についてロイターがまとめています。
The supply chain that keeps tech flowing to Russia
https://www.reuters.com/investigates/special-report/ukraine-crisis-russia-tech-middlemen/
China bans export of its Loongson CPUs to Russia | TechSpot
https://www.techspot.com/news/96966-china-bans-export-loongson-cpus-russia.html
アメリカ政府は2022年2月24日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、半導体や航空部品に関するハイテク製品の輸出規制を発表しました。この輸出規制は「軍事目的のチップや民間と軍事の両方で利用できるチップ」に限定されており、人道的な目的の製品やPC、スマートフォンなどの消費者向け製品については規制対象となっていませんが、規制対象についての厳重なチェックを要するため、IntelやAMDは全ての製品輸出を停止しています。
IntelとAMDがロシアへの半導体販売を停止、TSMCも制裁に参加でロシアの国産チップにも影響する可能性 – GIGAZINE
輸出規制が発表された翌月となる2022年3月、トルコのビジネスマンがAzu InternationalというIT製品の卸売企業を立ち上げ、直ちにアメリカからロシアへのPC製品等の輸出を開始しました。ロイターの取材によると、Azu Internationalの共同設立者であるゴクテク・アグバズ氏はドイツでSmart ImpexというIT製品の卸売業者を経営しており、その連携もあってAzu Internationalは急速に成長し、7カ月で2000万ドル(約26億円)相当の部品をロシアに輸出したとのこと。アグバズ氏はその仕組みについて「Smart Impexはロシアへの輸出もロシアでの販売も行えませんが、トルコへ販売することはできます。そして、EUの非加盟国であるトルコからロシアへの輸出は規制されていません」と説明しています。
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)とロイターの共同調査によると、西側諸国の輸出制限にも関わらずロシアへの供給経路が開かれたままであるAzu Internationalのような例はいくつかあり、輸出規制が行われてから2022年10月末までの7カ月で、少なくとも26億ドル(約3450億円)の電子部品がロシアに出荷されていることが確認されました。そしてそのうち7億7700万ドル(約1030億円)がロシアの兵器システムのチップとして製造されていたそうです。
アメリカ商務省のスポークスパーソンは「輸出規制の実施以降、経済制裁に対応した38カ国の行動により、ロシアへの半導体輸出は70%近く削減されました」と述べていますが、ロイターはこれに対し「ロシアの税関データを調べたところ、侵略以来、ロシアによる半導体輸入の申告価格は、実際には急激に上昇していることが判明しました」と指摘しています。スポークスパーソンはこれに対し「商務省が別のデータを分析したため、ロイターの調査結果についてコメントできません」と述べています。以下の画像は、ロシアの税関記録から作成された「インテル製品のロシア向け輸出額」のグラフで、2022年4月から輸出額が急激に上昇し続けていたことがわかります。
ロイターは半導体メーカーであるIntel、AMD、テキサス・インスツルメンツ、Infineonに対し、2022年春から秋ごろまででロシアに到着した製品の出荷について、ロシア税関のデータを提供しました。これを受けてIntelの広報担当者は「調査結果を非常に真剣に受け止めており、この問題を調査しています」と述べたほか、AMDの広報担当者は「AMDはすべての輸出規制に厳密に準拠しており、ロシアでの製品の販売とサポートを停止しています」と現状が意図しないものであることを回答しました。また、テキサス・インスツルメンツも「2月末以降、ロシアに出荷していません」と述べ、Infineonも「ロシアのウクライナ侵略後、世界中のすべての流通パートナーに配達を防ぐよう指示した上で、制裁に反する製品やサービスの転用を防ぐ強力な措置を実施しています」と規制を順守する厳格な姿勢を示しました。
また、輸出規制を回避して出荷する外国企業だけではなく、ロシア国内の企業が「輸出規制への対処」に動いている例もあります。モスクワに本拠を置くOOO Novelcoは、外国製品の輸入を継続する方法についてロシア企業向けにセミナーなどで助言を行い、中国領マカオをロシアへの出荷地点として利用したり、イスタンブールに半導体の出荷を目的とした企業を設立したりと、新型コロナウイルスの流行による輸出制限で経験した教訓を生かした戦略を行っています。
さらなるケースとして、ロイターはAO GK Radiantというモスクワの電子部品販売業者を例に挙げています。AO GK Radiantは2022年で設立30周年を迎える企業で、ロシアの顧客に西洋製チップを輸入していました。2021年7月にアメリカ商務省は「アメリカ原産の電子部品を調達して、ロシアの軍事計画を促進する可能性が高い」としてAO GK Radiantを貿易制限リストに追加し、ロシアの通関記録によると、AO GK Radiantの輸入はその後激減しました。しかし、ロイターとRUSIの共同調査の結果、同社は「ビルの同じフロアを本社とするTitan-Microという設立一年未満の企業が西側諸国からのチップ輸入を行っており、そこはAO GK Radiantが運営しています」と判明しました。ロイターによると、Titan-Microはモスクワ北部の森の奥深くにある木造の家を住所としていますが、実際にコンタクトを取ったところ、従業員はAO GK Radiantと同じビルの11階で働いていると語ったそうです。
西側諸国からの厳しい経済制裁を受けているロシアでは、友好関係を維持している中国からの輸入が増加しています。しかしその一方で、中国のIT企業・Loongson CPUの輸出を中国政府が禁止したとロシアの日刊紙・Kommersantが報じました。Kommersantによると、中国の輸出規制は西側諸国の経済制裁を目的とした規制とは異なり、Loongsonのチップが中国の軍産で使用されており、中国もロシア同様に輸出規制を強く受けていることから、国内用に保持することを意図しているそうです。Loongsonの輸出規制が正式に行われた場合の直接的な影響は高くないと見られていますが、「ロシアが中国から輸入した半導体は不良品率がかなり高い」という報道もあったことから、「他国を経由した西洋諸国からの供給がブロックされた場合、中国からの供給も途切れると、ロシアは大きな打撃を受ける可能性があります」とテクノロジー系メディアのTECHSPOTは指摘しています。
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