欧州で暗躍するロシアのスパイ活動:ドイツの分析官が露に機密を流す

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ドイツで21日、首相直属機関の情報機関「連邦情報局(BND)」の上級職員が、ロシアに国家機密を漏らしたとして、反逆容疑で逮捕された。それに先立ち、今月19日、オーストリアで39歳のロシア系ギリシャ人が国家機密をロシアに流していたことが発覚したばかりだ。一見、両スパイ事件は発覚時期が近いだけで無関係のようだが、両スパイ事件には共通点がある。

コンピューターのビッグ・データ分析(BND公式サイトから)

BNDのカーステン・Lとオーストリアの39歳のスパイ容疑者は不法に入手した情報をロシアに流していた。前者はドイツ人であり、後者はロシア系のギリシャ人だ。

まず、ドイツのケースを整理する。容疑者カーステン・LはBNDの上級職員だ。LはロシアにBNDの機密情報を流していた。LはBNDで同盟国の情報機関から得た最高機密に接することができる立場にあった。すなわち、ドイツの対外情報局の最高機密を取り扱う外国偵察分野の上級職員であり、BNDが世界中から集まってきた盗聴情報などを分析する責任をもっていたのだ。

カーステン・Lは12月21日、ロシアのためにスパイをし、ロシアの諜報機関に情報を送信していた容疑で逮捕され、拘留されている。連邦検察庁は、彼の犯罪を「反逆罪の疑いがある」と呼んでいる。反逆罪とは、ドイツでは「刑法第93条の意味する国家機密」を不法に流すことでドイツ連邦共和国の対外安全保障に重大な損害を与えた事例を意味する。ブッシュマン法相は「警戒しなければならない犯罪だ」と述べている所以だ。

Lが入手できた資料には、米国の国家安全保障局(NSA)や英国の傍受サービス政府通信本部(GCHQ)からの機密情報も含まれていたはずだ。それゆえに、Lを通じて友好的なシークレットサービスからの情報をロシアが入手していた可能性が出てくるわけだ。ハベック独経済相はこの事件を「特に心配している」と憂慮したのは当然だろう。例えば、産業スパイに対する防御に関連する情報もあるからだ。

ブッシュマン独法相はBNDの今回の対応を評価し、「疑惑が確認されれば、ロシアのスパイ活動に対する重要な打撃となるはずだ」と述べている。この事件はロシアがドイツの政情を不安定にするために、スパイ活動をしていることを改めて明らかにした、と受け取られている。

BNDのブルーノ・カール長官は事件に関し、「現時点でこれ以上の情報公開はできない。捜査内容の詳細を公にすれば、ドイツを傷つけようとする意図を持った敵国を利するからだ」と述べている。

このコラム欄でも既に報告したが、数日前、隣国オーストリアでもロシアのスパイが発覚したばかりだ。オーストリアの対諜報機関によると、ロシア系の39歳のギリシャ人は、ロシアの秘密情報機関「ロシア連邦軍参謀本部情報総局」(GRU)のために数年間スパイ活動を行い、オーストリアの国益を害した疑いが発覚したという。オーストリア内務省が19日、公表した。容疑者は現役時代に外交官としてドイツとオーストリアに駐留していた元ロシア諜報機関職員の息子だ。

39歳の容疑者は、ロシアで特別な軍事訓練を受けた後、GRUで働いていた。彼はさまざまな国の外交官や情報当局者と接触していた。容疑者はほとんど収入がないのにもかかわらず、2018年から22年初頭までの期間に、合計65回、オーストリア国内外を旅行している。他のヨーロッパ諸国だけでなく、ロシア、ベラルーシ、トルコ、ジョージアにも投資し、ウィーン、ロシア、ギリシャでいくつかの不動産を取得しているという。

なお、アンチ・テロ対策のコブラ部隊は今年3月、ウィーン市22区の容疑者の拠点を襲撃し、信号検出器、聴取装置、防護服、携帯電話、PC、タブレットなどを押収、そこから数百万件のファイルが見つかっている。

ロシアのプーチン大統領は今月19日、治安部隊に対し、「外国の諜報機関の行動は直ちに鎮圧されなければならない。裏切り者、破壊工作員、スパイは捕まえなければならない」と強調し、スパイ活動の強化と共に外国スパイ活動の撲滅を命令している。プーチン氏の治安部隊への発言は、欧米情報機関の関連情報がLを通じて伝わっていることを強く示唆している。

NSAと米中央情報局(CIA)の元局員エドワード・スノーデン氏を思い出してほしい。米国がスノーデン氏のモスクワ移住で最も懸念したことは米諜報機関のエージェント名、拠点、モスクワ内の支援者名がロシア側の手に落ちることだった。そのため、米国側はスノーデン氏のロシア移住直前に、海外のエージェントの再編成を実施したことは間違いないはずだ。

ところで、排除できない点は、39歳の容疑者がドイツのBNDのLと接触していた可能性だ。ひょっとしたら、今年3月にオーストリア治安関係者から尋問を受けた容疑者はBND内のLの存在を漏らしたかもしれない。押収されたファイルから情報提供者としてのLの名前が浮かび上がったのかもしれない。警戒しなければならない点は、ロシア軍のウクライナ侵攻以後、ロシアの治安機関の活動が強化されていることだ。

蛇足だが、欧州で暗躍するロシアのスパイ・エージェントの4人に1人はウィーンに拠点を置いているという。ロシアのスパイは、東西両欧州の中間に位置し、中立国であり、国際都市のウィーンを愛している。「会議は踊る」と揶揄されたことがあるウィーンでは、舞踏会のシーズンとなれば到る処からワルツが流れる。ウィーンっ子はモーツァルトやベートーヴェンの音楽よりも、ヨハン・シュトラウスのウィンナー・ワルツを愛する。そのワルツに乗ってスパイたちが息を潜めながら舞い続けている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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