近年は「住んでいる場所の周辺環境」が寿命や健康状態に影響することが知られるようになり、自然の多い場所に住むとさまざまなメリットがあることが報告されています。アメリカ農務省山林局とバルセロナグローバルヘルス研究所(ISGlobal)が主導した新たな研究では、「植えられている街路樹が多い地域では住人の死亡率が低い」という結果が示されました。
The association between tree planting and mortality: A natural experiment and cost-benefit analysis – ScienceDirect
https://doi.org/10.1016/j.envint.2022.107609
Planting Trees Can Save Lives, Study Shows – News – ISGLOBAL
https://www.isglobal.org/en/-/plantar-arboles-puede-salvar-vidas-segun-un-estudio
People in Portland Planted Trees. Decades Later, a Stunning Pattern Emerged : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/people-in-portland-planted-trees-decades-later-a-stunning-pattern-emerged
さまざまな研究結果が自然と触れ合うことで健康にメリットがあると示していますが、ISGlobalの研究者であるPayam Dadvand氏は、ほとんどの研究は衛星画像を用いて地域の植生指数を推定している点が問題だと指摘しています。衛星画像からはさまざまな植生の区別ができないため、研究結果を具体的な政策に反映することが難しいとのこと。
そこでDadvand氏らの研究チームは、非営利団体・Friends of Treesがオレゴン州ポートランドで30年間続けてきた植林活動に着目しました。Friends of Treesは1990年から2019年の間に4万9246本の街路樹を植えており、木を植えた位置や時期の記録を取っていたため、研究チームはこのデータを利用して分析を行いました。
研究チームは特定の地域またはアメリカの国勢調査に使用される国勢統計区において、過去5年間・10年間・15年間に植えられた街路樹の本数を調べました。さらに、オレゴン州保健局のデータを使用して、それぞれの地区における心血管疾患・呼吸器疾患・事故や事件などを除く非偶発的な原因による死亡率と関連付けて分析しました。
研究の結果、より多くの木が植えられている地域ほど住人の死亡率が低いことがわかりました。街路樹と死亡率の相関関係は、心血管疾患および非偶発的な原因による死亡率において有意であり、特に65歳以上の男性で顕著に見られました。具体的には、地区当たりの平均年間植樹数である11.7本の木を植えると心血管疾患による死亡者数は年間5人減少し、非偶発的な原因による死亡者数は15.6人減ると研究チームは推定しています。
さらに、樹木の成長に伴って死亡率低下の効果は大きくなることも判明しました。過去1~5年間に植えられた街路樹に関連する死亡率低下は11.7本あたり15%でしたが、過去11~15年間に植えられた街路樹では30%に達したとのこと。この結果は、成長して大きくなった木が死亡率の大幅な低下と関連しており、成熟した木の保存が公衆衛生の面でメリットをもたらす可能性があることを示唆しています。なお、Friends of Treesによって植えられた時点の樹齢は4~8年だったとのことです。
研究チームの推定によると、ポートランドにある140の国勢統計区にそれぞれ1本の木を植えると、年間の非事故死者数が1.33人減るとのこと。アメリカ環境保護庁は統計的な成人の命の価値を1070万ドル(約14億円)と評価しており、街路樹140本の植樹および維持にかかるコストが2716ドル~1万3720ドル(約36万円~約180万円)であることを考慮すると、各地区に1本ずつ街路樹を植えたとしてもコスト面の釣り合いは取れると研究チームは記しています。
論文の筆頭著者であるアメリカ農務省山林局のGeoffrey H. Donovan氏は、「緑が豊かな地域とそうでない地域の両方で効果が確認されたことから、街路樹の植樹はいずれの地域にもメリットをもたらすことが示唆されました」とコメント。Dadvand氏は、「私たちの研究結果は、都市住民の寿命を延ばす植樹などの具体的な介入に対する、重要な証拠基盤を提供するものです」と述べました。
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