師走がおれをくるわせる。
オーディオブックをご存じだろうか。本の内容を音声で伝えるコンテンツである。本来、本を読むのには文字を読むという行為が必要なため、何かしながら本を読むというのが難しかった。オーディオなら運動しながら、勉強しながらなどながら聞きで本の内容を知ることができる。
でも、オーディオをスマホとかから単に流すのは、なんかさびしくないか? 本を誰かに読んでもらえばそれはオーディオブックだし、読んだあとに感想も言い合える。「隣で本を読んでもらえばオーディオになるのか?」という企画が始まる予定だった。
誰も参加者が集まらない
年末である。忙しくて泣きそうな人もいれば、もうすでに泣いている人もいると思う。デイリーポータルZの編集部、ライターの人たちも忙しいと思う。でも、そんな中、申し訳ない気持ちを込めつつ、デイリー関係者のグループチャットに「誰か一緒に撮影しませんか? もし他の撮影があれば一緒にやりましょう!」と夜に投稿し、朝起きたら誰からも返信が来てなかった。泣いた。
このときだった。次の記事、やばいなと思ったのは。どうする? でっかいチャーシュー丸かじりクラブに変えるか? でももうこれでやりきろうと思った。どうなってもみんなの責任です。(責任転嫁)
「マネキンから声が出ればオーディオブックもさびしくない」に変更となりました
オーディオブックというものは便利だ。音声で本の内容を知ることができるので、何か別のことをしながらでも本が読める。
スマホで聞くと、機械から音声が聞こえてくるだけじゃさびしくないか? もっと人のあたたかさ、ふれあい、やさしさを感じたい。なのでマネキンを持って来た。
今日、マネキンを持ってくるとき、リュックのチャックが5割ぐらい空いていて、通りすがりの人に「すみません! 荷物が落ちそうですよ!」と声をかけられた。
「あ、ありがとうございます!」と感謝を伝えたが、危なかった。制服も入っているから。全部、落ちていたらたぶん警察を呼ばれて、牢獄からお送りするかもしれなかった。この記事は多摩川からお送りしています。
今回、オーディオブックは何を流そうかと思ったが著作権という法律がおれをしばりつけるので、デイリーポータルZのオーディオブック「聴くリーポータルZ」を使用することにした。
これをスマホから流せば、人が話しているような雰囲気になるのではないか。そう思って彼女の横に置いてみた。
今回流す記事は自分の記事「河原の石を8時間磨いた先に見えたもの」である。この記事も多摩川だったな。
スピーカーにして自分の記事を流す。今、目の前で少年たちが網で川をすくいはじめた。大物を釣り上げてほしい。あと、こっちを不審そうに見ないでほしい。
流れてくるのは自分の声である。でも、これはなんかいい。一瞬、音声があるせいかマネキンが人に見える瞬間がある。「あ、マネキンか」と思うが、頭が混乱して人がいる気がした。どうする、本当にいたら。怖い。
カップルみたいにイヤホンをつけたい
でも、もっと人が話している感じにするにはどうしたらいいのか。近くの人に「すみません、この記事を読んでもらえないですか?」と聞いてもいいと思うが、先ほどから通行人の人たちがこっちを見ている。しかも、不審そうな顔で。やめよう。違う方法を考えることにした。
音声読み上げサービスを使おうと思ったが、商用利用をしていいのかわからないものが多い。なので、何か違う方法を考えようと思ったときに思いついた。
イヤホンを片耳ずつつけて音楽を聴くカップルを見たことがある。青春の光景。あの頃のおれは「そんな片耳でイヤホンをつけてないで2つ買え」と思っていたが、今はそれをやりたくてしかたない。
はじめてTHE HIGH-LOWSの「青春」を聞いたとき、こんなにもわくわくするものかと思ったものだ。あのときのわくわく、ドキドキを感じたい。今、多摩川で感じたい。
彼女のカツラが落ちたとき、ちょっと離れたところにいた少年が「うわ!」と行って走り逃げた。強く生きてほしい。これが大人の社会だから。
音声を流してみる。片耳しか聞こえてこない。でも彼女もこの音声を聞いていると思うと彼女とのつながりを感じる。
同じものを聞いているという感覚、彼女も楽しんでいるのかという不安、このあとどんな会話をしようか頭をめぐらせる感じ、恋愛って楽しいな。楽しい。
草むらから音声が聞こえてくる
新しいオーディオブックの可能性を見つけてホクホクした撮影だった。さて帰ろう。そう思って、カバンに入れたスマホを取り出そうと思ったときだった。ないな、スマホ。
カバンを持ち上げようとしたら、チャックがあいていてスマホが落ちたようだ。ようだじゃない、チャックをしめなよ。
子どもたちが遊ぶ声、犬のなき声、それに加えて草むらの中から自分の記事が聞こえてくる。なんだその環境音は。
音はするがスマホが見えない。奥の方にあるらしい。上の写真、背中から悲しさが出ちゃっている。出ちゃわないでほしい。
草をかき分けながら探していると音声がどんどん近づいてきた。そしてついに見つけることができた。思わず「よっしゃー!」と声が出た。遠くでは犬がマネキンにものすごくほえていた。おれもほえようかな。
オーディオブックの可能性を感じた
今回、オーディオブックには無限の可能性があると感じた。実際に本を読んでもらう映像を流す、副音声で筆者が解説を入れるなどいろいろとあると思うが、この記事をきっかけにオーディオブックが発展したら先駆者として1億円ください。10万でも大丈夫です。