国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、国立大学法人京都大学、株式会社東芝、株式会社ZenmuTechらによる研究グループは11月17日、量子セキュアクラウドによる高速安全なゲノム解析システムの開発に成功したと発表した。
ゲノム(遺伝子)データは「究極の個人情報」であり、超長期に秘匿性を担保しつつ利用する必要がある。しかし、現時点では従来の暗号技術での秘匿化しか行われておらず、2030年ごろに実用化されると言われているフルスケール量子コンピュータによって解読されるおそれがあり、将来の攻撃リスクへの対策は十分でないという課題があった。
ゲノム解析をセキュリティを保ちながら行う方法として、データを秘匿したまま処理し、秘匿したまま出力する「秘密計算」と呼ばれるものが知られている。しかし、秘密計算は、計算や通信のリソースを多く必要とするため、セュリティを保ちながら、全ゲノム解析のような大容量かつ構造化されていないデータに対して複雑な処理を可能とするシステムは、これまで実現していなかったという。
今回、NICTらによる研究グループは、将来どのようなコンピュータが出現しても盗聴リスクのない情報理論的安全な通信を可能とする量子暗号ネットワーク上に、情報理論的安全なデータ保管を可能とする秘密分散プロトコルを実装した「量子セキュアクラウド」を形成。さらに、専用ハードウェア「ゲノム解析専用装置」を物理的安全に実装し、情報理論的安全なデータ解析ができるシステムを開発した。
解析専用装置を「信頼できるサーバー」として取り込み、サーバー内での処理以外でのデータを情報理論的安全なデータに変換することで、安全な全ゲノム解析が可能になったという。
あわせて、解析結果に関して、研究や治療に不要な個人情報をフィルタリングする機能も実装。ゲノムデータを提供した所有者と、解析者の双方が安心して利用できる環境が実現できたとしている。
研究グループは、今回の研究結果から、量子セキュアクラウドに「信頼できるサーバー」を物理的安全に実装することで、大容量非構造化データの処理を安全かつ高速に実施できることを実証できたとしている。これを踏まえた今後の展望として、さまざまな計算リソースや複数ユーザーによる相互参照を可能とする仕組みを量子セキュアクラウドに実装し、リーズナブルなコストでゲノムデータや医療現場における患者のMRI画像データを安全に利活用できる新しいプラットフォームとしての機能実証を目指すとしている。