カーボンニュートラル 推進、アドテク領域の金銭的負担大幅増に:「関係者全体で無駄の削除に取り組まなければ」

DIGIDAY

11月第2週前半、国連気候変動枠組条約第27回締約国会議、通称COP27がエジプトはシャルムエルシェイクで開催された。目的は、(あえて言えば)より良い共有の未来のため、すべての産業界が積極的に炭素排出量の削減に取り組む必要性の再確認だ。

そのメッセージ自体は無論、否定しようがない。だが、具体的方策をデジタルメディア分野に導入し、カーボンニュートラル(脱炭素)――あるいは、合理的にできるだけそれに近い状態――に向けて踏み出すと、その金銭的ツケがサプライチェーンになおいっそう回ってくるのでは、との懸念を抱く者もいる。

たとえば、メディアキャンペーンが「X」量の炭素を排出したら、その広告を供給する関連サプライチェーンは「Y」量のカーボンオフセットを買うべきだ、といった考え方だ。理論上は素晴らしい。ただし、誰が払うというのか?

グリーン課徴金の可能性

11月第1週、メディアコンサルタンシーサービス、ジャウンス・メディア(Jounce Media)の創業者クリス・ケイン氏が、カーボンオフセットの資金調達のために広告オークションで清算価格を上げるなど、いくつかのアプローチの可能性を提示した。

「その代替案では、当該パブリッシャーが収益に打撃を受け、その費用を賄うため、収益がひどく落ち込むことになる」と同氏は話し、中間業者がそうした費用をどの程度肩代わりできるのかが代替案の鍵となると、指摘した。

実質、後者のアプローチでは、いま現在も厄介な重荷であるアドテク税に、さらにグリーン課徴金が追加される可能性がある。この課税はマーケターが支払う額のすでに約50%を食っているが、社会的に責任ある者として、倫理上あからさまに出し渋るわけにもいかない。

マスコミへの口外が許されていないため、匿名でDIGIDAYに語ってくれたメディアエージェンシーの情報筋によれば、これはサプライチェーン最適化の取り組みに影響を及ぼすことになりかねないし、意図的ではないにせよ、とばっちりを受ける可能性は十分にありうる、と話した。

とどのつまり、パートナーが少なければ、炭素排出量も少ない。SSP勢は自らの利益を減らし、そうしたいわゆる「グリーン税」を肩代わりすべきだと、示唆する声もある。ただ結局、そうした費用のツケはパブリッシャーに回され、さらなる重荷が下の者にのしかかるだけだ、と多くは見ている。

ジャウンス・メディアのケイン氏と同じパネルで語ったニューヨーク・ポスト(The New York Post)のアマンダ・ゴメス氏は、ニューズ・コープ(News Corp)が所有するメディアはそうしたカーボンフットプリント問題に対して施策を講じているが、それには相応の経費が伴うと、述べた。

「パブリッシャーが認めた全アドテクパートナーが載るads.txtファイルを見れば、例外なく、どの広告リクエストも炭素排出を伴うことがわかる。しかし同時に、それらはすべて収益も伴うわけであり、両者のバランスをうまく取る以外にない」。

「たばこ税を課すようなもの」

ここ数カ月、この件に関して最も声高に主張しているひとりがスコープ3(Scope3)創業者/CEOで、「アドテクのゴッドファーザー」と呼ばれる、アップネクサス(AppNexus)の元カリスマ的CEO、ブライアン・オーケリー氏だ。

11月第2週前半、同氏はDIGIDAYに対し、そうした方策をアドテク税への「グリーン課徴金」と呼ぶのは誤りであり、むしろ、無駄を排除するための動機付けとして解釈するべきだ、と語った。

「サプライチェーンのなかにレベニューシェアを行ない、料金を請求している者は数多くいるが、同時に実際には何の価値も生まない、いわゆる広告の鞘取りやクリックベイトだけを目的としているところもある」と、同氏は言い添える。

2022年前半、オーケリー氏はDIGIDAYの取材に応え、炭素排出量削減努力を全広告主の決意表明に組み込む、との大志を語った。

「想像して欲しい。あくまで仮定の話ではあるが、広告主らが全員、明日の広告インベントリ用のものをすべて取り止めれば、多少前後はするが、おそらく150億ドル(約2兆1000億円)が優良パブリッシャーのもとに戻って来ることになる」と、同氏は説明した。

同氏はさらに、「大手ブランド、事業者団体、大手エージェンシー」による連合を組み、「無駄な部分を取り除き、現状を改める積極的な取り組み」を通じて、アドテク界全体から浪費的要素を排除していきたい、とする高邁な計画も語った。

同氏はさらに、こうも言い添えた。「たばこ税を課すようなものだ。そうするのは、人々にたばこを吸うのを止めてもらいたい、あの究極的な悪癖を止めてもらいたいと思っているからであり、広告リクエストにもそっくりそのまま同じ事が言える」。

グリーンウォッシングに警戒

一方、プライベター・ベンチャーズ(Privateer Ventures)でスマートコモディティに取り組む幹部で、アドテクにも広範な経験を有するベン・フェルドマン氏は、マーケター勢が今後、絶対に警戒すべきことのひとつに、「グリーンウォッシング」があると、指摘した。グリーンウォッシングとは、サプライチェーンの非倫理的なプレーヤーらがカーボンクレジットを得るために、サステナブルな取り組みをしている、と偽る行為のことであり、やり口は広告詐欺のそれに近い。

「問題は、私が立証できない限り、つまりそのオフセットの出所がどこで、それがどのように維持されているのか、パーマネンス(耐久性)レベルがどの程度なのかがわからないことだ。そのため、私がしているのは基本的に、取り組んでいると彼らが『言う』ことに金を払っている点にある」と、同氏は言い添えた。

フェルドマン氏はさらに、パブリッシャー勢はそうした偽のカーボンオフセットの尻拭いを避けるために、デマンドパス最適化をなおいっそう積極的に行ない、交渉においてよりいっそう頑強な存在になるよう努めるべきだと、説明した。

「企業が自身のカーボンフットプリントにどう責任を取るべきかを見極めるために、多くは専門企業への外注を始めたいと考えている」と、同氏は説明した。「そうなれば、パブリッシャー勢は背中を押され、『いま何に金を使っているのか、証明して欲しい、それが実際にオフセットなのかどうか、ちゃんと見せて欲しい』と、きっぱりと言えるようになるだろう」。

[原文:Will sustainability efforts introduce a ‘green levy’ into the ad tech tax?
Ronan Shields(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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