徒歩30分圏内に核シェルターがある国:スイス以上の脅威に直面する日本

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アルプスの小国、中立国のスイスでもロシアのウクライナ侵攻後、国家の安全問題に対する政府、国民の意識が高まっている。欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)にも加盟せず、国連にも20年前に加盟したばかりのスイスはロシアのプーチン大統領が「必要ならば核兵器の使用も辞さない」と示唆して以来、ロシアがウクライナで核兵器を使用した場合、国内の核爆発後の影響に対する備えが十分かについて協議が行われている。

1964年10月16日の中国の最初の核実験(包括的核実験禁止条約機関=CTBTO公式サイトから)

スイス公共放送(SRF)が発信するウェブニュース国際部からニュースレター(11月9日)が配信されてきた。「核の脅威の高まり、スイスの備えは?」という記事が目に留まった。欧米の軍事専門家の間では「ロシアの核兵器の使用は現時点では考えられない」という意見が支配的だ。隣国オーストリアで10年間の国防相を務めたファスラアーベント氏は、「ロシアの指導者は核兵器の使用が何を意味するかを知っているから、現時点では使用は考えられない。プーチン大統領は合理的な思考をする政治家だ」と見ている。一方、「ロシア軍が守勢を強いられ、戦争の敗北が現実味を帯びてきた場合、プーチン氏は核兵器のボタンを押すことも躊躇しないだろう」といった見方もある。

スイスの連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)安全保障研究センター(CSS)で核兵器を専門とするスティーブン・ヘルツォーク氏は、「核兵器が使用される危険性はますます高まっている。核戦争が起きれば、ウクライナや欧州、そして世界に壊滅的な影響を与える。こういったシナリオを想定し、備えることが必要だ」と警告を発している1人だ。SRFのニュースレターによると、「スイス政府は2011年の福島第一原発事故以来、核・生物・化学兵器(NBC兵器)の脅威や危険に対する防護対策を強化してきた」という。

ニュースレターを読んで驚いた点は、スイス国内で有事の際に全国民を収容できる核シェルターが全土に36万カ所以上あるということだ。国民人口比の核シェルター数はおそらく世界一だろう。旧東欧諸国では地下鉄やガレージが核シェルター的役割を果たしている。一方、「スウェーデンやフィンランドでは核シェルターの数こそスイスと同じぐらいだが、収容能力ではスイスより劣る」という。

スイス側にも問題があるという。「連邦政府は全住民の徒歩30分圏内にシェルターの設置を法律で義務付けているが、全ての州が対応できているわけではない。中でも、ジュネーブ、バーゼル・シュタット、ヌーシャテルの3州が最も遅れている。また、国防省の最近の報告書では、核シェルターなどの民間防衛施設のメンテナンスの悪さも指摘されている」というのだ。

それにしても国内に全国民を収容できる核シェルターがあり、国民が徒歩30分圏内で行ける場所に核シェルターを配置するというスイスは核の脅威に対する備えは多分、世界でもトップ級だろう。

核の脅威と言えば、スイスにとってはロシアの核だろう。世界9カ国が核保有と推定され、その核弾頭数は1万3000発、米国とロシア両国は全体の9割以上を占めている。ロシアの核弾頭数は5977発で、戦術核数は2000発以上と言われている。ロシアは核兵器の近代化、小型化を既に実現し、陸、海、空の運搬手段を使用して攻撃できる「核の3本柱(トライアド)」を敷いている。

ロシアが核兵器を使用するとすれば、戦略核ではなく、戦術核だろう。その場合、スイスの専門家たちは、「放出される放射線は少ないため、国民は核シェルターに避難する必要がないかもしれない」と予想。そして、「核兵器の爆発以上に原発事故のほうが影響が大きい」という。ウクライナには欧州最大の原発、ザポリージャ原発がある。同原発は今年3月からロシア軍の管理下に置かれている。戦争で同原発が爆発されれば、チェルノブイリ原発事故(1986年4月26日)以上の被害が欧州全土に広がるから、放射能汚染はスイスにも及ぶことは必至だ。

スイスの核対策に関するニュースレターを読んでいると、日本はどうだろうか、という思いが沸いてくる。日本に核シェルターがどのぐらいあるのか、国民が徒歩30分圏内の核シェルターに避難できるだろうか。どう考えてみても日本ではスイスのような備えは不可能だ。

日本の周辺にはロシアのほか、中国、北朝鮮が核を保有している。北朝鮮の場合、弾道ミサイルを発射するだけではなく、7回目の核実験を計画している。日本はスイス以上に核の脅威にさらされているとみて間違いないだろう。そこで日本は米国との核シェアリングで抑止力を行使するという考えが出てくるわけだ。

スイスのニュースレターは最後に「核兵器が爆発した場合、その影響を完全には回避できない」として、核兵器が爆発した時の「対処」ではなく、「予防」が重要だと指摘し、記事を締めくくっている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年11月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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