こんにちは、編集部 石川です。
毎月1回、当サイトのライターに専門分野や得意分野の話を聞いています。今回は、ワインエキスパートの資格を持つJUNERAYさん。
あらためて、お酒って何が面白いの?聞いてみました。
酒について知ることは電話帳を覚えるような作業
石川:ワインエキスパートってなんですか?
JUNERAY:一般社団法人日本ソムリエ協会というものがありまして、そこが認定している資格に「ソムリエ」「ワインエキスパート」の2種類があるんです。どっちが上ということはないのですが、ソムリエのほうは受験資格に職業の指定があって。
石川:経験者採用みたいな?
JUNERAY:そうです。それで私は受けられないんですよ。以前バーテンダーをやっていたんですけど、昼に花屋、夜にバーテンダーっていう生活だったので、月に何時間以上という条件を満たせなくて。
石川:JUNERAYさん基本的にワーカホリックですよね。
JUNERAY:そうですね(笑)。試験の違いでいうとソムリエはお客様にワインを注ぐ一連の動作(サービング)の試験があります。お客様にサービングをするような職種、レストランのバーテンダーさんとか、キャビンアテンダントさんだとかが指定職種になっています。
石川:へー、キャビンアテンダントも入るんですね。
JUNERAY:よく聞きますね。で、その制限がない同等資格がワインエキスパートです。
石川:お酒の知識としてはソムリエ相当ということ?
JUNERAY:そうです。
石川:それってワインのことだけですか?
JUNERAY:全部のお酒ですね。例えば日本酒とかビールとか。日本酒だと試験で米の石高を聞かれることもあります。「二千何年度の山田錦の生産量として正しいものはどれか」。
石川:えっ、それ覚えなきゃいけないんですか!?
JUNERAY:そう。教本の厚さがタウンページぐらいあるんです。それを丸暗記すれば受かると言われてます。
石川:それはそうだろうけど…って話ですよね。それ取れたなら次は電話帳も全部覚えられるんじゃないですか。
JUNERAY:本当に感覚的にはそれに近いんですよ。社会科で日本の47都道府県と県庁所在地を覚えるじゃないですか。あの海外版をひたすら覚えるような作業なんです。
石川:それはお酒の産地を覚えるということ?
JUNERAY:そうです。フランスだったら畑の場所とか。だから、白地図見せられても日本の都道府県は埋められないのに、イタリアの州はなぜか全部書けるみたいな状態になります。
石川:あはは。なんで土地の情報がそんなに大事なんですか?
JUNERAY:とれるぶどうやお酒の作り方が、地域で違うんです。だから土地の名前がワインに付けられることも多い。シャンパーニュ……いわゆるシャンパンとか、あれって場所の名前なんですよ。
石川:シャンパーニュで作られたお酒ってこと?発泡してるワインってことではないんですか?
JUNERAY:スパークリングワインっていう広いカテゴリがあって、その中のシャンパーニュなんです。「シャンパーニュって名乗りたければこの基準をクリアしろ」って法律で決まってたりするので。
石川:あ、そうか。発泡してるワインを指す言葉はスパークリングワインなんだ。
JUNERAY:そうです。ほかにもボルドーとかブルゴーニュとか土地の名前が付いているのは、その土地でしか作れないことになっています。だからワインのことを覚えようとすると土地のことを覚えないと。
石川:なるほどー。でもせっかく覚えても、続々新しい国や地方のワインが出てきません?
JUNERAY:出てきます。だから教本が年々厚くなるんですよ。
石川:じゃあ資格取りたいと思ってる人はすぐに取ったほうがいいですね。どんどん増えていくから。
JUNERAY:ほんとに。私の代のときは、モルドバが初登場みたいな代でした。モルドバのワイン。
自分の「おいしい」を広げていく
石川:お酒の趣味的な面白さが分かりたかったら、どうしたらいいですか?コンビニで安いやつを買うみたいな飲み方じゃなくて。
JUNERAY:自分の「おいしい」っていう感覚を広げていくことですかね。
石川:おいしいを広げる?
JUNERAY:まず「おいしい」って二種類あると思うんです。自分の馴染みのある味で安心しておいしいって言ってるときと、全く未知の味に出会った時のおいしい。前者のおいしいは子供が感じるおいしいに近いです。子供って初めて食べるものにヤダって言ったりするじゃないですか。
石川:すごい言う。だから好き嫌い多いんですよ。
JUNERAY:それって単純に、知らなくて自分が安心できないから、おいしさがわからないっていう状態だと思うんです。そう考えると二十歳になったばかりの人のお酒に対しての味覚レベルって0歳と一緒なんですよね。
石川:あー、なるほど。それまで飲んでないから。
JUNERAY:だから今まで飲んできたジュースに近いようなお酒がおいしいと感じるんだと思うんです。
石川:ビール初めて飲んだ時の、ウェッっていう感じありますもんね。
JUNERAY:そうです。ビールを全然知らない人に対して「これがビールです、飲んでみなさい」って飲ませてもおいしいはずがない。フルーツがしっかり入ったフルーツビールっていうジャンルのものだとか、もうちょっとやわらかい小麦を使ったビールとかみたいな、知ってるものに近い味のものから進めていくのが正攻法だと思うんです。
石川:距離の近いところから。
JUNERAY:それで、自分はわりといろんなものが味わえるようになったぞというところで初めて冒険して、ちょっと変な酒とか飲んでみるっていうステップが一番わかりやすいかなと思いますね。
ワインにしても、最初はブドウジュースみたいな甘いワインから飲んでいって、慣れてきたらちょっとずつ自分の「おいしい」の位置を変えていくと、ボルドーとかの濃ゆいのも好きになれる。
石川:馴染みのある味をちょっとずつずらしていくみたいな。
JUNERAY:だからこれからお酒を趣味にしたいって人は、まず自分の「おいしい」をたくさん増やしていくところからかなと思いますね。
石川:なるほどね。新しい味覚を獲得していく、冒険の旅に出たほうがいいということですね。
JUNERAY:英語だと Aquired taste って、「昔はあんまりおいしいと感じなかったけど、今はおいしいもの」を表す言葉があります。ちっちゃいころ生牡蠣おいしくなかったけど、大人になって食べるとめちゃくちゃうまい!みたいな。
石川:珍味とかだいたいそうですもんね。
JUNERAY:それって大人になる中でいろんな味を知った経験の蓄積があって、だからここに来て生牡蠣がうまいみたいな、そういう長い時間をかけた流れなんです。でも人はお酒だと段階を踏まずに行けると思っちゃうことが多くて。そうじゃなくてまずは知ってる味のものからおいしく飲もうねっていう。
だんだんいろんな味がわかってくると、全然知らないものを飲んで、なんだこれうまい!っていう未知の出会いが訪れる日が来るから。
これから好きになるという予感
石川:味覚の変化のほかに、新しい「おいしい」がわかる経験を何度もすると、知らない味に対するスタンスが変わるのもありそうですね。「知らない=まずい」じゃなくて、知らない味でも実はこれもおいしいのかもしれないぞ…って経験的にわかってくるみたいな。
JUNERAY:まさにそうですね。大人になってくると、だんだん「今この珍味を食べておいしいと思ってないけれど、自分の舌の経験値が足りないだけなんだな」って薄々感づいてくる時がある。
石川:「今おいしくないけど後で好きになりそうだな」まで予想つくことありますよね。
JUNERAY:ありますね。そういうのはお酒は多いですね。すごく。
石川:わかったぞ。わかりました。僕はワールドミュージックが好きなんですけど、全然知らない国の変拍子の音楽を聴いた時に、これは今わからんけど、ちょっとじっくり聴くと良さそうだなみたいな感覚はすごくあるんです。それと一緒かー。
JUNERAY:その通りだと思いますね。昼間に聴いてるから違う感じがするけど、夜中に一人で聴いたら違うかもみたいな。
石川:そういうことか。お酒が完全に理解できました。
JUNERAY:完全に理解している(笑)。それで深みにハマっていくともっと知らない味のものが飲みたいって思って、もっと大金を払うようになっていくんですよ。
石川:いまJUNERAYさんはどのくらいチャレンジングなところまで行ってるんですか?
JUNERAY:どのくらいって言っていいんでしょう、金額でいうと今日はビール4本買って5000円でした。
石川:あはは!相当ですね。
JUNERAY:先週末2万円分買ってます。ハハハ。
石川:やばい。でもそれがね。血肉になっていくわけですからね。
JUNERAY:私の血と肉となり、いま私がいる状態です。
石川:物理的にも血と肉にもなるし、お酒の知識としての血肉にもなるしというところで。
ビールが苦手な人はジュースで割れ
石川:JUNERAYさんのおすすめのお酒を聞きたいなと思って。
JUNERAY:難しいですね。
石川:じゃあさっきの流れで、今年20才になった人に「おいしいお酒教えてください」って言われたら?
JUNERAY:私は最初ビールが苦手だったんです。ビールが苦手な人ってめちゃくちゃ多いじゃないですか。
石川:いますよね。
JUNERAY:私の場合、ある日タイ料理屋さんでマンゴージュースで割られたビールを頼んでみたらおいしくて、そこから飲めるようになったんです。もしビール飲めないなって人がいたら、一回ジュースで割ってみるといいと思います。
石川:ビールをジュースで割るってあんまり思いつかないなー。
JUNERAY:有名なのだと、ジンジャエールで割るシャンディガフってカクテルはありますよね。ジュースって言っていいかわからないけど。
石川:聞いたことある!
JUNERAY:それこそマンゴービアとか、個人的にはグァバジュースで割るグァバビアとかもすごく好きです。ビールに使われてるホップ自体にトロピカルな香りがすることがあるので、トロピカル系のフルーツは意外となんでも合います。
石川:この間、たまたま過去記事を見たらパリッコさんが、発泡酒をジュースで割るとクラフトビールの味になるって書いてて。
JUNERAY:言ってた言ってた。
石川:あれをやると良いんですね。
JUNERAY:あとは、ちゃんと管理された生ビールが飲めるビール屋さんに行くとかですかね。
石川:というと?
JUNERAY:ビールってなぜか缶で常温で流通していいって事になってますけど、あたたかいところとか、日の光とかで意外と劣化しやすいんですよ。
石川:缶に入ってるものは無限に劣化しないと思っていたけど、そうじゃないんですね。じゃあ管理されたビールが飲みたかったら?
JUNERAY:ビールの専門店さんが一番良いです。専門店だとビールサーバのガス圧とかしっかり調整しているし、流通の間もしっかり冷やしています。プロが適温で管理したお酒のほうがやっぱりおいしいです。
深夜に飲むならクラフトジン
石川:僕もお酒の相談いいですか?
JUNERAY:はい。
石川:つまみのいらないお酒が欲しいなと思って。僕は夕食後に楽器の練習をするので、夕食では飲まないんです。飲むとしたら楽器のあとで夜10時とか11時ぐらい。
もともと焼酎が好きなんですけど、飲むと深夜なのにつまみを食べたくなって良くないから、ウイスキーとかブランデーとかをちょっとなめるみたいな感じにしたいんです。おすすめありますか?
JUNERAY:ウイスキーの味はもともとお好きですか?
石川:何本か買ってみて飲めるようにはなったけど、今の時点で「好き」までは至ってないですね。
JUNERAY:そしたら寝る前にわざわざ好きじゃないものを飲む必要はないかなと思うので、とっつきやすさでクラフトジンがいいと思います。
石川:クラフトジンか!考えたこともなかった。
JUNERAY:ジンって自由度が高くて、ジュニパーベリーっていうベリーさえ入っていればジンを名乗っていい。蒸留所によって柑橘を入れたり、スパイスを入れたりして、味がひとつで完結していることがけっこうあるんです。つまみいらないじゃん、これだけでみたいな。香りがリッチだから逆に邪魔しないでほしいくらい。
石川:それは最高。どれ買えばいいんですか?
JUNERAY:クラフトジンで私が好きなのはアメリカのKOVALっていうドライジンです。あんまり尖りがないというか。買うときはKOVALで検索するとウィスキーが出がちですがジンの方です。
石川:(検索して)あった。ドライ・ジン、バレルド・ジン、クランベリー・ジンリキュール……。
JUNERAY:バレルド・ジンは樽でちょっと寝かせたやつで樽っぽい香り、ドライ・ジンはがお花っぽい香りだったりウッディーな匂いだったり。
石川:飲み方は?
JUNERAY:浅いグラスに氷を入れて、KOVALドライ・ジンを入れて、余裕があるときはカットレモンとか絞って飲むとそれだけでうまいです。もちろんそのまま飲んでもいいし、水割りとかジントニックでも。ジントニックにするなら、トニックウォータってめっちゃ甘いので、半分トニックウォーター、半分ソーダにするとちょうどいいです。
石川:ソーダだけ、は?
JUNERAY:ソーダだけもありです。ソーダだけでものたりねーなってときはカットレモンとかカットライムを入れて。
石川:なるほど、買います。このあとすぐ。
JUNERAY:クラフトジンは高いなって思われがちなんですけど、一度にそんなに使わないから、一度買えば長持ちはしますよ。
石川:50パーとかですもんね。度数。
JUNERAY:バーで出てくるジントニック1杯で、入ってるジンって30〜45mlぐらいなんですよ。そのくらいで満足できてしまうので、ロックとかで飲むときも、ちっちゃいメジャーカップ的なもので30ml測って飲んで寝ると良いと思います。飲みすぎないように。
石川:わかりました。それがいいですね。
JUNERAY:もう一個、近所の酒屋さんにも比較的置いてがちなのは、オピーアってのがあって。
石川:オピーア?
JUNERAY:最初飲んだ時にカレーじゃんって思って。
石川:えー!カレー?そんなことあります?
JUNERAY:めっちゃスパイスの匂いがするんですよ。カルダモンみたいな。
石川:透明なのに。言い方悪いですけどイロモノというか、個性枠って感じですか?
JUNERAY:自分がバーテンダー側だったら扱いに困る子だなという感じはします。普通にジントニックとか作って飲む分には個性が立っておいしいので良いと思います。
石川:KOVAL、オピーアの順にステップアップで。
JUNERAY:楽しいと思います。
比較的ハマってもよい沼、日本酒
JUNERAY:クラフトジンは沼なのでね、一個買うと。
石川:いやJUNERAYさんを見てて思うんですけど、クラフトジンに限らず全部沼じゃないですか?
JUNERAY:それはそうですね。酒は全部沼です。その中では、比較的浅い沼が日本酒なんです。奥が浅いってことではなくて…
石川:ハマってもダメージが少ない?
JUNERAY:そう、比較的お財布が傷まないんですよ。よく酒屋さんと日本酒は相場が安すぎるという話をするんですけど、込められてる丹精に比べて値段が安すぎるんです。個人的には買って応援してあげたいですね。
石川:コストパフォーマンスがいいってことですよね、飲む側としては。
JUNERAY:こんなに手間がかかるのに2000円!?って。なので何かこれからお酒を趣味で始めたいって人は日本酒良いかもしれないですね。
石川:日本酒って、飲み慣れがゼロの人でも比較的飲みやすいですよね。
JUNERAY:そうなんですよね。なぜかけっこう飲めちゃうというのがあって。あと私は地元が宮城県なんですけど、一ノ蔵だったか浦霞だったかが、お祭りで日本酒トニックを出してたんですよ。海外ではサキニックとか呼ばれる飲み方。ビギナーさんでもめちゃくちゃ飲めちゃうのでおすすめ……ですが危ない酒です。ほどほどに楽しむには大変おいしいと思います。
石川:節度を守ってということですね。
JUNERAY:そうです。ぜひ。
生放送「記事の森」やってます
この対談は、先日放送したトーク配信『樹液でも飲みながら記事を振り返る「記事の森」』から抜粋したものです。番組ではこの2倍くらいしゃべってますので、対談をお楽しみいただけた方はぜひアーカイブをどうぞ。
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