気象予報士、増田雅昭さんに天気について聞く月1回連載。
今月はこんな話を聞きました
・傘を持っていくかどうかの判断材料は降水確率ではない
・年々、季節が後ろにずれている
・例年11月はあれる天気もなく、気象関係者が休みを取る時期
(構成:デイリーポータルZ編集部・林雄司)
降水確率で傘を持っていくかの議論はやめましょう
西村:
降水確率って不思議だなってずっと思っていて。雨がちょっとでも降れば降ったということなんですよね。
増田:
ただ、降水量1mm以上なので、パラパラだとノーカウントですね。
西村:
降水確率10%で土砂降りでも、降水確率90%でパラパラパラでも1mmこえたら当たり。
増田:
降水確率は雨の強さ、降り方も関係ないし、降る時間の長さも関係ない。
西村:
降水確率って誰が出しているんですか?
増田:
気象庁のほかに、気象会社も出しています。元は気象庁のスーパーコンピューターが出した日本周辺の気象状態。気温、風向き、風の強さ、湿度、気圧など、それらのデータを元に気象会社が独自の計算式を作っています。そこで違いが出てくるんですよね。
(気象会社:気象庁から認可を受けて気象などの予報業務を行う会社。増田さんが所属するウェザーマップもそのひとつ)
西村:
気象会社ごとに違ってる場合がある?
増田:
けっこう違っています。
林:
西村さんが言ったように、量じゃなくて確率ではないですか。ということは、傘を持っていくかどうかの判断材料は、実は、そこじゃないのかもしれないんですね。
増田:
そこじゃないんですよ。これは。
西村:
ですよね。
増田:
降水確率で傘を持っていく持っていかないの議論はやめましょう。
林:
そうですよね。
増田:
そうなんですよ。
西村:
それなんですよ。ただ90%って言ったらめちゃめちゃすごい雨が降るというイメージになっちゃうんですよね。
林:
90%で1mmかもしれない。
増田:
もっとわかりやすい雨のパターンもあるんですよ。降るけども30分〜1時間ぐらいの雨だって予報で分かるときもあるんですよ。絶対1mm以上降る。でも、その30分〜1時間を避ければ全然傘いらない。降水確率100%でもいらない時はいらない。
降水確率だけで傘いるかいらないかは、伝えるうえでの最後の手段というか。雨が降る可能性も確かにある…でも時間も読みづらいし、降り方もひとつ間違えればけっこう降るし…でも降らないまま終わる可能性もあるっていう予報が読めない日。
そういう時は降水確率を参考にしてもらっていいし、僕も天気予報で降水確率をあえて言ったりすることがあります。
林:
まずは気にするのは、雨の量と時間帯とか。降り方。
増田:
降り方ですよね。
林:
それは天気予報を見てればわかる?
増田:
そうなんです。全部加味して役立つ情報として1分半や2分とかの放送の中でポンっとまとめて届けているのが我々気象予報士の仕事でございます。
林:
そこを聞かずに70%だから傘を持っていこうと考えるのはいかん。
増田:
1日単位の降水確率が90%でも、雨が降るのは寝てる間かもしれない。朝の3時までとかに止むこともありますからね。降水確率だけっていうのはやめたほうがいいと思います。
どういう雨なのかを参考に持っていてほしい。それでもわからないときに、最後の手段として、降水確率はこの時間帯は何%ぐらいだから、心配な人は持って行ってね。持ってったら安心ですよって、そういうふうに言葉に変換しているのが我々気象予報士の仕事です。
西村:
降る確率何%はすごくわかりやすい。うっかりそっちを見ちゃいますけど。
ウェザーマップの降水確率の元データは1%単位
増田:
ほんとに降るかどうかわからない時が夏場とかあるんですよね。梅雨時とか。
西村:
そういう時は50%なんですか?
増田:
50%ってみなさん持っていくでしょ。傘。
降水確率は20%から30%で、心配なら持っていってくださいという言い方をしますね。
昔、天気予報の原稿を書くときに習ったのは
「降水確率50%以上は『明日の降水確率は高くなっています』と表現しなさい。40%の場合は『降水確率はやや高くなっています』と表現しなさい」でした。
西村:
40%ぐらいから、まあ降りますぐらいの感じ。
増田:
今は1時間ごとにマークが出てくるからそれを見て判断してる人が増えた分、降水確率だけで判断する人が減ったかもしれないですね。
増田:
ウェザーマップが出してる降水確率、元データは1%で出てるんです。
林:
すごい。
増田:
東京の今日の降水確率、18時から24時が0%と出ていますが、元データは1%になってる。それを近いほうにもっていて0になってるわけですね。
西村:
降水確率で聞いてもけっこう話ありますね。
増田:
1%単位ってけっこう斬新じゃないですか。
林:
1%単位はどこかで見られるんですか?
増田:
朝の6チャンネルの天気予報は、たまに降水確率を1%単位で出しているらしいですよ(笑)
林:
それ増田さんが出てる番組ですね。
注)増田さんは毎週月~金 5:20~THE TIME,に出演中!
増田:
あえて出してます。「ずっと今日は晴れですよ。東京の降水確率は3%、宇都宮は5%。洗濯物は安心して干してください」などと、説得力をもたせるように解説で使うことがあります。
10月上旬に30℃近かったことを憶えてますか
林:
10月の天気を振り返りたいと思いますが、気温のグラフの上下がすごい。10月2日、4日は30℃近くいってたんですね。
増田:
いま改めてこうやってグラフを見ると、こんなに?って思いますけど。ただ、季節外れの暑さはそのあとに落とし穴がある。
林:
6日、7日がスコーン下がる。
増田:
29.6℃が一番高かった。ほぼ30℃からの最低気温が10℃ちょっと。
西村:
すごいですね。
増田:
やっぱりね。気温が急にストーンと落ちるの楽しいですよね。たしか12月並みって言ってたんですよね。
林:
8月から12月になりますのでみなさん気をつけましょうと天気予報で聞きました。
増田:
この気温差はニュースです!みたいな感じでたくさん解説させていただきました。
林:
これは北から寒気がやってきたからですか。
増田:
それもあったのと、関東は雨が降っていたのもありますよね。
林:
ずっと雨ですからね。
増田:
さすがに降らないと気温はこんなに下がらないですよ。雨がちゃんと大地と空気を冷ましてくれて、っていうのはありますからね。
増田:
10月前半まで曇りや雨が多かったんですよね。10月の最後になってようやく晴れてきましたけど。
林:
最後に晴れてもっと下がりました。
増田:
27日に8.5℃でしたかね。
冬は晴れると寒くなる
林:
晴れると寒くなるということですか。
増田:
そうですね。関東の場合は冬とか寒くなると晴れやすくなるというのはありますね。
林:
晴れ=あったかいではないんだ。
増田:
冬なんか典型的ですけど、寒さが続くような北風がどんどん来ると関東の場合は山越えの風になるので雲が消えて晴れやすくなるということですね。
増田:
最初のこのガツンと下がったのは冷たい空気プラス雨でのガツンという下がり方でした。10月下旬は北風で冷たい空気が入ってきたことに加えて、晴れて放射冷却が強く効いて朝の気温が下がった。
林:
最低気温だけ低い。
増田:
そうですね。そこが違いますね。
林:
ここに違いがあるんですね!
西村:
このグラフでも見どころがあるのがおもしろいですね。1日の気温差が大きいのと小さいのがあるっていうことですよね。つまり。
冬は晴れると朝と昼で10℃違う
林:
27日なんか最高気温はそこそこ。10℃ですよね。
増田:
以前にもお話した、おみごとですよね。
小林:
おみごとの法則。
増田:
雪は朝と日中の気温差が0℃。雨は朝と日中の気温差が3℃。曇りは5℃、晴れると10℃以上。おみごと。ざっくりとした目安ですけど。
たまたま今朝、気温差について晴れた日は10℃以上という話をしようとしたら、スタッフがネットで確認してくれて「デイリーポータルっていうところにも書いてありました」と言ってました。
それしゃべってるのおれ!って言っておきました。アクセス数1増えてると思います。
小林:
1周回って。
11月は台風のことは一旦忘れてください
林:
台風が来たら暑くなるかもという話でしたが来なかったですね。
増田:
結局来なかったですね。
林:
11月は台風は油断して大丈夫ですか。
増田:
油断してもほぼほぼ大丈夫だと思います。
西村:
大丈夫
増田:
ほぼほぼって付けておいてください。
西村:
なかなかこれからこっちに来るっていうのは難しいですか。
増田:
一旦忘れていただいていいと思います。もし一旦忘れていただいて、もし来るようだったら大きな声で僕たちが言いますから。
林:
もう台風が北上しないっていうのはなぜでしょう?
増田:
北側の秋の冷たい空気のほうが完全に強くて、そこを打ち破っていけないので。
林:
秋の空気が強いからスルスルすると横へ。
増田:
西に行くしかない。そうするとフィリピンに行ってしまいますよね。12月ぐらいにかけて西へ西へ行ってしまう台風が多くなる。
季節がずれているので今年の11月は10月のよう
林:
気象庁の「日本の天候の概説」というページに日本の例年の天気が書いてありました。「11月は一時的に冬型の気圧配置となる日が現れる」だそうですが、今年もこのパターンですか。
増田:
「10月は移動性高気圧に覆われてさわやかな晴天となる日が多くなります」とありますが、今年違いましたよね。下旬になってようやくでしたよね。
ここに書かれている10月のパターンが今年の11月前半になりそうですね。
林:
冬型の気圧配置になって寒いということは?
増田:
あることはあります。ただ、ほんとに一時的で、その先、寒気らしい寒気がいつ来るかというとちょっとわからないですね。
ここに書かれている10月の移動性高気圧に覆われてさわやかな晴天となるという日がけっこう多いかもしれない。
西村:
晴れが多くなる。
増田:
晴れが多いと思います。
林:
季節がだんだん後ろにずれている。
増田:
季節が後ろにずれてきてるってよく言われますけどね、今年はそれが現れているんじゃないかなと思いますね。
林:
夏は長い。
増田:
9月でも夏って感じる日が多いですし、秋雨が10月上旬で終わるかと思ったら今年は終わらなかったし。夏~秋はちょっとずつ後ろにずれるというのはあるかもしれません。
林:
気温は確実に上がってますね。
増田:
最高気温の記録がどんどん更新するのに、最低気温はなかなか更新しないですからね。
林:
60年前は8月でも夕方は涼しかったのがショックでしたね。
(8月のこの連載で、60年前の8月の気温を調べたところ、1961年8月1日の最高気温は32.6℃だったが、18時になると29℃まで下がっていた)。
暑さのピークはお盆、でもストーンとは下がりません ~気象予報士・増田さんの詳しすぎる天気解説~
増田:
東京都心で40℃はそう遠くないうちにいくかもしれません、って言われたらそれはありえるかもなって思えるじゃないですか。
でも東京都心でマイナス10℃って言われたらそれはないと思う。だけど東京都心でマイナス9.2℃の記録があるんですよ。1876年。
林:
都心で一番高いのは。
増田:
39.5℃。2004年の7月20日ですね。
西村:
なんか更新しそうですね。
増田:
そのうち出そう。39.5℃を0.1℃更新して39.6℃だったらまあ更新するのはそう遠くないかなって思いますけど、マイナス9.3℃に更新するのはほんとに氷河期にならないと来ないんじゃないかな。
西村:
最近東京でマイナスってなかなかならない。
増田:
最近だとマイナス4℃がありましたね。2018年です。これ大騒ぎになりました。それでもマイナス4℃ですから、マイナス9.2℃は遠いですね。
林:
上がってますね。さて、11月に話を戻すと、台風も忘れて良いし、さわやかな晴天になる日が多くなる。
増田:
そんなに極端には寒くはならないと思います。急には。11月の半ばぐらいまでは比較的ここに書かれている10月パターンの展開が多いんじゃないかなと思います。
林:
気象庁の説明もアップデートされるんですかね。
増田:
そのうちされるでしょうね。「以前は10月にさわやかな晴天になることが多かったが、近年は10月の半ばまで秋雨がずれ込むことがある」、なんて変わるような気がします。
小林:
気象庁の文章の予報ですね。
林:
11月ってもしかして、天気予報としてはそんなに難しくない時期ですか。
増田:
ですね(笑)。気象関係者は11月に長期休みを取る人が多いですね。荒れる天気のニュースも少なくて。
林:
湿気も少なく。
増田:
いいと思いますよ。
最低気温クイズで0.1℃違いの猛者現る
林:
10月の問題は東京の10月の最低気温でした。正解は8.5℃だったんですけど、0.1℃違いが あしたまごさん。
増田:
すごい。
西村:
正解で良いんじゃないですか。的中で。
増田:
すごいですよね。
毎年上旬は30℃、下旬は10℃以下と思って衣替えをしているんですが。早そうだと思って。雨が多いですが、やんでからの湿気が驚くほど抜けるのが早いので。(あしたまご)
増田:
放射冷却の本当の意味を知ってますね。放射冷却が強く効いて冷えるかどうかは、上空の水蒸気の量が影響するんですよ。
西村:
湿気が抜ける。なるほど。
林:
本質を言っているんですね。
増田:
まさに10月下旬に3日連続で気温1桁になったのは、晴れて上空の湿気が少なくなったタイミングで、ドーンと下がりましたから、完璧な読みですよね。
林:
この人詳しそうですね。
増田:
この辺にセンスを感じるというか。
西村:
湿度を感じているところが。
増田:
いいですね。ぜひぜひまた次回もこういうするどい回答をしていただけると嬉しいですね。
11月の東京の最低気温 鍵を握るのは寒気、台風、もしかしたら雪
林:
11月のクイズも東京の最低気温でお願いします。
林:
すっかり最近気温がおもしろくって。
増田:
去年の数字は…2021年11月だと3.8℃。
林:
さむっ!
増田:
その前の年は、5.2℃。2020年5.2℃。2019年は…マジっすか、1.6℃。ほんとに〜?
西村:
東京ですか?
増田:
東京です。11月29日。いい肉の日。1.6℃か。強烈ですね〜。最高気温は9.7℃。快晴なのに。
西村:
冬ですね。
増田:
冬の訪れが早かったんですね。これなかなかインパクトありますね。
林:
寒気が来るかどうかまでは今の時点では分からないですか?
増田:
下旬までは読めないですね。一回今週末、11月の5、6、7ぐらいに来て、そこからしばらくは見えないんですよ。寒気が。
ということは11月の下旬ぐらいに来てもおかしくないかなと思うんですけどね。
林:
気温で予想するにあたっての鍵はシベリアからの寒気と放射冷却。
増田:
シベリアから寒気が来たら、基本的には関東は晴れるので。放射冷却はセットです。
林:
あとほかに鍵は
増田:
大逆転があるとしたら、台風が日本までは来ないと思いますけど、日本の南ぐらいまで何個か来たりしたら、南からの暖気がグッと北に持ち上げちゃって季節がちょっと戻る。
林:
沖縄の南ぐらいでも大丈夫ですか?
増田:
沖縄のすぐ南とか小笠原ぐらいまで来るような事があれば。
林:
シベリアvs台風。
増田:
2016年には11月に雪が降ってます。雪が降った日の翌朝は0.3℃まで下がってますね。さすがに冷やされました。ここがやっぱり近年で最低ですよね。これを破るのは雪が降るしかないですもんね。0.3℃を破ろうと思ったら。
林:
じゃあ、4.2℃ぐらい。
西村:
1℃ぐらいまで下がったらおもしろい。1.9℃。
11月はどこまで寒くなるのか!予想すると温度差が楽しくなります。次回もお楽しみに。