今年2022年、長崎県で新たなご当地ヒーローが誕生した。名を「デジマード」という。
変身しているのは、なんと20代の青年。聞くと、趣味ではなく、ヒーローで経済効果を出すためにおこなっているという。
なんだそれは!そんな夢、震えるほどカッコいい。
わたしは、ご当地ヒーローがどういう人が一体なんのためにやっているのか、よく分かっていなかった。
取材を通して、ヒーローになるための方法の1つが明らかになった。
突如、Twitterに現れたヒーロー
2022年6月、突如Twitterに姿を表したデジマード。
「カッコいい!」が第一印象だった。ヒーロー好きとまではいかないけれど、少女の頃はウルトラマンやレンジャーものに人並みにときめいてきたから。
よく見ると仮面ライダー寄りの造形だ。グッとくる。長崎の海とか、中華っぽい場所で撮影してるのがとてもご当地感にあふれている。
こういうのがたまにタイムラインで流れてきたら元気出るだろうなー、と何気なく彼をフォローして、テレビなどのメディア出演で徐々に知名度が上がっていくのを陰ながら見守っていた。
そこから3ヶ月後。趣味でやっている演劇のYouTube動画撮影に参加した際、ゲストとしてお呼ばれしていたデジマードとお話しをする機会を得たのである。
番組の中で彼が話してくれたのは、ヒーローになった経緯をはじめ、ゆくゆくは経済効果を出したいという心意気などなど。
趣味だとばかり思っていたわたしは驚いた。“ヒーローで稼ぐ”とは、一体どういうことなのだろう。
そもそも、ヒーローって誰でもなれるものなの?後日改めてお話を聞いてみた。
日常に溶け込むヒーロー
ご当地ヒーローにお会いするのは初めてだ。ドキドキしながら交換した名刺には長崎のヒーローの文字が躍っていた。
ヒーローに会えたぞ!という子どものようなワクワク感と、仕事の緊張感がないまぜになって不思議な気持ちになる。
現在、ヒーロー活動にいそしんでいるデジマード。平日は(自称)街のパトロール、土日はSNSでの発信や営業、メディア、イベント出演といった多忙な毎日を送っている。
――日常生活を送りながらヒーローをされているんですね。
はい。周囲の応援もありまして、メディアなどの収録の際には『ここは俺たちが守る、だからお前は先に行け!』と送り出してくれたりします。
――なんか見たことある、王道的なアツい展開ですね。ちなみに正体はバレてないんですか?
Twitterでこんなの見掛けたんだけど、とスマホの画面を見せられたことがありまして。隠してもしょうがないので、その方にはこっそり『僕です』と耳打ちしときました。
――真摯ですね。ちなみに、スポンサーはいるんですか?
博士のことですね。いたらとても嬉しいですけど、今のところは僕だけですね。
――えええ、ノンスポンサーですか。どひゃー。
どひゃーなんて言ったのは数十年ぶりだった。
ヒーローのなり方(デジマードの場合)
まず初めにお伝えしたいのは、ヒーローは、誰でもなれます。例えば、山本さんが“わたしはライター系ヒロインです”と言ってしまえば、そういうことです。
――ライター系ヒロイン!読者とクライアントの板挟みで、ときどき闇落ちしちゃったりするんですね。あと取材NGの技を食らうと、しばらく立ち上がれなくなる。
名乗ればいいのか、そうか。そうだろうな。ヒーロー養成学校なんて、今のところきっと漫画の世界だけだ。
キャラクターとしてやっていくのか、アクションを魅せたいのか、はたまた別の方向なのか、何が正解なのか分からないんですけど、どれをやっても目的があればある意味正解というか。
――そもそも、ヒーローをやってみようと思ったきっかけは何ですか?
自分の経験を生かして地元長崎に貢献したいと思ったんです。僕の場合、その方法がヒーローだった。キャラクターとして地域に根差したいなと。モデルが確立されていて、かつ長崎にないものをやりたくて。
この“経験”というのがポイントである。
佐世保高専を卒業後、宮崎の大学に進学しました。当時は水泳と演劇をやっていて。縁があってとあるイベント会社にスカウトされて、ヒーローショーのお手伝いとかやってたんですよ。
――もうすでに、そこで基盤が出来上がってたんですね。
人と違うことをやったり、身体を動かすことが好きなんです。設営などイベントの裏方的な仕事もですが、ヒーローショーで役をもらって舞台に立たせていただいたことも良い経験でした。
ご当地でヒーローになろうとした理由
――しかし、そこから地元長崎でヒーローをやろうと思ったのはなぜ?
強い地元愛とか、特別なエピソードがあるわけではないんですが、生まれ育ったまちだからというのが大きくて。それを意識できたのも、宮崎の方々の地元愛の強さにふれたからですね。
僕の周りでは、大学を卒業してもそのまま宮崎に残ったり、Uターン就職する人が多かったんです。あと、バイト先のイベント会社が、エンタメでまちを盛り上げようと頑張っていたので、その熱をもらったのかもしれません。
――では、その時点で「ヒーローやってみたいです」と。
そこから本格的にアクションの稽古などをつけていただきました。教えてくれたのは、宮崎でご当地ヒーローを本格的にされている方で。基本は週に2回、多い時は、土日も含めて4回。アクション教室の補助で働いて、そのあと練習したりしてました。
ヒーローならではのアクションとは
――アクションの稽古って、どんな内容なんですか。
アクション(殺陣)といっても、本当にさまざまな流派があります。僕が習ったのは、ヒーローショー向けのアクションで、殴り、手刀、山、切返ししといった4つの型と蹴り技などですね。
アクションはその組み合わせで行いますが、基礎練習を行ったあと練習生が5~6人いたら、大勢で闘うアクションを30秒から1分、自分たちで作るんです。アクションパートといいます。それを1回の練習で1、2回はやってました。面白いですよ。一戦交えれば相手の人となりもなんとなく分かるし、ショーと映像では魅せ方も違うので研究したり。
ヒーローの舞台裏は、アクション俳優たちの汗と涙ほとばしる世界だった。さきほど「ヒーローは誰でもなれる」とあったが、仕事として成り立たせていくにはアクションの研究などのクオリティアップも不可欠。
こうした段階を踏むべし、という決まりはもちろんないのだが、ヒーロー業界内では1つのポリシーとして存在するそうなのだ。
――師匠から、心構え的なことは習いました?
いえ、特にこれといって熱いお言葉をいただいたことはないんですが(笑)。とにかくストイックに、黙々と指導してもらいました。
その中で学んだことの1つは、あくまでお芝居なので、戦いを“魅せ”ないといけないということ。アクションする側は、本気で相手を倒すつもりで、当たらないけど当たったら本当に吹っ飛ぶようなパンチを見せなきゃいけないんです。
つい、ヒーロー的な燃えたぎる修業風景を期待してしまった。しかしながら、地元でヒーローをやりたい若者のために、ヒーローの大先輩であるおじさんたちが稽古をつけてやるというのは、それだけでも胸が熱くなる展開である。
師匠(宮崎のヒーロー)たちは、元大手特撮作品にかかわっていた人たち。グリーンランド(熊本にある遊園地)でヒーローショーをされてたこともあったそうなので、ひょっとすると僕が子どもの頃、見たことがあるかもしれないねと、そんな話をしたことはあります。
大学時代の経験がデジマード誕生のきっかけとなった。卒業とともに、事実上のヒーロー免許皆伝となったのである。
※ちなみに、上記の宮崎のヒーローとは、「天孫降臨ヒムカイザー」のことです。めちゃくちゃカッコいいのでぜひ検索してみてね!
ボディスーツはどう作る?
とはいえ、すぐにデジマードが形となったわけではなかった。動き出すにはやはり資金が必要。長崎で就職し2年が経った頃、意を決して立ち上がった。
まずはボディスーツのデザインに着手。カッコいいと思う長崎のイメージをランダムに書き出していった。
生き物系が好きなのもあって、真っ先に頭に浮かんだのは龍踊り(じゃおどり)でした。
なので、メインのモチーフは龍の顔やたてがみ、鱗などですね。他にも、あじさいや出島、教会のステンドグラスの模様など、長崎をイメージした柄をデザインしています。
――これ全部、ご自分でデザインしたんですか!
小学生の頃から絵を描くのは好きで、漫画家になりたいと思っていたぐらいです。以前お世話になった宮崎のイベント会社の方々と連絡を取り合って、アドバイスをいただきながら4回ほど書き直して今の形になりました。
先輩ヒーローたちのアドバイスをもとにデザインを作成。スーツの製造先も当たってもらえることに。
しかし、大手会社の見積もりは到底予算で足りる額ではなかった。そこでフリーの職人が手を挙げてくれ、完成に至ったそうだ。
そんな話を聞いてから改めて全身をまじまじと眺めてみると、勢いだけでは決して作れない地に足のついた魅力も感じられる。
自分一人では無理でした。周りの方々の協力が有難かったです。あとやっぱり、初期投資は大事だなと。おかげで色んな世代の方から反応をいただけるので、造形にはとことんこだわってて良かったです。
――スーツのメンテナンスは大変ですか?
そもそも汚れないように気を付けて、活動後は消毒消臭を欠かさず、ですね。地味に大変なのは、着替えと運搬です。着替えは補助が必要だし、運搬は車が無いので……これを機に調達しなきゃなぁと思ってます。
名前は「ナガサキマン」になるかもしれなかった
初となる6月19日のTwitter投稿は、長崎県民を中心にちょっとした話題となった。
今回お邪魔した「長崎孔子廟」での撮った写真をアップし続けたところ、じわじわと認知度も上がってきたそうである。
舞台女優さんで、たまたま『出島』で検索したら僕のTwitterに行き着いて。そこから舞台ゲストにお呼びいただいたこともあります。
――すごい偶然!デジマードの名前って、最初からコレだと決めてたんですか?
はじめはナガサキマンとか分かりやすい名前にしようと思ったんですけど。あとジャオドリマン。でも前者はやっぱりストレートすぎるし後者は特に県外の方にはあまり知られていない印象だったので、きっと誰もが義務教育で習っているであろう出島にしたんです。メイナード的な洋風な名前が良いなと思ったので、デジマードにしました。
未設定の部分もあえて残している
SNS発信を機に、ローカル局やイベント、ラジオまで活躍の幅が広がっていった。しかし、まだまだ知名度が上がったとはいえないそうだ。
知名度もまだまだですし、キャラ設定も決めていない部分がほとんど。これからです。
――そういえば、悪の組織や世界観の設定、テーマソングなどは無いっておっしゃってましたね。
名乗り(口上)はあるんです。長崎を今日も晴れやかに、世界との窓口デジマード!って。僕がハレ男ということで、あの名曲『長崎は今日も……』のタイトルを若干アレしてですね。
――なるほど!ていうか、これ出島の新しい紹介フレーズでも良いくらい。
呼んでいただく企画の色や要望にお応えしたいので、あえて設定していないのもあります。パンチの技もついこないだ、テレビの収録内で完成したばかりで。
――なんと!
その場で動きを考えて、ルー大柴さんの番組内で命名していただきました。
これが完成したばかりだという技、ローリングアナコンダだ。あえてドラゴンと名付けないのがルー大柴さん流か。
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もう1つ、大技で龍踊り(じゃおどり)がある。
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前蹴りと後蹴りのコンボだ。けっこう体力を削るので休憩が必要。
――出演するステージ毎に、柔軟に対応していくスタイルなんですね。
どうしても個人でやっているので、ヒーローショーなどが組めないんです。当然、経営体制としては今のところこれがやりやすいのですが。
――ショーとかだと声優さんのアテレコが入ったりしますが、メディア出演の際はおしゃべりはするんですか?
ショーやグリーティングのときは基本喋らないようにしています。TVやラジオ、イベントなど、しゃべるパッケージがある場合のみですね。演劇もやってたので、人前で喋るのは好きですし、なるべく自分が出せる良い声で話すようにしています。知り合いからは、そのまんまお前じゃんって言われることもありますが。
一度メディアに出ると、新しい繋がりが続々と生まれる。その中で柔軟に、一個人として対応しながら新しい繋がりを作っていくぞ、という営業努力も必要なのだ。
理想は、“カッコいいふなっしー”。キャラクターを確立させつつ、いろんなニーズに応えられるようにしたい。そのためには資格なんか取ったりしたり、デジマードといえばこれやってるみたいな印象がついてもいいかなと思ってて。
――ガチャピンとか、そらジローみたいに天気予報のキャラクターで出演とかどうですか。
いいですね!でもデジマードの体って緑だから、クロマキーが緑だと透けるんですよね。
エンタメで食べていける街っていいね
――しばらくはパトロール(自称)と並行して活動されるんですね。
僕みたいな人間が稼げて経済効果が出ることで、それを見た長崎の若い子たちが「あんなやつにもできるなら自分にもできるな!」って長崎に残ってもらうきっかけになればいいなと思います。
――エンタメで食べていける街、それも地方が、となるととても魅力的です。
あくまで個人的な考えですが。エンタメで稼いでいる人がその町にいるかどうかで見方も変わってくるかと。ただの面白い人で自分たちが楽しくやりたいだけなら趣味になっちゃうし、芸能系は勿論ですが、ユーチューバー目指している人ですら結局、事務所がある都会に流出しちゃうから。長崎でもできるやん、って思ってもらえたら良いなと思う。
企業様にスポンサーについていただくことも目標ですが、ゆくゆくは他にも県内でヒーローや怪人をやる人が増えてほしいし、長崎の企業か県のプロデュースで映像化したいです。仮面ライダーとか戦隊ものって、映画会社の東映が作ってるわけじゃないですか。同じように、長崎の大手ジャパネットがプロダクション作ったりとかしたら、地元民としては最高じゃないですか!長崎の各名所をロケ地にして、新たな観光地のPRにもなりそうですし。
まずは10年頑張りたいです。先輩ヒーローは60歳までやるぞ!と言ってたけど、もし僕もそこまで続いたら、二代目、三代目デジマードが誕生したり……とか夢見ちゃいますね。
――う~ん、楽しみでしかない!職業ヒーロー、もっと増えてほしいです。「誰が観光大使になれるか!?」みたいな、県民投票制のバトルとか白熱しそうですけどね。流血沙汰になるかな。
ポージングの妙
取材後わたしは思い出した。「そうだ、あのポーズを取っていない!」。帰りがけムードのなか、半ば無理矢理ポーズの伝授をお願いしたのである。
「まず足をしっかりと開いて、長く見えるように左脚はつま先までピンと伸ばして……」
そもそも体幹が軟弱ということもあるのだが、立つだけでもバランスを取るのが難しい。いかにカッコよく素敵に魅せるか。ポージングの妙は、ヒーローにとってはでっかい武器だ。
【取材撮影協力】
【イベント出演情報】
★「Lovefes2022」長崎水辺の森公園 2022年11月5日(土)~6日(日)
★「トコハピカーニバル」(NCC長崎文化放送)出島メッセ長崎 2022年11月13日(土)
詳しくはデジマードTwitterもしくは各サイトにて。