おでんとは、味噌味の食べ物である。愛知県出身者の9割はそう教わり育つ。世間でいうところの「名古屋おでん」だ。
実は、名古屋おでんのアイデンティティは具にもある。
「強烈なピンク色の練り物」と「表面にやたら突起がある麩」とが入っているのだ。
ビジュアルがパワフルなだけでなく、味もおいしい。個人的にかなり好きな食材なのでぜひ紹介したい。
強烈なピンク色の練り物・赤棒
記事冒頭で「強烈なピンク色の練り物」と紹介した食材の名前は「赤棒(あかぼう)」。
調理前の見た目はどう見ても「ピンク棒」だが、味噌で煮ると赤黒くなる。主張が強いボディカラーで、特にこどもに大人気(筆者調べ)のおでんの具だ。
デイリーポータルZ編集部のメンバーに食べてもらった。
安藤「僕は愛知出身なんで、これは知ってますよ。おいしいですよね。実家で味噌つけて食べてました」
林「赤棒は思ってたより固いですね。弾力があるというか。これはおいしいです」
米田「固いですか?ムチッとした食感ではありますね」
橋田「魚……、かまぼこみたいな味ですね」
見た目は派手だが、使われている材料は一般的な練り物とほとんど同じ。
筆者が子供のころは、赤棒の原材料など知らず「ちくわと味が同じ気がする」と思っていた。気のせいではなかった。
橋田「関東風のお出汁のおでんに入れたらおいしいと思う」
米田「味噌味でもおいしいですよ!」
安藤「味噌をつけてください、味噌を!」
橋田「私すごい責められてません?」
橋田「そういう安藤さんは赤棒の味、どうですか?」
安藤「うん、赤棒の味がします」
米田「ぜんぜん答えになっていない」
安藤「当たり前の存在すぎて、なんの言葉も出てこない」
赤棒を素直に受け止めすぎでは?でも、筆者も同じ気持ちである。
表面にやたらと突起がある麩・角麩
表面が洗濯板のようにデコボコとした「角麩(かくふ)」。
見た目はいかついが、食感はフワモッチリ。
おでん以外の煮物にも入れるし、単体で調理してもいける。煮物界の主演役者である。
林「色がすっごい名古屋っぽい」
橋田「見たことない形。麩なの?」
林「形状は麩じゃないですよね?」
安藤「通常想像する”お麩”ではないですよね」
橋田「……お麩とちくわぶのあいだだ!ちくわぶのほうが固い。おいしいかも」
林「ちくわぶは表面が溶けて中は固いままだけど、角麩は全体がやわらかい。人を甘やかす食材だ」
ちくわぶと角麩は材料が違う。どちらも小麦粉が主原料だが、角麩には餅粉が入っている。
調理前の角麩がお餅のように粘着する理由はこれにある。
試食会は始終、愛知県民の当たり前と、関東民の当たり前がぶつかりあう時間となった。
関東派のリアクションに驚いたし、自分のなかの名古屋おでんの存在の強さにもまた驚いた。
次は鍋を囲んで名古屋おでんを食べたい。