ホテルレビューサイトのレビューは、基本的には泊まりたい人が参考にするためにあります。しかしいろんなホテルの情報を見ているとしばしば読み物としても秀逸なレビューも存在することに気づきます。
レビュアーが意図的にユーモアを交えたレビューを書いている場合もありますが、今回注目したいのは「酷評」。
怒って酷評したレビューがそのシチュエーションやレビュー対象のひどさゆえに面白みを帯びてしまうケースがあるんです。(前文・編集部 石川)
世界の酷評レビューを探す
酷評レビュー選手権のルールは下記のとおり。
ルール
- 海外の旅行サイトのレビューから、酷評しているレビューを探す
- より最悪な印象を与えたら勝ち
- レビューは詩のように味わうこと
参加者はPodocast「旅のラジオ」のメンバーで、Satoru、岡田悠、編集部 石川です。
Satoru:まず私が選んだのは、アメリカのホテルのレビューです。
わたしたちの部屋は、
プロレスラーが、
デスマッチをした
あとのようでした。
エアコンは、破壊され、
クローゼットの扉が、
粉々になってました。
わたしたちが到着したとき、
警察が、誰かを1時間ほど
探していました。
「安全ではない」と、
感じました。
Satoru:これ、たぶん、事件が起きてますね。
岡田:事件現場ですね。すでに警察来ちゃってるから。
Satoru:警察沙汰は、宿泊客の体験として、かなり最悪にランクされますよね。このホテルでは、「部屋の至るところにブヨがいて、ランダムな場所に大きな穴があいている」というレビューもあった。
石川:ランダムな場所に。
Satoru:大きな穴があいている。
岡田:どういう状況なのか。
Satoru:部屋のいたるところにブヨがいる。そこからの警察沙汰。
岡田:アメリカってちょっと危険なところもあるから、ホテルのレビューも、ただ汚いだけではなくて、身の安全を脅かされるようなものがある。アメリカらしいですね。
岡田:僕はインドのホテルを見ていたんですけど、ゴキブリとかナンキンムシとかは、もう当然のように出るんです。ずっと読んでたら、なんだかもう大したことないように思えてくる。
Satoru:わかる。
岡田:僕の選んだレビュアーは、デンマーク人のもの。まず、一部分を読み上げると、
ベッドは固く、
布団は汚く、
バスルームは
汚れていて、
不衛生でした。
ドアが落ちて、
腐りました。
Satoru:「腐りました」って、食べ物じゃないんだから。
岡田:もとがデンマーク語なので、もしかしたら機械翻訳の具合かもしれないけれど、「ドアが落ちて腐りました」と書いてありました。
石川:木が腐るまでの長期間、ずっと泊まっていたのかな。
Satoru:たまたまデンマーク人が来た瞬間に、ぎりぎりの均衡が崩れた?
岡田:これはHotels.comからの引用ですが、サイトの翻訳が間違ってるのかなと思って、試しにDeepLでも翻訳してみたんです。そうしたら、
ベッドは板で固く、
布団は汚くて、
バスルームは
不衛生でした。
ドアが落ちてしまい、
腐ったゲリゲリに
なってしまった。
石川:腐った…なんですって?
岡田:「ゲリゲリ」。
Satoru:下痢? ゲル状になったってこと?
岡田:腐ったゲリゲリになってしまった。
Satoru:ファンタジーの世界だ。
岡田:DeepLに訳させると余計にひどいことになった。
Satoru:デンマーク語の罵倒表現?
岡田:とにかく、ドアが落ちて腐るという部屋があるらしい。
石川:「ゲリゲリ」が来てしまうと、たしかに、「虫ぐらいは大したことない」って感覚になってきますね。
Satoru:「英語が通じない」なんて怒ってるやつは、まあ我慢をしろ、と。
岡田:そんなことで怒るな、と。
石川:僕の引用は、ロサンゼルスのホテルです。アメリカ人のレビューで、タイトルは「私が今まで行った中で最悪なホテル」。
Satoru:「今までで最悪」。これは酷評レビューのタイトルの頻出表現ですね。「惑星上で最悪のホテル」というのもありました。
悪臭。
冷蔵庫が動かない。
雑草のニオイがする。
毛布は洗っていません。
明らかに死んだ虫や、
血痕などを見ました。
便器が動いています。
Satoru:便器が、ロボット掃除機みたいになっている?
石川:近づくとフタが自動で開く種類の便器ですかね?
岡田:それはむしろ良い便器だ。
Satoru:血痕がついて、虫の死骸もあるホテルが、なぜ便器だけ高級志向になっているのか。
石川:原文では、「Toilet bowl is moving.」とあります。何が起きているのか、本当によくわからない。
Satoru:評価は星ひとつ?
石川:10段階で「星2」でした。
Satoru:「星1」じゃないのか。
岡田:いや、僕もHotels.comとかBooking.comとかで探していましたが、「星1」よりも「星2」のほうが良いレビューが多かったです。「1」だと、ちょっと適当につけてる感もあって。ほんとに酷評している人は「2」を付けるんです。
Satoru:さすが岡田さん、着眼点がすばらしい。私は「1」ばかり探してました。
酷評そのもの以外にも味わいが
Satoru:低評価レビューだけでなく、低評価ばかりのホテルの「星5」レビューを読むのも味わい深い。「すごくキレイでフレンドリーなスタッフ」とか、たぶん身内の人が書いているんじゃないか、と邪推してしまう。なにしろ抽象的な誉め言葉しかなかったりするから。
岡田:酷評レビューに対するスタッフからの返事も見どころですね。インドとかを見てると、星1、2、3しかついてないホテルがいっぱいあるんですけど、ホテル側がやたら陽気で、「フィードバックありがとう!!!!」みたいな。ビックリマークいっぱいで、絵文字とかも付けて、また泊まってね、と。
Satoru:懲りないんですね。
岡田:全然気にしてない。
Satoru:それは好感が持てるな。でもまあ、バジェット・ホテル(低予算のホテル)だったら、それはもう仕方がないですよね。
岡田:「わかってるよ」って感じなのかも。ホテル側にとっても。
Satoru:次は、ロシアの某所にあるレストランを紹介します。「星1」が200個ほどありました。
岡田:頼もしい。
Satoru:タイトルは「不愉快なレストラン」。
彼女と一緒に、
このレストランに
行きました。
注文してから
1時間半以上
待たされ、
サラダの卵は
腐っていました。
クレームをつけると
取り除かれ、
その分を請求
されました。
最悪な店です。
パイナップル
ジュースの
代わりに、
パックの
ジュースよりも
まずい
水のような
ものが
入っている。
ウエイターは
彼女の指が
入るようにして
皿を運んできた。
その夜は
台無しになった。
Satoru:他のレビューには、「毒を盛られた」というのが複数ありました。
岡田:毒を盛られた? なにかの慣用表現?
Satoru:あるいは直訳なのか。それから「毒殺」というのも出てきました。このレビューを書いてるのだから生きてるとは思いますけど。
岡田:すごいな。
Satoru:続いて、同じホテルの別レビューを紹介します。
ソビエト連邦の
悪い部分が
全部残っている。
なぜ潰れていないのか
わからない。
去年に訪れて
本当に
ひどい目にあった。
今年の夏に
もう一度
妻と行ったら、
もっとひどいことに
なってしまった。
本当に悲しい
気持ちになった。
岡田:再訪するなよ。
Satoru:辛い目にあったのに、また訪れてしまう。これはロシア人の独特な感性かもしれない。
岡田:怖いもの見たさ、みたいな。
Satoru:このレストラン、お客さんを裁判で訴えたことがあるらしいです。そうした経緯を仄めかすレビューもありました。
岡田:ちょっとした名所みたいになってるのかな。
Satoru:そうでしょうね。「ソビエト連邦の悪い部分が残ってる」と言われてしまうと、なんだか行ってみたくなりますね。
岡田:僕はドバイのホテルを紹介します。
Satoru:ドバイのホテル、良さそうですね。
岡田:インドだと安宿が多いから低評価も普通だけど、こちらはドバイの高級ホテル。そのタイトルは、「今すぐパスポートが必要です」。
Satoru:ん? どういうこと?
彼らは
私のパスポートを
取りました。
すぐに返すように
依頼してください。
私はドイツでの
アカウントで
予約されたとおりに
支払いをします。
私は空港にいます。
すぐにパスポートが
必要です。
どうかパスポートを
返して下さい。
Satoru:これ、レビュワーがパスポートを受け取り忘れたのでは?
岡田:ホテルからの返信があるんです。「あなたがお金を支払わない限り、ホテルはパスポートを保有する権利があります」。
Satoru:ははは。このドイツ人、お金払わなかったじゃん!
岡田:払わなかったんです。たぶん。
Satoru:ホテルは悪くない。
岡田:悪くない。で、パスポートがないから、空港から打ち込んでるんですね。いま空港にいますって。
Satoru:レビューサイトをチャットみたいに使うとは。
岡田:直接連絡しろよっていう。
Satoru:でもまあ、ホテルが反応してくれるのもやさしいですよね。最後どうなったんだろう。その後のやり取りは、システム的にできないわけですよね。
岡田:はい。返信への返信はできないので、このレビューはここで終わってます。2名が「参考になった」って。
石川:ははは。
Satoru:このドイツ人も、パスポートなしで空港に行くとはツワモノだな。
岡田:かなり混乱している感じの文章でしたね。
Satoru:ドイツ人ってしっかりしているイメージがありますが、まあ、バックパッカーなりたての若い人なのかも。
岡田:レビュー側が悪いのかも、というパターンでした。
Satoru:続いては石川さんですね。
石川:はい。ひとつ、詩的な表現があっていいなと思ったものを紹介します。これはロサンゼルスのホテルで、最初に案内された部屋がとにかく汚くて、部屋を交換してもらった、というところから始まります。
ようやく2番目の部屋に
ついたとき、
私達はオフィスを出て、
ゴミで覆われていない
部屋に入ったので、
ドアをロックして
ベッドに座っただけでした。
壁は、さまざまな塗料の層で
覆われており、一部は剥がれ、
そこには、詰め込まれたが
塗装されていない場所が
あります。
ベッドの上では、
誰かがテレビを壁から
引き裂いたように見えました。
そこには、ベッドが
かつて取り付けられていた
2つの隙間がある穴がありました。
翌朝シャワーを浴びたあと、
私は汚れたと感じました。
Satoru:汚れたと感じた。
石川:その一文がいいな、と思って。
Satoru:翻訳ゆえの味わいがありますね。「汚れたと感じました」か。
岡田:小説の一節みたいな。
Satoru:昭和中期ぐらいの、まだ英語翻訳に慣れてない感じの。
岡田:純文学のような。
Satoru:他に紹介したいものはありますか?
岡田:めっちゃシンプルなんですけど、インドのホテルです。質問形式のレビューサイトで、場所はどうだったか、スタッフの対応はどうだったか、設備がどうだったか、みたいな質問に答えていく。
Satoru:ありますね、そういうの。
岡田:そのなかの、「設備はどうでしたか」という質問への回答。
行ったけど、ホテルがなかったので答えられません
Satoru:ホテルがなかった? 潰れちゃったってこと?
岡田:わからないです。このレビューしかないので。
Satoru:他の人のレビューは?
岡田:無いんです。
Satoru:お金払っちゃったのに。
岡田:設備自体がないから、ないものには答えられないっていう。
Satoru:すごいな。星はいくつ?
岡田:星もないです。この文章だけ書いてある。
Satoru:せめて他の人のコメントがあればね。
岡田:ホテルがいつまでもあると思うな、と。
Satoru:まあ、他の人にとってはすごく参考になる情報ではある。このホテルに行かないほうがいいぞと。うーん、これはもう、優勝は岡田さんですね。
石川:賛成です。
Satoru:おめでとうございます。酷評レビュー選手権、優勝は岡田さん。さすがの実力を見せつけられる回となりました。