動物細胞を培養して人工的に作られる「培養肉」は実際の肉より持続的で健康的なのか?

GIGAZINE



近年は家畜から排出される温室効果ガスが気候変動に及ぼす影響が懸念されており、ニュージーランドでは気候変動対策として「牛のげっぷ」に課税する計画が発表されて世界的に話題を呼びました。そんな中、既存の肉に代わる選択肢として植物肉と共に注目されているのが、動物細胞を人工的に培養して製造される「培養肉」です。培養肉は果たして持続可能なのか、健康に対する影響はどうなのかといった疑問について、科学系メディアのLive Scienceがまとめています。

Lab-grown meat: How it’s made, sustainability and nutrition | Live Science
https://www.livescience.com/lab-grown-meat

◆実験室で製造する「培養肉」とは?
培養肉製造を手がけるベンチャー企業・ UPSIDE Foodsの製品・規制担当ヴァイスプレジデントのエリック・シュルツ氏は、培養肉を「動物を殺す必要なしに作られた本物の肉」と表現しています。シュルツ氏は、「培養肉を作るプロセスは熟練した発酵技術に基づく産業用細胞培養プロセスであるという点で、ビールの醸造に似ています」と述べています。

培養肉製造では発酵において酵母やバクテリアを増殖させる代わりに、牛や鶏などの家畜から採取した動物細胞を増殖させます。動物細胞を清潔でコントロールされた環境に置き、自然に増殖して成熟するための栄養素を投与するプロセスは、動物の体内を疑似的に再現して細胞成長を促すようなものです。こうして増殖した細胞は通常の肉と同様に加工され、食用に適した状態で出荷されるとのこと。

シュルツ氏は、培養肉プロセスにおける細胞は通常の動物と比較して何倍にも成長し続けることができるため、食肉生産の新しい方法として期待されていると主張しています。「事実上、たった1匹の動物の細胞から、何年にもわたりたくさんの動物肉を育てることができるのです」とシュルツ氏は述べました。


◆培養肉は持続可能性が高いのか?
家畜によって排出される温室効果ガスは、すべての人為的な温室効果ガス排出量のうち14.5%を占めているといわれており、牛肉および牛乳用に飼育される牛がそのうちの約65%を占めているとのこと。また、1kgの牛肉生産には15.414リットルの水が必要となるほか、世界の農地の80%が牛の飼育に使われているそうで、家畜の飼育による環境負荷はかなり高いといえます。

人工的に動物細胞を増殖させる培養肉は家畜を飼育する必要がないため、温室効果ガス排出の緩和に役立つ可能性があるという(PDFファイル)研究結果や、従来の肉と比べて消費するエネルギー・水・土地が大幅に減少して温室効果ガス排出の削減につながるという研究結果が報告されています。しかし、2020年の論文では「1000年規模で見ると培養肉が持続可能性の上で牛肉より優れているとは言えない」と結論づけられており、この点はまだ議論の途中だそうです。

2020年の論文を発表した研究チームは、「培養肉生産が気候的に持続可能な代替策となるかどうかはまだ明らかでありません。培養肉生産が気候に与える影響は、どの程度の脱炭素エネルギー生成を実現できるか、そして生産に伴う具体的な環境フットプリントによって決まります」と述べ、培養肉生産システムの詳細かつ透明性のあるライフサイクル評価が必要だと主張しています。


◆培養肉は健康にいいのか?
培養肉は必須アミノ酸や脂肪プロファイルを人工的に変更できるため、従来の肉よりも健康で栄養に富んだものになる可能性があります。また、培養肉生産では抗生物質の投与なども必要ないため、安全面でも家畜より向上するとみられています。

◆培養肉はヴィーガンの人も食べられるのか?
技術的に考えると、培養肉は動物細胞を基に作られているため、立派な動物性食品と言えます。そのため、動物性食品を摂取できないヴィーガンの人が食べられる製品とは言えません。

◆培養肉はいつ食べられるようになるのか?
培養肉が食卓に並ぶのは遠い未来のことだと思っている人も多いかもしれませんが、2021年にはUPSIDE Foodsがカリフォルニア州に年間約22トンの培養肉を製造できる工場を設立したほか、イスラエルでも1日500キログラムの培養肉を製造する産業施設が開設されています。

世界初の培養肉生産施設がイスラエルに誕生、1日500kgを生産可能 – GIGAZINE


記事作成時点では、アメリカの市場で購入できる培養肉製品はありません。しかし、アメリカ食品医薬品局(FDA)の広報担当者は「製造業者は培養肉を競争力のある価格にするため、十分な量を一貫して生産するようにプロセスの拡大に取り組んでいます」「これらの製品がアメリカの市場に近づくにつれて、アメリカ農務省の食品安全検査サービスと緊密に協力しています」と述べ、すでにさまざまなタイプの培養肉製品について企業と議論していることを認めたとのことです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

Source

タイトルとURLをコピーしました