GDPR がヨーロッパのアドテク事業に与えた影響を振り返る:プライバシーサンドボックスもUID 2.0さえも暗礁に乗り上げた欧州

DIGIDAY

数年の準備期間を経て、2018年に施行されたEU一般データ保護規則(以下、GDPR)だが、控えめに言っても、そのインパクトは相当なもので、現在もヨーロッパのアドテクに疑念を投げかけている。

破壊的な影響の一例として、いくつかの回避策が講じられた。現在進行中のCookieレス技術の開発コンテクスチュアルへの広範な移行などだ。一方、ヨーロッパからの完全撤退を選択した者もいる。

GDPRの施行からもう4年だが、業界は今も教訓を学び続けている。IABヨーロッパのトランスペアレンシー&コンセントフレームワーク(Transparency & Consent Framework:透明性と同意の枠組み、以下TCF)は、Googleが抵抗を示し、現在は第2版となるが、現在も地域のデータ保護当局による法的な精査が続いている

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生後、初めての対面開催となるドメキシコ(Dmexco)がドイツで9月に行われ、ブースやステージ、そして(間違いなく)会場となったケルンメッセ周辺のバーで、このテーマについて詳細に語られた。

障害

TFC 2.0の見通しについて、業界横断的なソリューションの開発に関わる政治的な事情から匿名を希望する複数の関係者が、マーケター(つまり、ファーストパーティ関係を持つ人々)との会話を受けて、業界の自主規制であるGDPRソリューションは再考が必要かもしれないとほのめかしている。

ザ・トレードデスク(The Trade Desk)のEMEA担当シニアバイスプレジデント、フィリッパ・スネア氏は米DIGIDAYの取材に対し、DSPの同社がIABヨーロッパ、IABテックラボ(IAB Tech Lab)の両方とどのように連携し、ソリューションの開発を進めているかを説明してくれた。「強力な統一ソリューションが必要かどうか私にはわからない」と、スネア氏はユニファイドID 2.0(Unified ID 2.0:以下、UID 2.0)について暗に言及した。「業界によって管理され、同意フレームワークの必要性を奪うのだろうか?」。

ヨーロッパでは、Googleのプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)」はもちろん、UID 2.0さえも暗礁に乗り上げており、さまざまな面で、Cookieなき未来に向けて道を切り開こうとする業界の努力を阻むことが証明されている。

EUID……ザ・トレードデスクと他の皆で提供

GDPRはプロジェクトの後援者を不快にさせる原因となっている。ザ・トレードデスクは2022年、EUIDと銘打ったタイアップで、この地域での取り組みを軌道に乗せるべく、ライブランプ(LiveRamp)との提携を発表している。

ライブランプの認証トラフィックソリューション(Authenticated Traffic Solution:ATS)をベースに、EUIDはGDPRの具体的な交渉に臨む。つまり、この標準を採用した広告主やパブリッシャーは、ザ・トレードデスクのDSPで、EUIDまたはランプID(RampID)(いずれも相互運用可能)のいずれかで取引できるということだ。

スネア氏はDIGIDAYに、GDPRはEUID展開の「問題になる」ものの、2023年には市場に投入できるはずだと語った。スネア氏はドメキシコの会場で、「すでにアルファ版まで進んでおり、できるだけ早くベータ版に移行したい」と述べている。「ただ正式なリリースの時期がわからないだけだ」。

別の情報筋によれば、さらなる提携が予定されているとのことだが、契約上の制約から、ザ・トレードデスク陣営はまだ参加者を公にできないようだ。ただし、スネア氏はDIGIDAYに、「大きなCRMデータベースを持つ複数の顧客」と協力し、「パイプにデータを流し、この技術が機能するかどうかを確かめているところだ」と語っている。

その一例が、ザ・トレードデスクが最近発表した消費財大手P&Gとの提携で、P&GはポストCookieへの準備の一環としてUID 2.0を使用している。スネア氏はDIGIDAYの取材に対し、「米国でUIDソリューションをテストし、それを指標にする(中略)EUIDでもそのようなパートナーを探している」。

立ち止まってはいけない…

前述の通り、GDPRの施行をきっかけに、ヨーロッパから撤退した企業もある。ドローブリッジ(Drawbridge)(その後、オラクル(Oracle)に売却)、グラウンドトゥルース(GroundTruth)、カーゴ(Kargo)、バーブ・ワイヤレス(Verve Wireless)は皆、2018年に撤退した。

DIGIDAYは以前、バーブの首脳陣が2018年、GDPRへの対応に必要なインフラの構築コストは、ヨーロッパでの事業規模を考えると、投資利益を生み出すことができないと判断したことを報じている。当時の従業員数は15人だった。

2020年、バーブはガミゴ(Gamigo)に買収され、バーブ・グループ(Verve Group)という名称になった。そして、2022年、親会社であるメディア・アンド・ゲームス・インベスト(Media And Games Invest:以下、MGI)が上場しているヨーロッパに戻ってきた。2020年以降、バーブはコンテクスチュアル広告のビームレイ(Beemray)、セルサイド専門のスマアト(Smaato)、バイサイドのマッチ2ワン(Match2One)、さらに最近では、モバイルに特化したDSPのデータシート(Dataseat)など、独自の買収劇を繰り広げている。

バーブ・グループの共同CEO、イオヌト・シオボタル氏によれば、いずれもMGIの子会社であるパブネイティブ(PubNative)とアップリフト(Applift)が合併してできた現在の組織は、2018年にヨーロッパから撤退した会社と同じブランド名を使っているが、それ以外は全くの別物だという。

「GDPRが施行された2018年、私たちは会社(パブネイティブ)を畳み、米国で事業を展開することになった」とシオボタル氏は説明し、移転の結果、売上が20%減少したと言い添えた。「そのため、(ここから)同意を保存して渡すためのプラットフォームを再構築する必要があった(中略)そして、(MGIに)買収されるまでに、このインフラをすべて整備した」と、同氏は語る。現在、このインフラは組織全体で利用できるという。

一方、2018年にヨーロッパから撤退したカーゴが再進出を計画していることもDIGIDAYは把握している。現地の情報筋によれば、TCFを導入したことで、英国のパブリッシャーと再び提携する自信を深めているという。

そして、手を広げる

他のアドテク企業も手を広げている。コンテンツレコメンデーションで有名になったアウトブレイン(Outbrain)は最近、初めてのSaaS(サービスとしてのソフトウェア)製品であるキーストーン(Keystone)を発表した。AI(人工知能)を使い、パブリッシャーが従来の広告以外に収益機会を拡大する支援を行う製品だ。

同社の共同創業者兼共同CEO、ヤロン・ガライ氏は、パブリッシャーがどのようにキーストーンを使用しているかについて、「パブリッシャーのピクセルについて考えてみると、(アウトブレインを含む)広告産業複合体が提供するものは、広告主のKPIやROIにとても最適化されている」と説明する。「アフィリエイト収益の最大化を目標に、キーストーンの技術をeコマースに活用できる。適切なユーザーに最高のオファーを提供するため、キーストーンがコンバージョンと価値を追跡する」。

「キーストーンにコンバージョンデータを供給するのは簡単で、オンライン、オフラインでの分析、単純な推計値など、さまざまな方法がある。私たちは10年以上にわたって広告主のために行ってきたように、導入の障壁を取り除こうとしている」と、ガライ氏は語った。

[原文:How ad tech aims to build back better

Ronan Shields(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:分島翔平)

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