天体の動きを変えた人類初の試み:NASAによるDART計画

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米航空宇宙局(NASA)から驚くべきニュースが飛び込んできた。DART(ダーツ)計画の成果が発表されたのだ。NASAの管理者、ビル・ネルソン氏は11日、小惑星衛星ディモルフォスの軌道が9月のDART探査機の衝突の結果、その軌道に影響があったと語った。NASAは8日、「天体の動きを意図的に変えた人類初の試みであり、小惑星偏向技術の最初の本格的なデモンストレーション」と評している。

ハッブル宇宙望遠鏡からの画像は、小惑星が9月26日にNASAのDART宇宙船によって意図的に衝突されてから285時間後にディモルフォスの表面から吹き飛ばされた残骸を示している(NASA提供、2022年10月8日)

宇宙探査機がディモルフォスに衝突した瞬間を喜ぶNASAのDARTチーム(NASA提供、2022年9月26日)

同氏によると、ディモルフォスがディディモスを周回するのにこれまで11時間55分かかっていたが、現在は11時間23分だ(この測定には、約プラスマイナス2分の不確かさがある)。

昨年11月に米カリフォルニア州から「ファルコン9」ロケットで打ち上げられたDART宇宙探査機は今年9月26日、時速2万3000km以上の速度で天体に衝突した。これは、地球を脅かす小惑星に対する防御をテストする宇宙での最初の実験だ。

直径約160メートルのディモルフォスと、ディモルフォスが周回する直径約780メートルの小惑星ディディモスは、地球から少なくとも約1100万km離れているから、実験の結果で地球に影響を与える危険性はなかった。

米航空宇宙局(NASA)は昨年11月24日、地球に接近する小惑星の軌道を変更させることを目的とした「DART」と呼ばれるミッションをスタートさせた。未来の地球の安全を守るためにNASAと欧州宇宙機関(ESA)が結束して「地球防衛システム」を構築するため約3億3000万ドルを投入したビッグプロジェクトだ。DART計画は、宇宙探査機(プローブ)を打ち上げ、目的の小惑星に衝突させ、小惑星の軌道の変動を観察する実験だ。

DARTはDouble Asteroid Redirection Test(二重小惑星方向転換試験)の略だ。小惑星が地球に衝突する軌道上にあると判明した場合、その軌道を微調整することで地球に衝突する危険性を排除する試みで、地球が宇宙で今後も存続していくための危機管理ともいえる計画だ。

NASAの説明によると、プローブは昨年11月23日(現地時間)は、カメラを1台搭載し、約1年間飛び、今年9月頃には2重小惑星ディディモスの月「ディモルフォス」に衝突。衝突後の小惑星の影響を監視し、測定することになっていた。質量610kgの探査機が秒速6.6kmで衝突することで、ディディモスを周回するディモルフォスの軌道に変化、具体的には、約12時間の小惑星の軌道を少なくとも73秒、最大10分間短くすると予想されていた。しかし、衝突後の観測の結果、実際は軌道が23分短縮したわけだ。

DARTミッションには、地球上の望遠鏡とジェームズウェッブ宇宙望遠鏡、および現場のカメラが同行した。そして探査機自身のカメラシステムは、ディモルフォスの画像を衝突点まで地球に送信してきた。DART宇宙船から切り離された衛星がその後、引き継ぎ、衝突現場を通り過ぎてクローズアップ画像を提供することになっているという。

小惑星の地球への衝突は過去にもあったし、未来にも排除できない。6600万年前、直径約10kmのチクシュルーブ小惑星が現在のメキシコに衝突し、恒久的な冬が発生し、恐竜の絶滅につながった。最近では、2013年2月15日、直径20m、1万6000tの小惑星が地球の大気圏に突入し、隕石がロシア連邦中南部のチェリャビンスク州へ落下、その衝撃波で火災など自然災害が発生したことはまだ記憶に新しい。約1500人が負傷し、多数の住居が被害を受けた。ESAによると、今後100年以内に地球に急接近が予測される870の小惑星をリストアップしている。

ビル・ネルソン氏はダーツ計画の成功を、「私たちは皆、故郷の惑星を守る責任があります。結局のところ、私たちが持っているのはこれだけです」と述べ、「このミッションは、宇宙が私たちに投げかけてくるものすべてにNASAが備えようとしていることを示しています。NASAは、私たちが地球の擁護者として真剣であることを証明しました。これは、NASAの卓越したチームと世界中のパートナーのコミットメントを示すものであり、惑星防衛と全人類にとって分水嶺の瞬間です」と評している。今後数週間から数カ月で、衝突の影響がさらに調査される。2024年には、ESAがNASAと同様のミッション「ヘラ」を開始し、さらに詳細な探査が行われる。

NASAによると、太陽系には何十億の小惑星が存在し、地球から観測できる宇宙空間でも約2万7000個の小惑星が特定されている。近未来、小惑星が地球に衝突する可能性は少ないが、その「Xデー」に備えて、NASAはDARTミッションを始めたわけだ。

当方はDART計画は開始された直後、「地球接近の小惑星の軌道を変えよ」(2021年11月25日参考)といコラムの中で「国連の『地球近傍天体(Near Earth Objects=NEO)に関する作業会報告書』によると、NEOの動向は人類が完全には予測できない“Acts of God”(神の行為)と呼ばれてきた。DART計画はその神の領域に関与し、小惑星の地球衝突を回避しようとする試みだ。神の祝福を得るか、それとも神の怒りを受けるかは不明だ」と書いたが、「DART計画は神の御心にかなった人類の責任領域の課題」と確信している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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