結局、既存Wi-Fi 6E対応機器で6GHz帯は使えるの? 何がOKで何がNGなのかを総務省に聞いた【イニシャルB】

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既存の6GHz帯対応機器の状況について総務省に話を聞いてきた

 Wi-Fi 6E対応のPCやスマートフォンなどに関して、6GHz帯でつながる/つながらないが、はっきりとしない状況となっている。現状はメーカーの対応を待つしかない状況だが、法的にはどのように判断すればいいのかを確認すべく、総務省にインタビューを申し込んだ。取材を元に、その詳細を解説する。

ファームウェアアップデートで対応「できる」も「できない」も正しい

 9月2日の総務省令で6GHz帯の無線LAN利用が可能になり、バッファローやNECプラットフォームズからWi-Fi 6E対応ルーターが発売された。

 かねてから総務省の情報通信審議会で議論が重ねられてきたが、技術的要件や6GHz帯を利用中の既存のシステムへの影響などの課題がクリアされ、ようやく国内でも利用可能になった状況だ。

 新たに追加された6GHz帯によって、今後は、ARやVRなどのエンタメ分野、工場や医療分野などの活用も見込まれている。単にWi-Fi 6が拡張されたという話ではなく、新たな周波数帯がWi-Fiで利用可能になったことが、社会的に大きな意義を持つわけだ。

 しかしながら、本稿執筆時点(10月4日)では、Wi-Fi 6Eで拡張された6GHz帯に接続できるPCやスマートフォンは存在しない。

 PCやスマートフォン、マザーボードなどの中には、ハードウェア的に6GHz帯に対応した無線LANモジュールを組み込んだ製品はすでに市場に出回っており、当初は、ファームウェアのアップデートなどで6GHz帯に対応できる見込みとなっていた。しかし、まだ対応は実施されていない。

 現状は、ファームウェアのアップデートのみでは対応「できない」という情報と、ファームウェアのアップデートのみで対応「できる」という情報が両方存在する状況となっており、先行きが不透明となっている。

 結論から言えば、このファームウェアアップデートで対応「できる」「できない」という、一見、矛盾する情報はどちらも正しい。

 なぜなら、製品ごとに判断が異なるからだ。本稿では、ファームウェアアップデートで対応できるか、できないかの判断が具体的にはどのような条件で異なるのかを見ていくが、その前に、前提となる情報を整理しよう。

6GHz帯を既存機器で使えるようするには「新しい証明番号の申請」しかない

 まず、既存のWi-Fi 6E対応機器で6GHz帯が使えるようになるには、どのような手続きが必要なのかをおさらいしておこう。

 国内で流通する無線LAN対応機器を利用するには、いわゆる「技適マーク」が必要となる。

技適マークの例。写真はWi-Fi 6E対応ルーターで赤枠で囲った部分がその表示になる

 製品を販売するメーカーは、その仕様などを定めた工事設計書をTELEC(一般財団法人 テレコムエンジニアリングセンター)などの登録認証機関へと提出し、法令で定められた技術基準に適合しているかどうかが確認・審査される。適合が確認されると、技適マークが製品に貼付され、市場に出回ることになる。

 現在、市場に流通している多くの「Wi-Fi 6E対応」をうたうPCやスマートフォンは、2.4GHz帯と5GHz帯は利用可能だが、6GHz帯は機能的にも無効にされているだけでなく、法的にも技術基準適合証明を受けていないため、利用できない状況となっている。

 もう少し、具体的に解説しよう。例えば以下のように、型番「W001」という製品が、2.4GHz帯と5GHz帯に関して「000-000001」という証明番号を取得していたとしよう。

型番:W001 証明番号:000-000001  内容:2.4/5→OK

 この機器で新たに6GHz帯を使えるようにするには、前述したように、新たに6GHzの電波の強度などの設計が法令に定めた範囲内であることを確認する必要がある。

 ここで2つの選択肢が考えられる。

【A】同じ証明番号(000-000001)で6GHz帯に関して追加申請
【B】新しい証明番号(000-000002)で6GHz帯に関して追加申請

 まず【A】だが、6GHz帯に関しては、この選択肢は取れない。

 仮に、同じ証明番号が使えれば、端末側に記載されている証明番号が同じなので、後述する表示の問題が発生しない。つまり、機器のファームウェアをアップデートするだけで、手軽に6GHz帯を利用可能になることが想定された。しかしながら、そうはいかなかったわけだ。

 筆者の記事「Wi-Fi 6Eルーターを買うにはまだ早い?既存のWi-Fi 6E対応機器はつながらない可能性も」でも混乱させてしまったが、総務省によると「6GHz帯は異なる種別となるため新たな申請で別の証明番号を取得する必要がある」という。

 つまり、上記選択は【B】一択となる。

144chの場合とは違い「6GHz帯は、そもそも『種別が異なる』ケース」

 ちなみに、話が少し逸れるが、「同一認証番号とする場合のガイドライン」という文書があり、この「4.2.15」には、5GHz帯の144chに関する興味深い内容が記載されている。

 144chは、令和元年7月11日総務省令第二十七号によって、W56の利用可能周波数が5470~5725MHzから5470~5730MHzへと変更され、144chが追加で利用可能になった。このケースでは同一認証番号が利用可能で、しかもソフトウェアの設定変更(つまりファームウェアアップデート)により144chの追加も可能になっている。

同一認証番号とする場合のガイドラインの4.2.15

 わずか5MHzながら周波数帯が追加された上記事例で、同一番号の利用が許可されているので、今回の6GHz帯のケースでも、このガイドラインと同じ判断がなされてもよさそうに思える。

 しかし、総務省によると、144chは「同一『種別』内での周波数帯追加に関する規定」だが、今回の6GHz帯は、そもそも「種別が異なる」ケースとなるという。

 上記144chのガイドラインには、「証明規則第2条第1項第19号の3に該当するもの」と記載されている。「2条第1項第19号の3」は、「5GHz帯小電力データ通信システム」の種別だ。つまり、法令上、同じ種別に分類されている機器で周波数帯が拡張されたケースとなる。

赤枠部分が「5GHz帯小電力データ通信システム」の種別。この番号はすでに登録されているので、この範囲内の周波数変更はガイドラインに従って同番で可能。6GHzの種別は、これとは別になる

 一方、6GHz帯の種別は証明規則第2条第1項79号(VLP向け)、80号(屋内用のLPI向け)と新たに種別が設けられている。

 つまり、同じ周波数帯の追加というケースであっても、先のガイドラインは同一種別で周波数が拡張された場合の例であって、6GHz帯は、そもそも種別が異なるものとなるため、同じ考え方は適用できないというわけだ。そもそもガイドラインの適用範囲が明記されているので、ガイドラインそのものを6GHz帯に適用することもできないが、同様の考え方で新たに6GHz帯向けのガイドラインを追加することも難しいわけだ。

▼参考:
特定無線設備、特別特定無線設備一覧

「特定無線設備、特別特定無線設備一覧」に、6GHz帯に関する種別も掲載されている

新番号の取得方法は2通り

 話を戻そう。さて、6GHz帯を利用するには、既存の機器であっても新しい番号が必要になるわけだが、この取得方法も複数通り考えられる。

【ア】6GHz帯を追加で申請
 既存の申請 型番:W001 証明番号:000-000001 内容:2.4/5
 新しい申請 型番:W001 証明番号:000-000002 内容:6GHz

【イ】既存番号の使用をやめて新番号で申請
 既存の申請 型番:W001 証明番号:000-000001 内容:2.4/5→使用中止
 新しい申請 型番:W001 証明番号:000-000002 内容:2.4/5/6GHz

【ウ】別型番で新たに申請
 既存の申請 型番:W001 証明番号:000-000001 内容:2.4/5
 新しい申請 型番:W002 証明番号:000-000002 内容:2.4/5/6GHz

 すでに流通している機器については、このうち【イ】と【ウ】は現実的ではない。【イ】は既存番号の使用を取りやめることとなるが、全ての機器を一律で6GHz帯対応とした場合、市場に1台でも既存番号の機器が残っていれば、その機器は電波法違反となる。技術基準適合証明では、工事設計と市場の機器が100%合致することがメーカーに義務付けられているからだ。

 一方、【ウ】は、製造日などで機器のリビジョンや型番を分け、同じ製品でもある日を境に6GHz帯を使えない機器と使える機器を分ける方法だ。これは、方法としては可能性があるが、そもそも、既存の機器を6GHzに対応させるという目的を果たせないので、今回の議論の対象にはならない。

 このため、既存の機器が新たに6GHz帯を申請する方法は【ア】、つまり6GHz帯に関するテストを実施し、その結果を新たな証明番号として同じ型番の機器に対して追加申請することになる(電磁的表示の場合は【イ】も入るが、前述したように現実的ではない)。

 TELECやDSPRなどの登録証明機関は、すでに6GHz帯に関する特性試験(総務省が試験方法を定めるまでの間、法令に基づき登録証明機関が総務省に届け出た試験方法による試験も実施されており、その結果は総務省が試験方法を定めた後も有効)を実施しており、バッファローやNECプラットフォームズの6GHz帯許可済みの製品はこうした試験を経て許可を得ている。

 PCやスマートフォンなどの機器に関しても、デバイス本体、またはデバイスに内蔵されている無線LANモジュールメーカー(インテルなど)が、こうした試験を利用して6GHz帯に関する新たな技適番号を申請することになる。

 こうして6GHz帯に関する認証を受けた場合、以下のように同じ型番で2つの証明番号を持つようになるわけだ(上記【イ】、かつ電磁的表示の場合は、1つの番号でも対応できる)。

型番:W001
証明番号:000-000001 内容:2.4/5
証明番号:000-000002 内容:6GHz

最大の課題は認証番号の「表示」をどうするか?

 さて、ここまでについては、さほど大きな問題ではない。単にメーカーが6GHz帯に関する工事設計書を作成し、登録証明機関に申請すれば済む話だ。時間はかかるが、難しい話ではない。

 しかし、それだけでは6GHz帯を利用できない。

 最後の問題は、取得した6GHz帯用に新たに取得した認証番号を、機器にどのように表示するかだ。

 「技適マーク」という言葉をよく耳にすると思うが、技術基準適合証明を受けた機器は、技適マークと証明番号を機器に表示する義務がある。

 この表示は、方法がきちんと定められており、次の要件を満たす必要がある。

誰が?

「登録証明機関」(上記TELECなど)や「製造業者または販売業者(メーカー)」が。

どこに?

3通りの場所(表示方法)がある。

【い】「設備の見やすい箇所、あるいは取扱説明書及び包装又は容器」に直接表示
【ろ】「設備本体のディスプレイ」に表示(表示方法の説明書が必要)
【は】表示装置を備えない機器は「外部ディスプレイ」に表示(表示方法の説明書が必要)

 ここが、冒頭で触れた「ファームウェアアップデートで対応『できる』『できない』」の分かれ目となる。【い】【ろ】【は】のケースごとに、それぞれファームウェアアップデートで6GHz対応が可能か、不可能かを見ていこう。

【い】直接表示→×

 【い】の「『設備の見やすい箇所、あるいは取扱説明書及び包装又は容器』に直接表示」は、古いノートPCや無線LANアクセスポイントなどが採用している方式だ。本体のどこかに技適マークと証明番号が記載されている。なお、「取扱説明書 ‘and’ (包装or 容器)」であることには注意したい。

本体に記載されている例。写真は古いノートPCなので、そもそも6GHz帯には非対応

 この方法の場合、ファームウェアアップデートだけでは6GHz帯対応は「できない」。

 機器本体や内部モジュール表面へのプリントなど、物理的な方法で番号が記載されているので、この表示を変更する必要があるが、前述した「誰が」のところにあるように、この表示の変更はユーザーには許可されていない。

 つまり、6GHz帯用の証明番号が新たに発行されたとしても、ユーザーが表示を書き換えたり、シールなどを貼り変えたりして変更することはできないわけだ。

 メーカーが端末を回収して書き換える、という対応であれば可能だが、とても現実的ではないだろう。

【ろ】ディスプレイ表示→△

 【ろ】の「『設備本体のディスプレイ』に表示」は、PCやスマートフォンで採用されている方式だ。

画面に表示される例。画面はGoogle Pixel 6。6GHz帯は現状未対応なので、2.4/5GHzのみの番号が表示される

 この場合、基本的にファームウェアのアップデートによって6GHz帯への対応が「できる」。

 ファームウェアによって、無効化されている6GHz帯のロックを解除すると同時に、画面に表示される技適マークを書き換えればいい。

 ただし、注意が必要なケースもある。PCの場合、本体内部に組み込まれている無線LANモジュールに技適マークや証明番号がプリントされているケースも考えられる(機器の番号を画面に転写しているケース)。この場合、画面表示の変更だけでは対応できず、内部のモジュールにプリントされている番号も変更(新たに6GHz帯の番号を追記)しなければならない。

 つまり、純粋に画面表示のみならファームウェアアップデートで対応可能だが、物理的な記載がどこかにある場合は対応不可能になる可能性が高い。

内部のモジュールに技適が非表示で、画面表示のみなら対応可能

内部のモジュールに技適が記載されている場合は、この表示も書き換える必要がある

【は】外部ディスプレイ表示→△

 【ろ】と同様になる。画面表示だけの場合はファームウェアアップデートで対応「できる」が、内部に物理的に記載されていると「できない」。

いずれにせよメーカーの対応次第

 以上、混乱するWi-Fi 6Eについてまとめたが、冒頭で触れたように、ファームウェアアップデートによって対応「できる」場合も、「できない」場合も、どちらもあり得ることになる。

 なので、対応できるメーカーは6GHz対応ファームウェアを提供するだろうし、できない、もしくは可能だが手間やコストを考えると対応を避けたいと考えるメーカーはファームウェアを提供しない、ということになるだろう。

 そういえば、すっかり忘れていたが、同じようなことは2005年のJ52→W52変更、W53追加のときにも発生していたことを思い出した。

 当時は、J52→W52への変更は期限を区切った経過措置としてファームウェアアップデートで対応、追加となるW53対応は既存製品の対応は見送りという結果だった。

 基本的な法令の考え方は当時と変わっていないが、当時は、無線LAN機器ベンダーが、アクセスポイントと子機をセットで販売していた時代で、メーカーとして早い段階からパブリックコメントや要望を提出していたり、メディアに対して説明を頻繁にしたりしていたため、多少の混乱はあったが、現在ほど混乱しなかった記憶がある。

 最後に、他社メディアとなるが、以下の記事は、早い段階で掲載された、非常に正確な記事なので一読をおすすめする。

▼参考:
ついに始まった「Wi-Fi 6E」 既存の対応機器で有効化するのは難しい? 総務省に確認して分かったこと(ITmedia)

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