ヤフーのアプリ利用者1000万人超の位置情報を統計化、“人流ビッグデータ”から何が分かるのか?【地図と位置情報】

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 ヤフー株式会社(Yahoo! JAPAN)は、検索・位置情報などのビッグデータ分析ツール「DS.INSIGHT」で提供している人流データ分析サービス「DS.INSIGHT Place」において、新機能「施設来訪者分析」を年内に追加すると発表した。今回は、10月5日に都内およびオンラインにて行われた記者発表会の内容をお伝えする。

ヤフーの人流データ分析サービス「DS.INSIGHT Place」とは

 DS.INSIGHT Placeは、ヤフーが提供するアプリのユーザーから利用許諾を得た1000万人以上の位置情報データを統計化した人流ビッグデータを可視化できるリサーチツールで、ウェブブラウザーで利用できる。人流データは総務省の住民基本台帳などを用いて偏りを補正し、推計人数を算出しており、Yahoo! JAPAN ID登録情報を統計化することで性別と年代を統計化しているのが特徴で、居住地は位置情報による推計を行っている。

「DS.INSIGHT Place」で利用される人流データ

 ヤフー執行役員・CDO(Chief Data Officer)の矢口博基氏は記者発表会にて、以下のように語った。

 「ZホールディングスはAIとデータの力で、より便利でお得で楽しい世の中を実現するサービスを提供する“AIテックカンパニー”を標榜しており、その中核を担うYahoo! JAPANとしては、データは最も大事なものです。我々は約100におよぶサービスを提供し、月間利用者数は8000万人を超え、800億におよぶ月間PV数、そして1日あたりのデイリーリクエスト数(発生するデータ量)は2000億以上になります。これらのデータをグループ内で閉じるのではなく、多くの企業や自治体、研究機関などでもデータを活用していただきたいと思っています。」

ヤフー株式会社執行役員・CDOの矢口博基氏

 データソリューション事業のビジョンとしては、「マーケティングだけではなく商品企画・開発など全てのビジネスプロセスに貢献する」「ヤフーと顧客の1対1の関係だけでなく、事業パートナーと一体になってエコシステムを作りながら価値を創造する」「大きな企業や自治体だけでなく、小さな企業や組織にも貢献する」という3つを掲げている。

 「このようなビジョンを掲げて“データの力で日本を元気にしたい”ということで事業を進め、3年が経ちました。この3年で、延べ1000を超える企業や自治体へサービスを提供してきました。売上も順調に推移して現在は数十億円に達しており、いずれは売上100億円を目指して取り組みを進めています。」(矢口氏)

データソリューション事業のビジョン

データソリューション事業の取引数の推移

データソリューション事業の売上推移

指定した店舗・施設への来訪者の動きを可視化できる新機能

 「DS.INSIGHT」では、ヤフーの検索データをもとに生活者の興味関心を可視化する「People」、ヤフーの位置情報・検索データをもとに特定エリアにおける人口動態や特徴検索などを可視化する「Place」、ヤフーの行動ビッグデータから人物像(ペルソナ)のライフスタイルや興味関心を可視化する「Persona」(オプション)を提供してきた。今回、このうちPlaceの新機能として施設来訪者分析機能を追加することが発表された。

「DS.INSIGHT」のラインアップ

 施設来訪者分析は、人流ビッグデータをもとに特定エリアにおける生活者の実態や動きを可視化するもので、指定した店舗や施設への来訪者を「商圏エリア」「店舗外行動」「来店者数」「来店頻度」の4つの切り口で可視化する。対象となる店舗は全国のスーパーやコンビニ、ドラッグストア、ホームセンター、飲食店など約80万施設となる。

4つの新機能を追加

 「商圏エリア」は、店や施設に来訪した人々の居住エリアをランキングで表示する機能で、「どのエリアからの来訪者が多いか」「想定とどの程度ずれているか」といった傾向を掴める。

居住エリアをランキング表示する「商圏エリア」

 「店舗外行動」は、特定の店や施設に来訪したユーザーが他に訪れている店や施設をランキングで表示する機能。店舗間や観光スポットでの動線を明らかにすることで、他店舗への流出や流入の傾向をすばやく発見できる。

ユーザーが他に訪れている店舗が分かる「店舗外行動」

 「来店推移」は、店や施設への来訪者数の性別や年代が分かる機能で、観光エリアでの集客状況の確認や施設の効果測定などに活用できる。

来訪者数の性別や年代が分かる「来店推移」

 「来店頻度」は、指定した店や施設への来店頻度が分かる機能。訪問回数ごとの属性など、購買データでは拾いきれない来店傾向が分かり、未購買者を含む来訪者全体の傾向を把握できる。

お客の来店頻度が分かる「来店頻度」

 これらの機能はDS.INSIGHTの基本料金内で利用可能となっている。POSデータだけでは分からない来訪者数や属性を可視化することで自店舗の改善を行ったり、来訪者のリピート数や住居エリアなどを分析することで販促施策などに活用したり、競合他社や他業界の来訪者情報を把握するのに役立てたりと、さまざまな使い方が可能だ。

 ヤフーのデータソリューション事業本部にて本部長を務める村田剛氏は以下のように語る。

 「特徴的なのは、自分たちの店舗だけでなく、競合店や近くにある集客力のある店舗も分析できることです。これにより、自分たちの店舗では集客できていない顧客層を把握できます。例えば『自店舗では男性が多く集客できているが、女性は弱い。一方、近くの店舗では女性をうまく集客できている』といった場合、女性向けの販促施策をどうすればいいかを参考にすることができます。この機能は基本料金内で利用可能なので、この機会にぜひ小売や飲食業界の方にご利用いただきたいと思います。」

ヤフー株式会社データソリューション事業本部・本部長の村田剛氏

ビッグデータ分析に活用できるデータセットに新製品「人口統計データ」追加

 さらに、同社はビッグデータ分析に活用できるデータセット「DS.DATASET」の新製品として、「人口統計データ」を10月5日に提供開始した。膨大なビッグデータを分析しやすいようにテーマ単位に加工・集計したデータセットだ。特定テーマごとにテーマを抽出し、類義語や表記揺れにも対応したうえで、データ可視化・分析ツールにすぐに利用できる。

「DS.DATASET」のラインアップ

 人口統計データに含まれるデータセットは以下の8種類で、要件に合わせたカスタマイズも可能だ。

  • メッシュ人口統計
  • 流入者 人口統計
  • 流出者 人口統計
  • From To 統計
  • 在宅・外出傾向 統計
  • 滞在者検索 動向
  • 高速道路区間 通行スコア
  • 来訪者 移動手段スコア

「人口統計データ」で提供するデータセット

 データセットの活用法としては、観光施策などの効果測定に役立てたり、スマートシティ推進のための情報を可視化したりできるほか、滞在者属性や時間別・地域別の人流状況を把握できるため、立地評価に関する参考データとしても活用できる。また、アカデミックなど研究用のデータとしても活用できる。価格は月額50万円~で、エリア範囲や抽出期間など要件に合わせて対応する。

 すでに活用された事例として、村田氏は神戸市役所の事例を挙げた。神戸市では、三宮の再整備事業にあたって人流を中心とした街の現状を把握する必要があり、街の状況を定量的かつ継続的に明らかにすることで再整備事業に伴う施策効果を検証することを目的として、定点観測のための人口統計データを使用した。

 使用したのは、対象エリアに対してどこから人が来て、どのように動いているかを調べるために「流入者 人口統計」と「From To 統計」、来る理由がどこにあるのかを調べるために「滞在者検索 動向」の3つのデータ。なお、神戸市では今回のデータ利用をきっかけに、三宮都心再整備課だけでなく、それ以外の部署でも人流ビッグデータの活用を推進しているという。

神戸市にて都市整備事業に活用

位置情報×検索データによる需要予測技術など、保有特許をパートナー向けに提供

 村田氏は最後に、データソリューションサービスを活用して顧客へ各種ソリューションの提供を検討している企業向けに、ビジネス/マーケティング支援の無償プログラム「ソリューションパートナープログラム」を10月上旬に提供開始すると発表した。

 パートナープログラムのメリットとしては、ヤフーのデータを活用するためのセミナーやトレーニングプログラムを受講できるほか、パートナーの商用サービスにヤフーのビッグデータを活用できるようになる。また、ヤフーが持つ100以上の特許の一部をパートナー向けに提供する。

 利用できる特許の例としては、位置情報と検索データを組み合わせて需要予測を行う技術に関する特許や、地図上でヒートマップを使って商圏分析を行う技術など。

パートナープログラムのメリット

利用可能な特許の例

 ソリューションパートナーへの参加にはウェブからの申し込みが必要で、まずはプログラムに参加したうえで、ソリューションパートナーに移行するというステップを踏むことになる。ソリューションパートナー契約については、現在、多くの企業との契約締結が進行中で、「すでにいろいろな会社様にお声がけしておりまして、いずれも非常に前向きなご回答をいただいています」(村田氏)とのこと。業種としては、分析・可視化構築ベンダーや都市開発コンサルティング事業者、観光コンサルティング事業者、データコンサルティング事業者など、幅広い事業者がパートナーが参加する見込みだ。

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