ちょ、ちょっと待って! そういう伝統芸があるというのは知っているけど、服が菊って、なんか変じゃないか。どうしてそんなことをする必要があるのだろうか。
いや、別に必要性に迫られて、ということでもないだろうか。でも、服が菊って……。やっぱり気になる。
前々から気になりつつも、実際に目にしたことはなかった菊人形。ちょうど10月から11月にかけては菊人形のオンシーズンなので、そのたたずまいを確かめてきました。
※2006年11月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
謎のたたずまいに迫る
服が菊になってる人形、菊人形。そう聞くとあっさりスルーしてしまいそうになるが、一度「待てよ…」と立ち止まるとどうもおかしい。なんせ服が菊だからだ。
夜、布団に入って、気がついたら菊人形のことを考えていたこともあった。ちょうど季節は菊真っ盛り、今回は茨城県笠間市と福島県二本松市で行われている菊人形を見に行った。
写真はともかく、本物は初めて見る。長年の間、心の中でうずまいていた菊人形に対するわだかまりを解く旅でもある。
まずはそれぞれのエントランス部分を見てみよう。
おお、なかなか見事ではないかと思いつつ、両者とも譲らず強力なパンチを繰り出してきたな、とも思う。当たり前かもしれないが、のっけから菊人形だ。
予想していた通り、服が菊。
期待を裏切ることなく服が菊だ。きれいだとかファンシーだとか、一つの端的な言葉で表すことのできない趣がある。
それぞれでもらったパンフレットを見ても、菊人形の発祥などは書かれていない。個人的に少々調べてもわからなかった。そういうことにはこだわらなくていいのかもしれない。
しつこいようだが、服が菊。そういう人形が目の前にたくさん並んでいる状況というのを受け入れたい。
それぞれの菊コーディネーション
この二つの菊人形イベント、テーマが2006年のNHK大河ドラマ『功名が辻』であるという点が共通している。どうやら大河ドラマは菊人形のモチーフとして定番であるらしい。
戦国武将・山内一豊と、その妻・千代を主人公としたこの物語。まずは一豊から見てみよう。
史実ではどんな風貌だったのか知らないが、それなりに隔たりがある感じの2人の一豊。一般的なハンサム尺度からすると、やはり二本松の方に軍配が上がるだろうか。
そしてその妻、千代も作風は同じように見て取れる。
あくまでシンプル、ともすれば菊に埋もれているかのようにも見える笠間に対し、豪華絢爛な二本松。表情にもうつろさと上昇志向とが読み取れて、なかなか対照的だ。
これら菊人形たち、記事をご覧の方はどのように受け取っていらっしゃるだろうか。いろいろな見方があると思うが、取材に同行した知人は、ずっと「怖い…怖いよ…」と言っていた。
そうかもしれない。一度「菊人形は怖い」のスイッチが入ってしまうと、そうとしか見えなくなるのかもしれない。
中でも特に怖い感じがした菊人形。開花時期がずれているのか、菊が咲いてない。顔の取り付け方にも微細なことにこだわらない自由さが表れていると思う。
怖いけど、つい見ちゃう。何が気持ちを惹きつけるのだろうか。
「菊人形ができるまで」と題されたコーナーに展示してあったものもなぜだか怖かった。
内部はこんな風になっているんだな、という関心よりも、スケルトンなホネホネボディに首と手足だけがついているというインパクトの方が強い。早く菊を着てほしい。
主人公である一豊の妻、千代にもこんな菊人形があった。一豊の暮らしは経済的に困窮していて、まな板すらちゃんとしたものがなかったらしい。そのため千代は枡を逆さにしてまな板代わりにしていたというエピソードだ。
そんないい話なのに、このよくわからない迫力はなんなのだろう。
菊人形から目を逸らし、菊そのものを普通にめでよう
それぞれは菊人形を展示しているのだが、人形にしていない菊の展示もあった。
この日のために菊を育ててきた人たちの作品がずらっと並ぶ。あまりまじまじと菊を見たことなどなかったのだが、じっと見ているときれいだなと思ったりして、うっかり老境っぽい気分になった。
中でもすごいと思ったのがこれだ。
下の表示を見るとわかるが、1700以上の花がドーム状になって咲いている。千輪咲きと呼ばれる育て方らしい。よくまあこんなにきれいに並べたもんだと感心させられる。
と思ったのだが、単にそういうわけではないのだ。
説明を読んで驚いた。たくさん並んだ菊は、全てひとつの茎から咲いているものであるらしい。下の方に潜りこんで確かめてみると、確かにそうだ。
菊、すげえ。うっかり老境という感じではない、本気の驚きだ。
コミカル部門もあるよ
先ほどはホラー部門とも言える菊人形を紹介したが、それとは反対に、なんとなくおかしみのあるものも見られた。傾向としては、シリアスな場面ほどそうなるように見える。
上の写真、一豊に矢が当たったという戦の一場面なのだが、なぜだか緊迫感は感じられない。右の写真も戦での一豊だが、どうなっているのだがわからないポージングに見える。
なぜだろうか。やはり菊はシリアスなシーンを再現するには向いていないのか。
本能寺の変で窮地に陥る信長を描いた場面もあった。かなりのピンチだと思うが、やはり服が菊だ。まずはそれに気づくべきだ。
それぞれ見事だと思いつつ、つい突っ込みたくなるような隙も垣間見える菊人形。若いカップルのみなさんも、変化球デートとして楽しめるのではないかと思う。