漆黒と金のコントラスト。
天才時計職人、ヨハン・ハインリッヒ・モーザーの名を冠したH.モーザーは、2002年に復興を果たして以来、複雑機構を取り入れたレアな時計コレクションで人気を集めるブランドです。
19世紀のスイスに生まれたヨハン・ハインリッヒ・モーザーは、ロシアに移住していた時期に、当時の皇帝のための宝飾時計を製造して名声を得ました。スイスに戻ってからも、いわゆるグランドコンプリケーションと呼ばれる複雑時計の製造を手掛けつつ、スイス初の水力タービンを利用した発電所を建設するなど、地場産業に大きな功績を残した人物として知られています。
豪奢なトゥールビヨン
現在のH.モーザーも独自性の高いコレクションをラインナップしていますが、新作の「ストリームライナー トゥールビヨン」は、そのなかでもかなり飛び抜けたモデルです。ムーヴメントはモデル名が示すように、姿勢差による時刻のズレを解消するために中空に浮いたような構造を採用したフライングトゥールビヨンを採用。近年は3DプリンティングやCAD技術の発達で、数十万円クラスでもトゥールビヨンを搭載している時計はありますが、H.モーザーともなると作り込みの繊細さが段違いです。
外装はポリッシュとサテンをうまく使い分けたレッドゴールド。そしてこのモデル最大の特徴と言えるのが、ベンタブラックの文字盤です。
最も黒い物質を使ったダイヤル
ベンタブラックとは、カーボンナノチューブ由来で光を最大99.965%を吸収する物質。人工的に製造された物質では最も黒いとされています。ダイヤルはあまりにも漆黒で、ブラックホールのように吸い込まれそうな妖艶さ。加工の難しいベンタブラックに、インデックスを載せた技術力も素晴らしい。
ゴールドケースとベンタブラック文字盤のコントラストは非常に効果的で、過去に発売されていたステンレスのストリームライナーよりもゴージャス感は数段アップ。工芸品としての極みを感じさせます。
特に限定モデルだとは発表されていませんが、H.モーザーの全年間製造数が1,500本程度ですし、このモデルは製造に非常に手間がかかることを考えると、多くは作られないでしょう。価格は1677万5000円。溜息をつくほかありませんが、お財布に余裕がある人はぜひおひとつ。
Source: H. Moser & Cie