新卒採用のサマーシーズンが終わった今、企業が優秀な学生を確実に採用するためには、どのような対応を取るべきでしょうか?秋冬の就活戦線に向けて、コロナネイティブ学生の就活傾向と企業の対応について、Google人事部で新卒採用を担当していた草深生馬氏(くさぶか・いくま/現RECCOO CHRO)が解説します。
早期層と後発層に二極化する2024年卒
2020年卒、2021年卒採用の頃から、就活に大きな混乱を招いているコロナ禍ですが、今、ちょうど就活中の2024年卒の学生に至っては、入学した当初から授業もオンライン化が当たり前、課外活動にも制限があり、就活などで役立つ生きた情報に接する機会に乏しいといった、前の世代との断絶が明らかな世代となっています。
授業はオンラインなので、教授やクラスメイトにはディスプレイ越しでしか会ったことがないし、サークル活動、アルバイトなどの課外活動のチャンスもほとんどありません。そのような状況下で、コロナネイティブと称される2024年卒の学生たちは、就活をスタートしました。
結果として、何らかのきっかけによって早くから就活に取り組み始めた早期層と、就活の開始時期や取り組み方などをそもそも知らず、スタートが遅れた後発層に大きく分かれてしまっています。特に、やはり早期層には優秀層、つまり、偏差値上位校の学生が多く含まれています。
断絶の世代とはいえ、彼らは自分自身でアンテナを高く張り、早いうちからインターンに参加したり、先輩からアドバイスをもらう機会を得たり、企業からのアプローチを受けたり、と就職活動を早く始めるきっかけを掴んでいます。結果、今年のサマーの時期に積極的にインターンやイベントに参加したという現状です。
早期層と後発層の比率は3:7、後発層にも優秀な学生が存在
就活の早期化は今に始まったことではなく、早期層と後発層に分かれる動きは私が就活をしていた10年以上前でも見られた傾向でした。昨今はその傾向がより強くなり、積極性のある優秀な学生を採用するには、企業側は早い時期からアプローチしなければいけない、と言われ続けています。
ただ、2024卒に関しては、コロナ前よりも早期層と後発層の比率の差が大きく開き、後発層により大きなボリュームが偏っています。その結果、コロナ前であれば早期に動き出していたような優秀な学生も、後発層には多く存在する玉石混交の状態になっている。それが2024年卒の大きな特徴の一つです。
サマー以降も逆転の可能性が。10~12月は企業にとってチャンス
就活のサマー期は終わりましたが、上記で説明した通り、2024年卒の早期層、つまりサマー期にアクティブな活動をする学生は例年より減っています。逆に企業側は、外資、ベンチャー、大手も同時に6月あたりから動き始め、その結果、優秀な学生の争奪戦が激化したようです。
ただ、すでに説明したように、2024年卒は後発層の学生数が多く、しかもその中に優秀層も含まれているので、企業側にとっては、秋冬の就活戦線にしっかり取り組めば、これからも優秀な学生に出会える可能性が、例年以上に高いと言えます。
サマーの時期に予想通りの集客ができて、応募者の母集団を形成できた企業もあれば、それが叶わなかった企業もあるでしょう。まず、学生の母集団を形成できた企業にとって現時点で大切なのは、彼らへのフォローを忘れないということです。
こちらのデータは、「第一志望企業との初期接点時期」についての2023年卒のデータです。約45%の学生が「2021年8~9月」以前、つまり3年生のサマーまでに出会った企業が第一志望になったと回答しています。つまりこの夏に母集団を形成した学生の半分近くが第一志望と捉えてくれるポテンシャルがあるので、そのケア、フォローが重要になります。
一方、その直後の「2021年10~12月」は、17.8%と一番高くなっています。これは、学生が企業に対してより積極的な姿勢で「選ぶ機運」が高まるタイミングと解釈できるかもしれません。サマーインターンなどを通じて、多くの企業と触れ合い、自分の就活の軸が定まる。その上で改めて出会った企業が一番しっくり来た、ということなのでしょう。
つまり、サマーにしっかり母集団を形成できなかった企業は、10?12月は学生側の心の扉が開き、思考の軸が固まる時期なので、いいメッセージ、いい体験を届けることができれば、むしろこの時期の方が学生たちのハートを掴みやすいという、逆転のチャンスもあり得るのです。
逆に、サマーに母集団を形成できた企業も、秋冬の時期に翻意される可能性もあるので、繰り返しになりますが、フォローを忘れないようにしましょう。
秋冬は、早期層学生が意思決定をする時期
それでは、秋冬の時期に、サマーで軸の固まった学生たちのハートをどのように掴めばよいのでしょうか?
就活のフェーズ別に、そのタイミングで参照する情報源について調査した結果があります。それによると「内定承諾」という意思決定の時点では「OpenWork」という企業ごとの口コミ情報を紹介するウェブサイトが上位に入っていました。
サマーまでに企業のイベントに参加し、人事やリクルーターに会って、話をする。その後、OpenWorkで実際に働いている社員による企業のいい面、悪い面を含めた口コミを参考にして、最終的な意思決定をする、という流れだと考えられます。
採用のためのHPや動画をきれいにリニューアルしたり、リクルーターを使って企業の魅力を訴求するという、いわば「表面を整えた広告的なコミュニケーション」は、意思決定の時期には、もはや意味をなしません。秋冬は学生にとっては意思決定の時期です。企業は、むしろ、生々しい部分も隠さずに伝え、全て理解した上で選んでほしい、という態度を取った方が、学生のハートを掴むことができるでしょう。
絞った「つもり」の業界を、秋冬に絞り直す学生が出てくる
こちら「就活の各フェーズの時期について」は、2024卒の学生を対象に今年の6月に行ったアンケートデータです。すでに説明した通り、業界や企業を絞るタイミングが例年より早まっている傾向があるのですが、業界選択で言えば、夏のインターンシーズンより前に、なんと半数以上の学生が志望する業界を絞り込んでいるのです。
2023年卒以前の学生にとって、夏は出会いの時期、つまり色々な業界、企業を知るための時期で、企業はランダムに多くの学生と会うことができました。ところが2024年卒の早期層は、「自分はこの業界に興味があるから、この業界の夏のイベントに出る」と先に業界を絞ってイベントを選ぶ傾向が強く見受けられたのです。
ただ、私たちから見ると、絞った「つもり」になっているだけで、個々の学生は、絞った理由や将来的に自分が何をやりたいかを深く思考できていないケースも多くあります。
もちろん、絞った企業のイベントに参加して、意思がさらに固まったというケースもあるでしょう。しかし、実際には参加したインターンで新しい発見があり、それまで見えていなかった世界に触れ、「本当にこの業界でいいのか?」、「しっくりこない」、「もっと色々なことを知らなきゃダメだ」と感じた学生も多いはずです。
つまり、絞ったつもりの企業インターンに参加し、企業側からの評価を得られたからと言って、承諾の意思までは固まっておらず、むしろ、サマーの体験によってその「つもり」の感覚が容易にブレる可能性があるのです。そういった理由から、秋冬に業界を絞り直す学生たちも多く出てくると予想されます。企業も改めて学生の視野が広がるような体験提供を通し、学生たちの企業選びを支援する姿勢で取り組んでいただきたいと思います。
草深 生馬(くさぶか・いくま)
株式会社RECCOO CHRO
1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやコンサルテーションを実施。
2020年5月より、株式会社RECCOOのCHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は、スタートアップ企業の組織立ち上げフェーズやや、事業目標の達成を目的とした「採用・組織戦略」について、アドバイザリーやコンサルテーションを提供している。