これです。電柱広告
普段注目しない電柱広告。注目しないからこそ、地図や検索では出会えないその土地の見どころを教えてくれている可能性がある。
この仮説を胸に、東京の台東区谷中を観光して五箇所のスポットを巡った。大満足の様子をレポートします。
ワクワクしてきたな
家の近くの電柱に『はちみつ専門店』の広告があった。
特徴的なお店が近所にあるのに全然知らなかった。そしてそれを教えてくれたのが電柱広告というところにグッときてしまった。
電柱広告ってちゃんと見ないけど、地図、検索、口コミ、どのネットワークにも引っかからない貴重な情報を教えてくれている可能性がある。
あ、ワクワクしてきたな。電柱広告しか見ちゃいけない観光をしてみよう。
場所は谷中
観光する場所は、担当編集の藤原さんにGoogleマップで下見してもらった(僕は現地の電柱広告しか見ちゃいけないというルールにしたので下見ができない)。
電柱の地中化があまり進んでいない地域で、飲食店や雑貨屋さんなど、色んなお店の広告がありそうな地域がいい。
谷中銀座という歴史ある商店街があり、散歩のスポットとして有名な場所だ。普通に観光がしたかったら良いお店を紹介してくれるサイトやガイドブックはたくさんある。
しかし今回は電柱だ。電柱に良いお店を紹介してもらう。電柱の方はどうか知らないが、こちらはそのつもりだ。
don’t think
何の下調べも無い。スマホも地図も見ない。電柱広告しか見ちゃいけない。
病院の広告が多い
とりあえず電柱を見つけたら寄って見て、また別の電柱を探す。鳴く場所を探すセミのように。
そもそも電柱広告というものが、その場所を繰り返し通る地元の方をターゲットにしていたりするので、広告を出すのも病院とか教室が多い。
でも今日は、雑貨屋さん、喫茶店、定食屋さんとかの電柱広告を見たい。
フラッと入るのも迷惑と思って、周辺と外観の雰囲気だけ楽しませていただいた。街のアイコン的な質屋さんなのかもしれない。
一箇所目、カフェでコーヒー飲む
さて、そろそろお店に入りたいなと思ったところでカフェの電柱広告を見つけた。
電柱広告だけを頼りに目的地に行くのって初めてだったのだけど、何の問題もなく着いた。
地図を見ると目的地周辺の道路やお店を覚えたりするが、電柱広告には「この先」という最小限の情報しか無い。知らない街のことを依然知らないまま歩くのは楽しい。
お店に入ったら併設しているお土産やさんが開いていて、カフェの営業はまだだった。
「なるほど、まだだったか」という僕のそぶりを察したご主人が「カフェですか? コーヒーだけだったらいいですよ」と言って早めに開けてコーヒーを出してくれた。
この優しさも相まって何だかすごくおいしく感じたし、気持ちが落ち着いた。ありがとうございました。
電柱以外も楽しい
電柱を見てお店に入る。この経験ができたところで焦る気持ちも無くなって、悠々と谷中を散策した。
予定も目的地もその場の電柱次第なので、道も時間も気にせず、身の回りにあるものをじっくり見られる。
ここで、電柱以外の小さい見所をまとめて紹介します。
開いてるお店に当たらない
このように散歩自体は楽しいが、おもしろそうと思ったお店がことごとく閉まっていて大変だった。電柱広告は営業日や営業時間まで書いていない場合が多い。
何があったんだろう。お節介ながらハラハラする。
しかしお休みのお知らせばかり見ていたらお昼の時間になってしまった。お腹空いた。
二箇所目、お昼ご飯食べる
『精養軒』とある。ラーメン屋さんか中華料理屋さんかな、と思いながら電柱に従ってフラフラ歩く。
『上野』って書いてあるけど確かにここって上野も近いよなー。千葉にあるけど東京ディズニーランド、みたいなことかな。それくらいに思っていた。
住宅街っぽい路地になってきて、こんな場所に中華屋さんがあるのかなと思いながら、広告がこっちだと言うので従って歩く。
歩くと少し先にまた広告があって歩く。注文の多い料理店に来た気持ちになった。疲れたところで衣付けて食べられちゃうのかもしれない。
今回の観光で電柱の無いエリアに来てしまうのは本当に困る。精養軒はどこにあるんだ。
知ってる。ここは上野だ。電柱広告にこっちこっちと誘われて上野に来てしまった
電柱に化かされたような気持ちになったが、ここまで歩いたら何が何でも精養軒に行きたい。
今までの道のりを思い返すと、電柱が無くなったエリアの左手の茂みは上野公園だったことが分かる。精養軒、その中にあって通り過ぎてしまったとしたら、と考えた。
早足で今度は上野公園を歩く。
あとで調べて分かったのだけどここは精養軒ではない。看板の向こう側に精養軒があったのだけど、その少し手前の建物を僕は精養軒と勘違いした。
本当はここは韻松亭という日本料理屋さんだった。
精養軒がどんなところか知っている方は、僕の中華料理屋という勘違いにじりじりしながら読み進めてもらって、やっと本物が出てスッキリするのかと思ったらさらに勘違いを重ねており、スマホを投げ飛ばしたい気持ちになっているかもしれない。
なんか谷中から上野に来てるし。
本当の精養軒は、明治5年に創業した日本におけるフランス料理の草分け的存在である。結婚式場や法事の会食会場として親しまれている(あとで調べて知った)。
すごいところだ。教養として知っておかなきゃいけない場所だった。
電柱広告だけ見て来た僕がフラッと行っても席は無かっただろう。
スマホを投げそうな方は、本当の精養軒でオロオロする僕を想像してどうか溜飲を下げていただければと思います。
三箇所目、生ビール飲む
『なんかたくさん歩いたし』『ビール売ってたから』この条件がそろったら飲んじゃう。精養軒を知らないわけだ。
ビールはご想像通り最高においしかった。たくさん歩いたから。
四箇所目、古本屋
空になったらカップをリュックにしまって谷中方面に戻る。
抜いても生えてくるのかな。
現実味の無い場所だった。空間が本で埋め尽くされていて大きな生き物の体内みたいに感じる。
特別本好きというわけでもないのだけど圧倒されて見入ってしまった。小説から図鑑、絵本、レシピ本までなんでもある。
五箇所目、まぐろの角煮買う
お土産を買えて、一通りやりたいことができた気がしてここで観光を締めた。
知らない街が、ずっと知らない街
電柱しか見ちゃいけない観光、結局コースはこのようになった。
場所:谷中周辺
カフェ ユエでコーヒー飲む
→ 散策
→ 韻松亭でお昼ご飯
→ 三河屋でビール飲む
→ 古書 鮫の歯で古本買う
→ 中野屋でお土産にまぐろの角煮買う
かなり無駄に歩いていることと、精養軒と韻松亭を間違えた点を除けばとても良いコースだと思う。
そして、地図的な情報を気にせず、今見ている景色だけに集中できたのがとても良かった。知らない街を歩く楽しさが損なわれずにずっとあるのだ。
この楽しさがあったから無闇にたくさん歩いてしまったというのもある。
電柱広告はとても良いお店を教えてくれたし、探して辿っていく過程がとても楽しかった。ジャングルを探検するみたいに街を歩ける。